十一冊目〈不思議なほくろ〉
私の名前は蒼生祭。
現在、いじめを受けています。理由は分かりません。
首謀者も分かりません。
分かるのはただ一つ。学校に行けばいじめられるということだけです。
ある日は靴を捨てられました。この日はスリッパで過ごしました。
ある日は机に花を置かれました。死人が学校に来たと言われました。
ある日は裏校舎に呼び出され、複数の人たちに殴られました。とても痛かったです。
ある日はー
私のいじめは一つ一つ言っていったらキリがない程です。でも学校に行くのはやめません。やめれば、母を心配させるから。だから耐えるのです。タエラレルハズナノデス……
「うわ……アイツがきた。」
私の机に群がっていた生徒たちは、私が来た途端逃げていった。机には、マジックで「死ね」「消えろ」と書かれていた。また掃除をしなくては。
「ちょっと!いい加減にしなさいよ!」
私は掃除をしようと雑巾を取りに行こうとすると、一人の生徒が腰に手を当てながら逃げていった生徒に向かって怒り出した。
「毎日毎日恥ずかしくないの!?高校生にもなってホント信じられない!」
気の強い彼女は井深華離。彼女とは中学生からの付き合いだ。だからと言って庇ってもらうほど仲がよかったわけではない。
「井深さん。私を庇ったらいじめられるよ。」
「何言ってるのよ!いじめられている人を放ってはおけないわ。それに大丈夫!私、いじめてくる奴らをいじめ返すくらいのことはできる自信があるわ!」
「すごいね……私にはできないや。」
「なら、私が守ってあげるわ!」
「そんなこと……」
いじめを受けたのは今回が初めてではない。それなのになぜ、今なのだろうか。
「ねえ、なんで……」
「ほら、席に着けー。」
疑問に思ったことを聞こうとすると先生が来てしまい聞きそびれてしまった。まあいいか。
「今日は転校生を紹介する。自己紹介してくれ。」
「初めまして。二宮ニイナです。よろしくお願いします。」
ツインテールがよく似あう可愛い女の子が転校してきた。教室もざわつき始めた。
「静かにしろ。二宮の席は蒼生の隣だ。あの窓際の席。」
「はい。」
まさかの私の隣。確かに空いてはいるけれど。
「よろしくお願いします。蒼生さん。」
「よ、よろしく……」
彼女はきっと人気者になる。私もそうだった。だから彼女とは距離を取ろうと思った。
それなのに……
「蒼生さん、お昼一緒に食べませんか?」
「え……私と……?」
「はい。蒼生さんと私は言ったと思うのですが。ダメですか?」
「ダメじゃないけど、呼んでるよ?」
「ニイナちゃん!こっちで食べよう!」
「そうだよ。そんな奴と食べると飯が不味くなるぞ。」
「あの、私は本日が初日です。そのため、蒼生さんがどんな方かよく知りませんし、自分の目で見たもの以外、真実味にかけるので興味ありません。もし今日、一緒に昼食を食べたとしてあなたたちの言うことが正しかったら明日からは、あなたたちと食べようと思います。」
「そ、そう……」
あまりにも二宮さんがハッキリと自分の意見をいうものだから誰もそれ以上はいえなかった。
「蒼生さん、別の場所で食べますか?」
「あ、うん。」
「では移動しましょう。」
淡々とした態度に少し憧れた。しかし、私と二宮さんが移動する様子をクラスメイトたちは嫌そうな顔で見ていた。
放課後、私は呼び出しを受け、校舎裏にいた。
「お前、二宮さんに気にかけてもらっていい気になるなよ。」
「そうよ。少し変わってる子ってだけだから。てか、あんたが断ればよかったじゃん。」
「友達できたとか思ったんじゃない?こいつ嫌われてるし。」
「確かに!ウケる!」
「さて、転校生を独り占めする奴にはお仕置きしないとな。」
ああ。また殴られる。痛いけど、我慢しないと……
そう思った時だった。
「皆さん何をされているのですか?友人同士の交流というようには見えませんが?」
二宮さんが何故か校舎裏にやってきたのだ。
「い、いや、これは悪ふざけってやつだよ。」
「悪ふざけ?いじめの間違いでは?本人はとても嫌がっているように見えますが。」
「い、いや……」
「行こう。ニイナちゃん、あんたおかしいよ。」
「他者に合わせないからですか?それをおかしいと言うのは勝手ですが、随分と生きづらい生き方をするんですね。」
「はあ!?なによ!ちょっと!こいつも一緒に殴ってよ!」
「殴る?ボロが出ていますよ?田中茉里さん。」
「やばっ……てか私の名前……」
「逃げるぞ!!」
ぞろぞろと呼び出した生徒たちは逃げていった。
「大丈夫ですか?」
「二宮さんはどうして助けてくれるんですか?」
「愚問ですね。逆に、一緒になっていじめる人間の方が理解できません。」
「合わせないととか思わないの?」
