伝承者の策略<かかしの田んぼ編>
何となくだが、そのうち黒板が話しかけてくる気がする。
紅茶を飲みながら、私葉月史乃はひやひやしていた。ここを出るためとはいえ、選ばれし者との対面は結構疲れるのだ。しかも自身の作戦によっては死亡してしまうこともあるため、やっていて楽しくはない。とその時はすぐに訪れた。
「史乃ー!お待ちかねの選ばれし者が見つかったよー!」
待ってないけど待ってた!すごく複雑!
「そう。で、こんどはどんな人なの?」
「反応薄。まあいつも通りか。今回は、田畑瑞香っていう子だよ。もうすぐ進級するけど、今は小学六年生だよ。」
「随分幼いのね。話して分かるの?」
「最近の小学生は割と大人びている子も多いよ。それに、田畑瑞香は小さい村に住んでいて、大人たちの手伝いとかもたくさんしていたみたい。普通の子よりも大人びてるかもしれないって感じ。」
「へえ。てことは、田畑瑞香の住んでいる所に今回の伝承があるってこと?」
「大正解!史乃ってばさえてるね!その通り!田畑瑞香に伝えてもらう伝承は、これだ!」
黒板がそう言った瞬間、どこからともなく本が出てきた。
「わっ!何?どこから出てきたの?」
「ふっふっふ……ナビちゃんはこんなこともできたのだよ。」
とても自慢げだ。無視しよう。
「えーと……タイトルは……」
「うわ!無視した!驚いたくせに冷たいんだから!」
本のタイトルは
『かかしの田んぼ』
伝えるための道具は、虹色に輝く植物の種だった。
「何これ……」
「ちょっと……付録だけ開けて中身見ないみたいな本の読み方やめてよ……」
「何それ?」
「別に……」
黒板の話はよくわからないから置いておいて、私は本を読み始めた。
本には、残酷なことが書いてあった。
昔、この村では農作物が今でいう税金だった。村人たちは自身の生活のためと、納めるための農作物を毎日一生懸命作っていた。しかし、贅沢をしたいと考えた村長は、納めさせる農作物を増やし、自分のものにしたという。もちろん、納める量が増えれば、どんなに必死に作っても自分たちの生活の分が減ってしまうことになる。怒った村人たちは、全員で村長に訴えるが、村長の部下たちにより捕らえられ磔にされた。その場所が、現在のかかしが生える田んぼである。
「つまり、田畑瑞香の住んでいる村にあるかかしの田んぼは、この捕らえられた村人たちってことなの?」
「磔って、柱とかに人を縛り付けるじゃない?それがかかしに似てるってだけで、田んぼに生えているのは磔にされた人間。史乃の言った通り、捕らえられた村人たちだよ。まあでも、本の最後にもあるけど、彼らは磔にされた状態から、足を切断され、そのまま焼き殺されてしまったから、本当にその人たちかと言われると少し違う気もするけど。」
確かに。村人の死体は焼かれてもうないのだ。だからかかしとして生えてくるということなのだろうか。
「ちなみに、かかしを抜くとどうなると思う?」
「は?かかしを抜くの?うーん……」
「正解は、悲鳴が上がる!でした!」
「な、何でよ?」
「引っこ抜く行為は、村長が足を切断したのと同じに値する。つまり、その時の悲鳴がかかしを抜くと上がるってこと。今住んでいる村人たちは、詳しい事情を知らないみたいだけど、抜いてはいけないってことは理解しているみたいだよ。」
「かかしって生きているの?」
「うーん、彼らの魂が、成仏されずにかかしに宿ったって感じかな。でもかかしじゃないから、引っこ抜いたとしても、魂がある以上、また生えてくる。そんなところ。だから、今回の伝えるための道具は鎮魂種っていう、魂を成仏させるものなんだよ。まあ、魂を成仏させる系の道具はいくつかあるけど、場所に応じて姿形が違うんだ。」
「そうなんだ。」
知らなかった。じゃあ、今回は田んぼだから種なのか。稲でもいい気はするが、見た目が悪いか。
「じゃあ、選ばれし者を呼んで、伝承を伝えてから種を持たせて蒔いてもらえばそれで終わりってことでいいのかしら?」
「史乃。さっきも言ったけど、付録だけ開けて中身見ないのはよくないよ。」
「どういうこと?」
「読み進めてってこと。」
最後まで読んだつもりだったが、まだ続きがあるのか?
