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見えざる館の伝承者    作者: 花咲マーチ
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伝承者の策略<綺麗になりたい編>

 前回は私の力で解決できた。達成感だ。私は、優雅に紅茶を飲み、ショートケーキとモンブランを食べていた。

「史乃ー2つも食べてー太るよー」

「ふん。どうせ、死んでいるのだし、太るとかいう概念もないでしょう?」

「どうかなー?もしかしたら……」

「ないわね。黒板がもったいぶる時は大抵ないことだわ」

「そんなことないよ!ナビちゃんの扱い雑になってるよ!今回の選ばれし者のこと、教えてあげないよ!」

「へー。それで黒板は困らないわけ?」

「く……史乃の性格が悪くなってる。ナビちゃんの育て方が悪かったのかな!?」

「育ててもらってないわよ。早く情報を言いなさいよ」

「はあ。なんだか史乃がご機嫌だし、しょうがないから教えてあげるよ。今回の選ばれし者の名前は山吹百合(やまぶきゆり)。人形を作る仕事をしているよ。でも、3年前に事故にあって片目は義眼。作業はしづらいだろうけど、今も同じ仕事で生活しているよ」

 黒板は渋々選ばれし者の画像を出してきて説明した。アンティーク調の赤い壁紙に絨毯と、同じ系統の茶色いテーブル並んだおしゃれな部屋。そこに置かれたテーブルには等間隔に人形が飾られていた。派手なドレスをきたものや、着物をアレンジしたような衣裳を着たものなど様々な種類が置かれていた。見る人から見れば芸術的だが、価値のわからない私からしたらある種のお化け屋敷だ。進んで中には入りたくない。

「こんなに人形がたくさんいたら、どれが本当の人間かわからないわね」

「いやいや、人間はテーブルに座ったりしないから、立っているこの人が山吹百合だよ」

 画面に映る黒いドレスをきて、片目に眼帯をした女性を赤丸で囲んだ。人形たちと同じような服を着ていたため、どんな姿勢でいようが、私には区別がつかなかった。

「義眼、見せたくないのかな?」

「どちらかというと、宝物を隠してるって感じかも。これが私の大切なものですって公言する人なんていないじゃん?」

「それもそうね。さぞ綺麗な目なんでしょうね」

「ちなみにこれ」

 黒板は違う画面に切り替えた。そこに映ったのは眼帯を外した山吹百合。左目は紫色に妖しく光っていた。綺麗だと思うが、私は苦手だと感じた。

「ふーん。これがいいんだ。人の感性っていうのはわからないものね」

「史乃はお気に召さなかった?」

「うん。人形が苦手なのかもね。彼女の目、自分で作った作品の目なんでしょ?」

「よくわかったねー。そうそう。山吹百合は、失った左目に人形の瞳を入れた。その結果、人形の美しさに囚われて人間にも施そうって思ってしまったみたいだねー。仕事への活力は戻ったみたいだけど」

 私は山吹百合について1通り情報を得ると、本(でんしょう)を読み始めた。


 タイトル『美』

 実にシンプルだ。私はページをめくる。そこにはこう書かれていた。

 昔昔、美しさを追い求めた人がいた。しかし、その人物の中で、納得のいく美はなかなか手に入らなかった。ある日、知人から偶然もらった人形を触れた瞬間、これだと思ったそうだ。なめらかな肌触りにシミや皺、ほくろなどのない完璧な顔。これぞ追い求めたものだと歓喜し、人形のような肌になれる白粉を作ってしまった。その人は、白粉を売り出した。初めは売れなかったが、1人が効果を実感すると、次から次へと売れていった。だが、問題が起きた。顔だけがぐちゃぐちゃになった死体が発見されたのだ。傍には白粉があり、その粉のせいだと騒がれた。使用を中止するよう知らされたが、時すでに遅し。女性たちの顔は瞬く間に朽ち果てて行き、見るも耐えない姿になっていった。成分こそは不明だが、人間に人形の美を当てはめるべきではなかった。

 これはドールの白粉パウダーと私が勝手に名付けた。当時の物をアレンジして作った物だ。もし同じような過ちを繰り返す者がいたならば渡してほしい。自らの間違いに気づいた上でこれを使えば、道を正してもう1度歩める。でもそうしなければ……


 伝承はこれ以上読めなくなっていた。文字が滲み紙が劣化してしまったからだろう。この先にはきっとよくないことがかいてあったに違いない。しかしわからない以上、警告のしようもないわけだ。

「黒板。この先の文字は何て書いてあるの?」

「それは知らないよー。本の中に出てくる抽象的に言われているものとかの特定はできるけど、読めなくなってしまった所を複製することは不可能なんだよ」

「伝承者が不便に思うことがないようにするのが、あんたの役目なんじゃないの?」

「ナビちゃんにも、限界があるって今知ったよー」

 本には関与できないということか。仕方がない。何が起こるかは賭けだが、山吹百合が、心を改めてくれればそれでいいだけのこと。でも、

「何となく、彼女は信用できないわ」

 今まで会ってきた選ばれし者たちとは違う気がした。警告なんて意味を持たない。そう思った。

「じゃあどうするー?ナビちゃんの力が必要かなー?」

「そうね。黒板、一定時間だけ形を保てる偽物と、道具を使用したら私が作ったシナリオ通りになる薬、この2つを用意できるかしら?」

「かなりご都合主義アイテムだね。だけど、お任せあれ!今すぐ作るから、その間に、何でこの2つが必要なのか聞いてもいい?」

「もちろんよ。さっき、山吹百合を信用できないって言ったじゃない?」

「そうだね」

「だからこれは保険。彼女が本にある通り、心を入れ替えるというのなら、ドールの白粉パウダーはそのままの力を発揮する。でも、これを使って施術しようと考えたら、他人に入れ物を壊して粉をまいてもらう。どうなるかはわからないから、結果を見てすぐにシナリオを考えて、そしてすぐに薬もまく。偽物を用意するのは山吹百合を試すためよ」

「なるほど。ということは、2号ちゃんを派遣するってことだね。それで壊してもらうと」

「いいえ。壊すのは被害者の誰か。初めは気がつかなかったけど、この店の商品って、元は人間なんでしょ?人と区別がつかなかったのは、そもそも人形ではないからなんでしょ?」

 店内を見た時の違和感。人形を売っているのに、人形には見えなかった。だから不気味だったし、美しいとも思えなかった。人形の美を人間に投影しているのなら、彼女の施術を受けた人の末路なんて想像がつくというものだ。

「頭が冴えているねー。そう。昔は人形だったけど、今は大半が元人間。山吹百合の美容整形は、人形のパーツを人間に取り付けるというもの。これを繰り返し、人形にしていくんだよ」

「だったら、行方不明扱いになっているってことじゃない。探している人もいると思うわ。その人に壊してもらいましょう」

「じゃあ、この店が犯人だって突き止めた人に、景品としてドールの白粉パウダーをあげるってことだね!なんか、競争するみたいでワクワクするよ!」

「遊びじゃないんだから……というか、準備はできたのかしら?」

「もっちろん!この優秀なナビちゃんにかかれば、あっという間だよ!」

「はいはい。私は2号ちゃんに説明をしてくるから、できたものはカウンターに置いておいて。あと、説明を終えたらすぐに選ばれし者を呼んでちょうだい」

「あしらわれた……もっと構ってよー!」

 黒板の声には耳を貸さず、私は2号ちゃんの元へ向かった。

 

 


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