伝承者の策略<精草編>
最近、自分自身が気に入らない。理由は一つ。
黒板の言いなりになっている気がするからだ。
前回だって、神が絡んできているとはいえ、もう少し自分にもなにかできたはずだと思ってしまう。思考停止して黒板に助けを求めるなど、私ではない。悔しい。
「史乃ー!」
「ストップ!」
「ええ?!どうしたの?」
「選ばれし者が見つかったんでしょ?余計なことは話さなくていいわよ」
「いや、まだ何も言ってないんだけど……」
「うるさいわね。さっさと情報を寄こしなさい」
「え、本当にどうしたの?女王様キャラにでも目覚めたの?」
「どうでもいいから早く!」
黒板のペースには乗らないと決めた。どんな内容だったとしても、私1人で伝えてみせる。
「えーと、選ばれし者は瑠璃田阿左美。高校生。最近、性犯罪の被害者になって引きこもり中。姉は性被害に特化した心理カウンセラー」
「そう」
そっけない返事をして本に目を通す。
「あのー史乃さん……?」
「静かにして」
さすがの黒板も驚いているようで、様子をうかがうように話しかけてきた。しかし無視だ。耳を貸せば言いなりになりかねない。私は本に没頭し、黒板の声を遮断した。
タイトルは『姫の大鋏』
昔、女性を性奴隷のように扱う酷い場所があった。女性たちは苦しみながら過ごしていた。しかしある日、我慢の限界に達した美しい女性、通称姫は、太い枝を切るための大きな鋏で男たちの性器を切り落とし始めた。彼女の行動は1人ではとどまらず、女性の扱いを改めなければ、やめないというのだった。姫1人では道半ばで終わったかもしれない復讐劇だったが、全女性が立ち上がり、姫を手伝ったらしい。その結果、女性たちは自由に生きられるようになったという。
この騒動の後、女性に酷いことをする者が現れたら、加害者の元に性器そっくりの植物が生えるようになった。この草は加害者のものと連動しており、切れば切り落とされ、引っこ抜けば、引っこ抜かれる。名もなきこれに名づけるなら、精草と名付けよう。
「なるほどね。で、伝える道具が姫の使っていた大きな鋏か」
「姫の大鋏って言うんだよ!」
「知ってる」
「うっ……」
「でもリスクがすごいわね。被害者自ら加害者のところに行って精草を刈らないといけないなんて。うーん……」
「リスクっていうなら、加害者もだよねー。庭のある一軒家ならまだ安全だけど、アパートとか庭のない家に住んでいたら道端に生えているから、知らない人に引っこ抜かれたり、切られたりするからねー。見た目も結構気持ち悪いし」
加害者のリスクなど知ったことが。しかし少し考えこんだ。それでも考えはすぐに浮かんだ。
「そうだわ。姉が心理カウンセラーなら、彼女にやってもらえばいいわ。そうね。草を刈るから庭師ね。姫の庭師!瑠璃田阿左美の姉を正義の味方みたいな存在にすれば、全部解決ね!」
両手を叩いて喜びを表す。今回ばかりは完璧すぎて何も言えないだろう。
「史乃。自信満々のところ悪いけど、伝承が伝わってないよ?道具を使わせたところで、伝承を伝えていないんじゃ、意味ないけど」
「くっ!わかっているわ。ん?伝える……あ!」
私は思わず大声を出した。そして、薬品保管室に急いだ。
「うーん……常備されているものにはないわね。仕方ない。作るしかない!よし。瑠璃田阿左美の聞いたことが姉に脳内で伝達されるようにする薬を調合してちょうだい!」
調合のための黒い台に手をかざし、力いっぱい叫んだ。黒い台は白く光り輝いた。
「わあ!」
やがて光が止むと、小さな小瓶がポツンと置かれていた。
「できた。調合までできたわ!」
小瓶を片手にスキップをしてカウンターに戻る。
「おかえり。ごきげんだね史乃」
「まあね。だって、1人で調合もできたのよ」
「ぷっ。調合って、ナビちゃんが用意したんだよ?」
「な!確かに台が光って……!」
「テーブルに手をかざした瞬間に、ナビちゃんのところに史乃の考えが伝わるようになっているんだよ。光ったのも、史乃の思考回路からナビちゃんが瞬時に作ったからだよ」
考えは自分のもののはずなのに、なぜか悔しい。結局黒板の力を借りている。
「史乃、ナビちゃんの力を使わずに伝えようって必死だったんだね。調合の時に伝わってきたよ。伝え方は1人で考えたんだし、誇っていいんじゃない?今回は1人でできたって」
「ふん。慰めはよしてよ。最後にはおいしいところを持っていくんだから。まあいいわ。あんたの言う通り、作戦は私のものだし、これに合わせて、黒板を利用したってことにしておけばいいものね」
「改めて聞かせてよ、史乃の作戦を」
「瑠璃田阿左美に調合した薬入りの紅茶をまず飲んでもらう。きっと、ここに来た瞬間、パニックになりそうだし。その後、落ち着いてきたら伝承を伝える。効き目のある30分くらいで話をまとめる。後は、薬の効果で姫の大鋏を実際に使う姉にも伝承が伝わるって算段よ。これなら瑠璃田阿左美のリスクもないし、新たな英雄の誕生に町は大賑わいだわ」
「瑠璃田阿左美の姉が姫の大鋏を使えば使うほど伝承が広がるってことか。さすがだね」
甲高い声の黒板ではなく、しっとりとした落ち着いた声の黒板だった。悔しいのだろうか?
「ねえ、黒板。もしかして……」
「悔しくないよ!ただ、ちょーと、寂しかっただけだよ!」
黒板の声が戻った。いつも通りじゃないと、調子は狂うなと感じた。だが満足だ。言いなりにならなった。影響力はまだわからないが、きっと大丈夫だ。
とても気分がよかった。伝承もうまく伝わる。そんな気がした。




