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見えざる館の伝承者    作者: 花咲マーチ
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伝承者の策略<てるてる坊主の逆襲編>

「てるてる坊主てる坊主~♪あした天気にしておくれ~♪いつかの夢の空のよに晴れたら金の鈴あげよ♪」

黒板は歌を楽しげに歌っていた。

「何それ?」

「ええ!?史乃知らないんだ!?有名だよ!」

「そう言われても、それが歌であることしか認識できないわ。私音楽なんてまともに聞いたことないもの。」

「うわあ……」

黒板に表情はないが、すごく憐みの目で見られているようだった。

「何よ。知らないからって。教えてくれてもいいじゃない。」

半ば拗ねた口調で私は言った。

「仕方ないなあ。これは童謡っていって、子供のために作られた歌なんだけど、その中の一つだよ。題名はズバリ!てるてる坊主!まあいわゆる、次の日晴れてほしいなって時によく歌われるよ。何なら三番まで歌があるんだよ。聞く?」

「へえ。じゃあ、歌ってみてよ。」

「いいよ。では。」

黒板は一息ついて再び歌い出した。

「てるてる坊主てる坊主〜♪あした天気にしておくれ〜♪わたしの願いを聞いたならあまいお酒をたんと飲ましょ♪

てるてる坊主てる坊主〜♪あした天気にしておくれ〜♪それでも曇って泣いてたらそなたの首をチョンと切るぞ♪」

なんだその歌は。首切ってるし、本当に子供向けなのか?

「あのさ、そんなので晴れるの?首切るとか言っちゃってるけど……?」

「さあね。気休めにはなるんじゃない?それに、首を切るぞー!って言われたら、怖くて晴れにするとか?」

「そう……まあでも、ここには天気なんて概念はないんだから、関係ないでしょ?」

「このナビちゃんが、ただ歌を歌っただけだと思った?違う違う!もちろん、次の伝承と関係があるから史乃に教えてあげたんだよ。」

それもそうだ。館を晴れにしたいと思って黒板が歌うわけがない。伝承を伝えるためにいるんだし。


「それで、今回の選ばれし者はこの人。名前は空日和(そらひより)。てるてる坊主のことを滅茶苦茶信じている女の子だよ。」

黒板は歌うのをやめると、一人の女の子の写真を映し出した。

「何でてるてる坊主のことをそんなに信じているの?」

「彼女がてるてる坊主を作って窓際に吊るすと、必ず晴れるんだって!それも、何年間も!偶然だっていうかもしれないけど、一回や二回じゃない。何年間って続いているんだよ!偶然にしては続きすぎでしょ。で、彼女は偶然ではなくてるてる坊主のお陰だと思って、ずっと信じているんだってさ。でね、晴れにしてくれたてるてる坊主には、毎回ケーキとか色々供えてありがとうってお礼もしてるみたいだよ。」

「なるほどね。」

そんなに信じられ慕われているのに、今回の(でんしょう)は『てるてる坊主の逆襲』というタイトルだった。疑問に思いながらも読み進めればわかるだろうと思い、黒板に質問はしなかった。


間もなくして、私は本を読み終えると、逆襲というタイトルがしっくり来た。

「てるてる坊主って可哀想なのね。」

思わずそうつぶやいた。それもそうだ。この本には、てるてる坊主の起源となる話が書かれていた。雨の止まない村で、雨を止ませようと努力した人が首を切られ見せしめに吊るされたら晴れになったことから、現世に伝わる白い布で作られたてるてる坊主の形になったらしい。しかも、現世では、起源となる話からか、晴れにできなかったてるてる坊主の首は切られるんだとか。物とは言え、首を切るなんて残酷な話である。

「史乃?どうした?」

「少し考えていたの。人って身勝手で残酷なことを平気でしてしまうんだなって。てるてる坊主に限った話じゃないけど、なんだかそれを象徴した話に感じたわ。」

「なるほど。間違ってはいないね。だけど、タイトルにもあるように、てるてる坊主は逆襲をするんだよ。黙って首を切られるだけじゃない。本にもある通り、てるてる坊主の首を切った人はけがをしたり、高熱が出たりするんだよ。小さいことかもしれないけど、大抵、人間はてるてる坊主をいくつも作ったりしない。だから()()()()で済んでいるとも言われているよ。」

「じゃあ、選ばれし者の空日和のように、大量に作った人が、全部のてるてる坊主の首を切ったりしたらどうなるの?」

「それは誰もやったことがないからわからない。本にもどうなるかとは書かれていない。だけど、予想くらいはつきそうなものだよ。」

「予想……」

確かに。てるてる坊主たちは晴れにできなかったというだけで、勝手に作られ勝手に殺されている。つまり生み出された時点で命がけなのだ。だったら、そんなてるてる坊主がする最悪の逆襲なんて、私には一つしか思いつかなかった。

「そうね。検討はついたわ。」

「で、どうする?」

「ねえ黒板。黒板は未来の天気を知ることはできないの?」

「そうきたか。できるよ。それも絶対に外さないよ。」

「だったら、彼女が次にてるてる坊主に頼りそうな日付の天気はわかるかしら?」

「彼女がてるてる坊主に頼る日付……修学旅行か。その日なら大雨だよ。晴れることは万が一にもないよ。」

「そう。ならすぐに彼女を呼んで、伝承を伝えるわ。お土産に死後ここに来れる薬を混ぜたケーキをてるてる坊主に供えるお菓子として渡すわ。」

「史乃、空日和は死ぬって思う?」

「黒板は空日和の大事な日が雨だって言った。晴れないって。つまり彼女はてるてる坊主が晴れにできなかったことを恨む。そうすれば、彼女の大量のてるてる坊主たちは首を切られるに違いないわ。そして、てるてる坊主たちは逆襲をしに来るでしょうね。()()()()()()()()()()()。」

「わかった。じゃあ早速呼ぶよ。でも、伝えるための道具はどうするつもり?」

「決まっているわ。この白い布はてるてる坊主を作るための布。だとしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()。そのためには、この布を二号ちゃんに届けてもらう必要があるけど、おそらくこれが効果的な伝え方だと思うわ。」

「史乃……史乃は人間が残酷だって言ったけど、史乃だって残酷だよ?」

「わかってる。だって私も人間だもん。もう死んでるけどね。」

「そう。」

それ以上黒板は何も言わなかった。今回のやり方は少し残酷だと認識はあった。でも、それ以上の策はないと思った。何年間も信じてきたものに裏切られたショックで彼女が正気を失うのは目に見えていたから。だけど、警告はしてあげよう。もし聞いてくれたなら、きっと別の未来だってあり得るかもしれないのだから。


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