「なぜですか?」
心から不思議な顔をした。本当にわからないのだろう。
「あー……いや、なんでもない。二宮さんはそのままでいいと思う。」
「そうですか。では帰りましょう。日が暮れます。」
「う、うん……」
表情は全く動かないが、この上ない優しさを感じた。
「私はこっちですのでまた明日。」
「うん。ありがとう。またね。」
二宮さんと別れ、一人で家を目指す。誰かと家に帰るなんて中学生以来だ。
「懐かしいな……」
と、独り言を呟く。すると、
「何が懐かしいんだ?」
「!?」
下を向いていた顔を上げると、そこは帰り道ではなく、見知らぬ屋敷の中だった。
「え?な、なに?」
「やあ。ようこそ、選ばれし者よ。私は伝承者・葉月史乃。」
「え、選ばれし者……?」
「いかにも。君は伝承を伝える力を持った人間だ。歓迎するぞ、蒼生祭。」
「本当に只者じゃなさそう……」
一気に場所を移動させたり、教えてもいない私の名前を知っていたり。普通はできないことだ。
「あの、私はどうすれば……」
「ふむ。物分かりがいいと言えば聞こえがいいが、君の場合、相手の言うことを聞いておけばいいみたいな感じがして嫌な気分だね。」
「な……!」
大抵、どうすればいいのかと聞けば、喜んで命令してくる人たちばかりなのに、彼女は特殊なようだった。
「まあいい。とりあえず君、今いじめられているのだろう?」
「え、あの、いや……」
「なぜ隠す?君は今辛いのだろう?ならば助けを求めればいいだろう?君には心強い味方である母親がいるではないか。」
「っ!!絶対ダメ!!母さんには内緒にして!心配かけたくないの!」
母親のことまで知っている理由は知らないが、母親に学校でのことを知られるわけにはいかない。
「君は母親に心配をかけたくないと言ったな。私には理解ができないのだよ。だって、手遅れになってからでは遅いだろう?」
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ。君の母親が、君のことを本当に心配しているのなら、今の君だって知りたいはずだ。それとも、君の母親は子供に興味のない親なのか?」
「そんなわけない!でも、心配かけたくないの!手遅れって言われてもわからないけど、私は母さんに迷惑も心配もかけたくないの!」
「はあ。話の通じない奴だな。まあいい。時期にいじめのこともバレる。」
「どうしてよ!?」
「ほくろだよ。君の右の頬にあるスペード形のほくろ。それは日に日に大きくなっていく。大きさは、君の助けを求める気持ちに比例する。そして今の大きさは、かなり大きくなっている。母親にも言われているのではないか?手術で取らなくてもいいのかと言われるほどに。」
「……」
確かに。高校になってからできた変わった形のほくろはどんどん大きくなっていって、今ではスペード形であると認識できるほど大きい。顔は大事だと母親には手術を勧められたっけ。
「私は助けなんていらない。3年間我慢すればいいだけなんだから。だから……」
「そうか。では今は話すことはないな。」
「は?ちよっと!」
葉月さんを引き止めようとしたが、屋敷と共に消え、気がつけば家に着いていた。
「お帰りなさい。」
「ただいま……」
「どうしたの?元気ないけど……」
「何でもないよ!それよりご飯何?」
「え?あ、今日はシチューだけど……」
「私シチュー好きなんだ。着替えてくるね。」
「ねえ祭。本当に大丈夫?辛いことがあるんじゃないの?お母さんは、そんなに頼りない?」
母の言葉に、全て話してしまおうと思ってしまった。でも、話したらきっと悲しむ。辛い思いだってするし心配だってすると思う。だから言えない。絶対に。
「うーん、実は今日小テストが帰ってきたんだけど、点数が良くなくて……それでショックだっただけ。」
「そう。点数なんて気にしないのに。祭はすごいわね。」
「えへへ。」
私はこの時間を守るために、残りの3年間、必ずタエテミセル。
次の日。登校途中で二宮さんに偶然会った。
「おはようございます。」
「あ、おはよう。」
「途中からですが、一緒に学校に行きましょう。」
「うん。」
誰かと学校に行くなんて久しぶりだ。少し心が躍った。
だがー
「っ!」
教室に入るなり、昨日校舎裏に呼び出した男子生徒が胸ぐらを掴んで、床に投げ飛ばした。
「何をしているんですか?」
「うぅ……」
「調子に乗りやがって!」
「うっ!」
倒れた私は男子生徒に好き放題蹴られる。
「あの、もはやこれは犯罪なのでは?」
「二宮さんは終わるまで外で待機ね!」
「わっ!」
二宮さんは、強引に教室から追い出されてしまった。私を助けてくれる人はもういない。助け?私、助けてほしいんだっけ?あれ?
