伝承者の誕生②
「とりあえず、館内の案内と説明をざっくりしちゃうね!」
成り行きで、というよりは、ほぼ強制的に伝承者というものになった私は、黒板に館内の案内をしてもらっていた。
「この館には、カウンターの向こう側に9個の部屋があるの。でも、中央の大きな扉の部屋は鍵がかかっていて入ることはできないから注意してね。とりあえず、右側から部屋の説明をするね。」
「なんで真ん中の部屋の鍵はないの?」
「さあ?知らないけどないんだもん。後の部屋は鍵かかってないから自由に出入りできるよ。ていうか、そのおどおどした態度どうにかならないの?」
「い、一応昨日という時間軸が存在するかは分からないけど、昨日来たばかりだし……。まだ状況が飲み込めていないというか……。」
「まあいいわ。とりあえず右から。一番右から食品庫とキッチン。ここでは選ばれし者をもてなす用に食品が保管されているわ。史乃が食べたり飲んだりしてももちろんいいわよ。それから薬品庫。伝承を伝える際必要な薬を作れるわ。私に言ってくれれば、なんでも作れるわ。そして実験室。どんな実験をしてもいいわよ。そのために必要な道具があればこれも言ってね。パソコン室はその名の通りパソコンのある部屋よ。システムは教えられないけどネットも繋がっているから調べ物がある時にも使えるわ。で、真ん中の部屋を挟んで、断罪道具保管室。断罪道具っていうのは使用者の命を対価に復讐を行う危険な道具よ。この世に7つしか存在しないわ。私の許可なしには触れないから注意して。資料室は現実世界のことや歴史を調べることができるわ。あと分身室は史乃の分身が保管されているわ。分身はその部屋から現実世界に行くことができるわ。必要な時使うといいわ。それから史乃の部屋。ベッドと適当な洋服が置いてあるから、休みたい時とかに使って。一応部屋はこんな感じだけど、もし他に必要な部屋とか、物品があったら言ってね。準備するから。」
「わかった。とりあえず、分身っていうのに会ってみたいんだけど。」
「なら分身室に行こうか。」
一通り部屋の説明を受けると、その中で一番気になった分身室へと移動した。
分身室に入ると、大きな水の入った瓶の中に小さな少女がいくつもの管に繋がれて浮いていた。
「この子が史乃の分身よ。ここのスイッチを押すと、水と管が無くなって目覚めるわ。」
黒板が赤いスイッチを押すと、水と管が無くなり、少女が目覚め、瓶の中から出てきた。見た目は小学5,6年生くらいだろうか。
「初めまして史乃様。私はあなたの分身です。」
「は、初めまして。あの、あなたの名前は……?」
分身とは言え、全く似ていなかったため、つい名前を聞いてしまった。
「私に名前はありません。史乃様の分身として史乃様の細胞より作られし体ですので。必要とあらばお使いください。」
「分身は感情もなにもかも持っていないわ。ただし、部屋の右手にあるモニターに学習させたい事を入力すると瓶から出てきたときに学習して出てくるから、使ってみてね。」
「わかったわ。でも、分身って呼ぶのもね……。あ、そうだ。二号って呼ぶことにするわね。」
「まんますぎて面白いわ。でもそうね。その方がわかりやすいかも。」
「本日より、私は二号という個体名ですね。かしこましりました。」
「よろしくね、二号。」
自分と握手するのは不思議な気分だが似ていないせいか、妹ができた気分だった。
歩き回ったせいか、情報量の多さのせいか、少し疲れてしまい、カウンターの椅子に座って休んでいた。
「ねえ史乃!疲れているところ悪いけど、史乃には伝承者らしい振る舞いも覚えてほしいの!」
「伝承者らしい振る舞い?」
「そう!決まりがあるわけじゃないけど、今のままだと迫力に欠けるもの。だから、資料室に色々な漫画や小説を用意したわ。選ばれし者が来るまでに読んで参考にしてみて!」
「……」
「ちょ、ちょっと!黙らないでよ!大事なのよ!キャラづくり!」
「はあ。わかったわ。読んでみて考える。しばらく資料室に籠るわ。カウンターに黒板を置いていっても大丈夫?」
「もちろん!お留守番くらいできちゃうんだから!じゃ、行ってらっしゃい!」
真面目な話が終わるとハイテンションな黒板。掴みどころがないところが、どこか機械ではなく、人間のような気がした。