「黒板、最後まで私は読んだわ。文章はここまでだし、次のページも白紙だったわよ?」
「白紙の次の次は見た?」
「次の次って……え?」
黒板の言う通り、白紙をめくっていくと文字が書かれていた。
「嘘……」
「ね?最後まで見ないといけなかったでしょ?」
「ええ……」
白紙の次の次に書いてあることにも驚いたが何よりも、書いてある内容にゾッとした。
最後のページにはこう記されていた。
『村長の血筋の者は如何なる者であれ必ず殺す。殺せないなら一生この罪を背負え』
これは伝えるべきことではないのだろうか。伝承の記されたページが終わったかのように見せかけておいて、書かれた文章。違和感しかなかった。
「黒板。これはどういうこと?伝承じゃないってことなの?」
「伝承だよ。だからここまで読んでほしかったんだ。」
「じゃあ……」
「ここまで知った上で伝えなくてはならない。でもこの一文で、選ばれし者が伝えるための道具を使用することをためらったら困るんだよ。そもそもかかしの田んぼは、田畑瑞香の住む村人全員の家から見えるような位置にある。だけど、かかしの田んぼを特等席で見られる家が一軒だけあるんだよ。」
「まさか……」
「そう。村長の血筋の人間の家。今の村で一番大きな家に住んでいる。家がそこに建てられたのが先か、かかしの田んぼができたのが先か。どちらかはわからないけれど、かかしの田んぼは、村長の血筋の人間である者に罪を忘れるなという意味で存在するんだよ。そして、今住んでいる人間が死んだら、村長の血筋の人間は絶滅する。鎮魂種は、魂を成仏させるものだけど、少し変わっていて、使用すれば、村長の血筋の人間を殺すことになるんだよ。それが、彼らの望みでこの世にとどまっている理由だからね。」
「そんな……」
村長が悪いことをしたのは確かだが、血を引いているというだけで死ななければならないなんて……確かにこれを知れば、違う方法を考えたくなるが、伝えるための道具を使わない選択肢はない。それにこのことを知らずに伝えてもかかしの田んぼが何なのか、本当の意味で知ることはできないからだ。
「ねえ黒板。選ばれし者の田畑瑞香の性格はわかるかしら?」
「そうだな……正義感が強いというか、気が強いというか……そんな感じかな。」
「そう。なら、きっと最後の一文の意味を知ったら、鎮魂種を使ってくれなさそうね。確認なんだけど、田畑瑞香が鎮魂種を使うと村長の血筋の人間が死ぬってことは伏せておいても、伝える力に影響はないかしら?」
「大丈夫だよ。むしろ、言うのは避けたほうがいいと思う。言えば、関係ない人間が死ぬのは納得できないっていいそうな感じがするよ。」
「そうね。なら、鎮魂種が無事に使用されたら、その瞬間記憶を消すことはできるかしら?いずれにせよ、記憶は消さないといけないんだけど……」
「それなら、鎮魂種に少し細工をしておいてあげるよ。特別に!」
「ありがとう。なら、終わったら選ばれし者を呼んでちょうだい。」
「わかったよ。」
その後、黒板は真っ黒な画面になり、静かになった。
「先代の罪は末代まで引き継がれるのね……」
選ばれし者以外が命を落とすとは思っていなかった。想定外だが、仕方ない。私は選ばれし者がいつ来てもいいように準備を始めた。




