伝承者の策略<祟り>
私は頭を抱えていた。
「史乃ー?大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ!何で選ばれし者が見つかるタイミングが、もうすぐ死ぬってタイミングなのよ!」
「えー?前も言ったけど、何億人って中から見つけるんだよ?ナビちゃん頑張った!って褒めてもらえることはあっても文句言われることはないと思うけど?」
「あー!とりあえず、何か策を練らないと!」
事は数分前くらい。時計がないからどれくらい前なのかは定かではないが。いつも通り黒板が選ばれし者を見つけてきたのだ。そこまではよかった。だがこの選ばれし者である刹那真は、地蔵村に向かって事件を起こそうとしていると黒板はいうのだ。急いで本に目を通して分かったが、選ばれし者がこのまま事件を起こせば確実に死んでしまう事が分かった。それで私は頭を抱えているのである。
「何かいい案はないの?!このまま死なれたら伝えることができないじゃない!」
「うーん。じゃあ特別にナビちゃんが知恵を貸してあげよう!」
「どんなの?」
「ここには色々なお茶があるけど、その中にはなんと、あの世に行く前にここに呼ぶことのできる特別なお茶があるのでーす!それをとりあえず、飲ませて、死んでから話を聞きに来てもらえば?」
「あんたって残酷ね……」
「伝承を伝えるためには手段を選んでいたらダメだよ。もちろん史乃は人間だし、良心とかあるのかもしれないけど、伝えられなくて困るのは史乃なんだよ?」
確かに黒板の言う通り、伝承が伝わらなくて困るのは私だ。伝えること以外考えるべきではない。分かってはいるつもりだったが、黒板のようにまだ割り切れてはいないようだ。
「どうする?こうして相談している間にも選ばれし者は地蔵村に近づいているよ?」
「くそっ!今回はあんたの言う通りにしようじゃない。」
「でもその後は?どうするつもり?」
「呼び止めて、本を読みながらでも説明するわ。でも今の様子だと地蔵村に行く前に悠長に話を聞いてくれそうもないわね。まあそこを利用させてもらおうかしら。お茶さえ飲ませられれば死んでもここにこれるんでしょ?」
「飲んでくれたらの話だよ。」
「とりあえずお茶を飲ませて、事件を起こしている間に本を読み込むわ。後、どうあがいても彼が死ぬのならこのお地蔵様の前掛けも一緒に火葬してもらえば伝わるんじゃないかって思うんだけどどうかしら?」
「確かに一緒に火葬なら伝わる力は強そうだね。それでいこう!じゃあ今すぐ呼ぶからお茶だけ準備して。」
「わかったわ……」
選ばれし者の死を前提とした策略。これを了承するあたり、私の良心というものも大したものではないのだと思った。




