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見えざる館の伝承者    作者: 花咲マーチ
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伝承者の策略<不思議なほくろ編>

「2号ちゃん、ケーキ持ってきてー。」

伝承者である私、葉月史乃(はづきしの)には分身である2号ちゃんがいる。最近疲れてきたため、黒板に甘いものを用意してもらったのだが、取りに行くのが面倒で2号ちゃんにお願いすることにした。

「ちょっと史乃ー。2号ちゃんを召使い代わりに使うのやめなよ。それように作ったんじゃないんだからさ。」

「えー?でもいいじゃん。ケーキ運んでもらうだけだよ。」

「ダメだよ。というか、2号ちゃんは今外出中だよ。」

「はあ?!外出?!!どこ行ったの??」

分身である2号ちゃんが勝手にどこかに行くなんて……

「反抗期かしら……?」

「時々史乃って、すごく馬鹿だよね……」

「うるさいわね。で、どこに行ったのよ。」

「2号ちゃんには今回の選ばれし者の周りの調査に行ってもらっているよ。」

「調査?」

「そう。今回はこれだよ。」


黒板が用意した(でんしょう)には、

『不思議なほくろ』

というタイトルが書いてあった。

「えっと、いじめを受けている人間の頬にはスペードの形をしたほくろが出現する。そして、いじめがエスカレートする度に大きさは大きくなり、被害者のピンチを知らせる。このほくろは、昔いじめを受けていた少女のいじめがなくなるようにという祈りからできるようになったと言われている。」

見えないいじめを見える化したということか。確かに助けを求められない人もいるのかもしれない。このほくろが、いじめを受けていると全人類が知っていたなら、被害者を助ける可能性が高くなるということだろう。

「この伝承が広がれば、いじめというのもなくなるかもしれないわね。」

「本当にそう思う?」

「え?」

「被害者に気が付いたとして、無関係の人間がその人に手を差し伸べると思う?ナビちゃんは思わないな。ナビちゃんならスルーするよ。だって関係ない人だから。」

「で、でも、親とかなら?親ならそれを見て対処するんじゃないの?」

「この伝承を残した人物は、親にも教師にも見向きもされなかった。世の中にはそういうやつもいる。たとえほくろがいじめられている証であっても、それを気にする親や教師でなければ意味がないんだよ。」

「そんな……」

今日の黒板はいつもに増して冷たかった。まるで、経験したことがあるかのように。

「ねえ黒板。話は変わるけど、なんで2号ちゃんを調査に向かわせたの?」

「ああ。伝える道具を見てみて。」

そう言われ道具を見る。革でできた箱にはスペードの形の焼印が入っていて、それともう一つ。封筒とペンが入っていた。

「今回は断罪道具だよ。封筒の中には加害者の名前を書く便せんが入っている。便せんに付属のペンで加害者の名前を書くと、道具の効果で架空の処刑場を作ることができるんだよ。そこで焼印を加害者の頬に入れる。すると加害者たちは処刑される。処刑場では首を切られるけど、実際の死んだ姿は自室のベッドで眠ったまま死んでいるよ。」

「断罪道具ってことは、使ったら被害者は死ぬってことだよね?」

「そうだよ。処刑された人間を見てパニックを起こす。架空の処刑場にはそういう効果もあるんだ。そして被害者自ら死を選ぶ。必ず。」

「被害者なのに……」

「2号ちゃんには、加害者の名前を調べてもらっているよ。なるべく被害者の傍にいていじめている人間をリストアップしてもらう。そして断罪道具の便せんに記してもらうってわけ。でもこれはあくまで、断罪道具を使用して伝えると史乃が決めた場合。史乃がこのやり方に納得しないのはわかっていたから、とりあえず選べるようにってことで先手を打たせてもらったよ。」

さすがは黒板だ。私の考えを見通したうえで、作戦を考えてくれた。最悪、私は黒板のやり方を選ばなければならないが、やれることはやりたい。

「黒板、架空の処刑場に連れてこられた人間は、処刑されなかったらどうなるの?」

「そうだなー。処刑場の効果は24時間。それ以上そこに留めておくことはできない。つまり、24時間経っても処刑されなかった場合、悪夢を見たということで終わるよ。」

「じゃあ、2号ちゃんが調べてくれている加害者リストを便せんに書いて処刑場へ連れて行く。でも処刑はしない。断罪道具といっても、片方は使っているから問題なんじゃないの?」

きっと、焼印を使うことで被害者は死んでしまう。ならば、便せんのみを使用して伝承を伝えられれば被害者は死なずに済むはずだ。

「史乃ってばさえてるー!そうだよ。断罪道具は今回2つ入っているけど、どちらかを使用すればいいんだよ。まあ、伝える力は弱くなるかもしれないけど。」

「それなら……!」

「ただし!選ばれし者がそれを望むならだよ。」

「どういうこと……?」

「選ばれし者が命なんていらないから復讐したいって思うなら、焼印を使ってもらう。でももし、復讐なんてしないって言うのなら、焼印を使わなくてもいい。」

「選ばれし者次第ってことね……」

「そういうこと。史乃が望むエンディングにしたいなら、選ばれし者を説得する必要があるよ。結構酷い目にあっているみたいだし。」

「やれるだけやってみるわ。選ばれし者を呼んでくれる?」

「わかったよ。検討を祈っているよ。史乃。」


最悪のエンディングは歩かせたくない。私の思いが、彼女に届きますように。


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