「ちょっと!見苦しいわよ!」
「井深!」
群がる男子生徒を押し退け私の元に駆け寄ってきてのは、井深さんだった。
「大丈夫?ごめんなさい。守るなんて言っておいて、全然守れてないわね。本当ごめんなさい。」
「井深さんは……なにも悪くないわ……」
「とにかく保健室に行きましょう。そんな傷じゃ辛いでしょ?」
「お、おい井深……」
「先生たちにも言うわ。こんなの酷すぎるもの。あなたたちホント最低ね。」
井深さんの肩をかりながら私は保健室へと向かった。教室を無理矢理追い出された二宮さんとすれ違ったとき、二宮さんはかすかにこう言った。
「偽善者の皮を被った犯罪者。」
保健室で少し休んだ後、私は井深さんから教室にあった荷物を受け取り、そのまま帰宅した。
「痛っ……」
まだ傷口はかすかに痛む。
「まだ痛いのか?」
少し目線を道から逸らしただけだが、私はまたあの屋敷にきてしまったようだ。独特の話し方で、聞き覚えのある声がしたから間違い無いだろう。
「今日は何のようですか?」
「君に、伝承を伝えようと思ってね。今の君は精神が壊れかかっている。その状態なら、この話の重みだってわかるはずだ。」
「精神が?」
「君は助けなどいらないと言った。だが、無意識に助けを求めている。またほくろが大きくなっているしな。」
「これは……!」
「まあいい。では、少し私の長話に付き合ってもらうぞ。あ、そうだ。紅茶でも飲むか?」
「何もいらないわ。」
「そうか。では始めようか。」
「君にできたそのスペード形のほくろは、いじめに遭うことでできるほくろなんだ。そしてこのほくろは、必ず人から見える場所にできる。いじめを受けていると気づいてもらえるように。」
葉月さんは紅茶を優雅に飲みながら話し始めた。意地を張らずに、飲み物の一つくらいもらえばよかったと今更ながら後悔した。
「スペードのほくろができるようになったのは、昔、酷いいじめを受けていた人がいじめがなくなるようにと願い、自分の頬にスペードの焼印を入れたことが始まりだ。その人は、いじめを先生や両親に訴えたが相手にしてもらえず、日に日にいじめはエスカレート。耐えられなくなった彼女は、いじめた人間と相手にしてくれなかった両親と先生を呪いながら、焼印を入れた後自分の首を刺して自殺した。」
「……」
「彼女の遺体があった血だまりは焼印と同じスペードの形をしており、その後、呪われた人間たちは毎日謎の苦しみに襲われ、楽になりたいと次々に自殺していったらしい。これが、いじめに遭った人間にスペードの形のほくろができる由縁だよ。そして、大きくなればなるほど、いじめがエスカレートしていることを表し、同時にいじめを受けている人間の精神が壊れているのを意味する。」
「なるほど。その人は随分とお気の毒ね。」
「それだけか?」
「私には関係ないもの。こんな目立つところにほくろができるようになって、逆に迷惑だわ。これ、手術でとることはできないの?できるならバイトして……」
「取れないよ。君がいじめを受けなくなるまでね。何度手術で取ったところでまたできる。根本を解決しないと意味がいなんだよ。だから君には選択肢をあげようとおもってね。これを。」
葉月さんはカウンターの上に革でできた箱を取り出した。
「開けてみたまえ。」
そう言われ、箱を開けてみると、そこには焼印が入っていた。それもスペードの形のものだ。
「これってまさか……」
「そのまさかだよ。これはさっき話した人が最期に使用した焼印だ。」
「なんでこんなもの……」
「君には二つの選択肢をあげよう。一つはここを出たら母親にいじめのことを相談する。そしてもう一つは相談せずに、その焼印を持ってある場所に向かうこと。私としては一つ目をお勧めするがね。」
葉月さんが何をさせたいのかは不明だ。だが、私に相談するという選択肢はなかった。
「二つ目の選択肢を選ぶわ。場所を教えて頂戴。」
「はあ。君は愚かだね。その選択が、君の母親を苦しませ、悲しませるというのに。まあいいよ。これが地図だ。行けば何をすればいいのかは書いてある。じゃあ私とはここでさようならだ。もう二度と会うこともないだろう。」
葉月さんは私に背を向けて奥へと姿を消してしまった。
私は葉月さんの屋敷を出ると、地図に書かれた場所に向かった。
「ここって廃ビル……?」
今にも壊れそうな古いビルが建っていた。周りには木々が生い茂っているだけで他には何もない。
「えっと、地図の場所に着いたら屋上を目指せ。ドアは……」
不自然にドアが風に揺れていた。まるで私を招いているようだった。
紙に書いてある通り屋上を目指すと、屋上につながる扉に、
「罪人に焼印を」
と書かれた紙が貼ってあった。
「ここにきたらやることって、焼印を入れること?」
意味は分からないがとりあえず扉を開けると、
「え……」
目の前に広がった光景は、処刑場。
それも本で見たことのあるギロチンというやつだ。囚われているのは、私をいじめたクラスメイト全員だ。全員がギロチンの処刑台に囚われているというのは中々壮観だった。
「何がどうなっているんだよ!」
「早く解放してよ!」
口々にクラスメイトたちは助けを求めていた。
「あれ?」
扉を開けた先に、石の下で風になびく紙が見えた。そしてそこには、
「処刑台の色が一人だけ真っ赤である。そいつが首謀者だ。」
「真っ赤な処刑台は……」
少し目を疑った。真っ赤な処刑台に囚われていたのは、私を守ると宣言した井深華離だった。私は彼女の傍まで行くと、
「どうして私をいじめたの?」
と単刀直入に尋ねた。すると彼女のは狂気じみた表情に変わり、べらべらと本当のことを話し始めた。
「私、あんたのこと嫌いなの。あんたが中学の時に転校してきて、私の立場は変わった。私はそれまでクラスの人気者、クラスの中心にいたの!なのにあんたが転校してきたらみんなあんたにばっかり構って、私は蚊帳の外。いつの間にかクラスの中心はあんたになってた。それが気に入らなかったけど、どうすることもできず卒業した。そして高校になった。そしたらあんたと同じクラスなんだもの。神様はチャンスをくれたんだと思ったわ。そして私はクラスの連中に金を渡してあんたをいじめるように指図した。金を渡せばみんな簡単に動いてくれた。私はクラスの中心に戻れた。でもそれは表の中心じゃない。だからあんたを庇って表の中心にもなろうと思ったの!どう?完璧でしょ?!」
ああ。なんだ。そんな理由か。なんかもう、どうでもいいや。
―ジュウ!!
私は井深さんの頬に焼印を入れた。
「ぎゃああああああ!痛い痛い!何すんのよ!!」
「ふふ。いい声で鳴くのね。とても楽しいわ。あなたも、私をいじめていた時、こんな感じだったのかしらね。ふふふ。」
―ジュウ!!
―ジュウ!!
「ぎゃああああああ!!」
「いやああああ!!」
屋上にはたくさんの悲鳴が咲く。私は踊るように全員に焼印を入れていった。
「これで全員か。ふふ。楽しいなあ。」
自分は悪くないとか、許してくれとか、色々な声が聞こえる。これを聞いて楽しいなんて、私は本当にどうかしてしまったらしい。すると、突然、
―シュッ!
何か巨大なものが振り下ろされる音がして、クラスメイトたちの叫びは静かになった。それもそうだ。だって、彼らの首が、切られているのだから。スペードの形の刃によって。
「ああ……ああああ!!!」
大量の血が私に迫る。楽しかった。彼らの悲痛な叫びを聞くのは。でも今は違う。今はこの迫りくる血が恐怖でしかなかった。
「やめて……違う……こんなの私じゃない!!私はここまで望んでない!!私は……私は……!!」
パニックに陥った私は、血から逃れるために屋上から飛び降りた。その瞬間、葉月さんの言葉が浮かんだ。
「君は愚かだね。その選択が、君の母親を苦しませ、悲しませるというのに。」
「ああ……」
今頃わかるなんて。手遅れ。それは私の死であると言っていたのだ。私が死ねば、いじめに気付けなかったと母は自分を責めるだろう。そんなこと、少し考えればわかったこと。相談して頼ることも、母を悲しませない一つの方法だったのだ。我慢すればいいなんて、私が愚かだった。我慢なんてできないくせに……ずっとずっと、辛かったくせに……
「ごめん……母さん……」
―グシャ……
私はビルから飛び降りて死んだ。だが、飛び降りたのは廃ビルだったはずだが、大通りのビルから飛び降りたようで、通行人たちは大騒ぎしていた。
私の死体のある血だまりはスペードの形をしていた。
蒼生祭が死んだあと、彼女をいじめていたクラスメイト達は、自分の部屋で眠ったまま亡くなっていたらしい。顔にはスペードの形の焼印があり、蒼生祭の祟りだと騒がれた。




