表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見えざる館の伝承者    作者: 花咲マーチ
1/56

伝承者の誕生①

史乃(しの)、ごめんね……」

そう言って母は、私の首を絞めて殺した。葉月史乃(はづきしの)17歳。私の人生はここで終わった。


……はずだった。

「ここ、どこ……?」

目を覚ますと、おびただしい数の本が壁一面に並ぶ古い洋館の真ん中に寝転がっていた。景色にしてみれば見事なものだが、あの世と呼ぶには少しイメージと異なっていた。


体をゆっくり起こし、辺りを少し散策しようと立ち上がったその時、

「おお!おはよう!どう?死んでみた感想は?」

突然、明るくパチパチとはじける飴みたいな声がどこからか聞こえた。

「誰?」

「私はあなたをナビゲートするタブレット!略してナビって呼んで!」

「たぶれ……?」

聞きなれない言葉に戸惑ってしまった。

「とりあえず、あなたのいる位置から真っ直ぐ歩いてきて。そこに私がいるから!」

人の姿は見当たらないが、声の言う通りに動いた。真っ直ぐ歩いた先には、図書館で見るようなカウンターがあった。

「あの、来たんですけど……」

「机の上にタブレットがあるでしょ?それが私!」

「机の上……」

何も置かれていないカウンターに一つ、光る何かを見つけた。持ち上げてみると、薄いのに思っていたよりも重量感があった。たぶれっとが何かは分からないが、名付けるなら、

「光る黒板……」

たぶれっとなるものは、学校で見る黒板を連想させた。緑色こそしていなかったが、黒板を小さくしたらこうなるのだろうと勝手に思った。

「ちょ、タブレットって言ってるじゃん!知らないの?!」

光る黒板には声と同時に文字も表示された。すごい技術だ。しかし、黒板曰く、たぶれっとを知らないというのはおかしいようだった。

「知らない。無いと生きていけない物でもないんでしょ?」

「それは……」

黒板は口ごもってしまい、黙ってしまった。


しばらく黒板を持ったまま、ぼんやりしていると、黙っていた黒板が再び話しだした。

「こほん。この際、黒板でもなんでもいいわ。ただし、あなたには任務を遂行してもらいます。」

「任務……?」

明るく弾けた声を1トーン下げて黒板は言った。真面目な話なのだろうか。

「あなた、葉月史乃は、伝承者に選ばれた。よって本日より、その役目を果たしてもらいます。」

「あの、伝承者って?」

「伝承者は、この世界にあふれる伝承を伝える者のことよ。近年、伝承は間違った形で伝わってしまっていたり、忘れさられていたりしているわ。それをここにある本と、その中にある道具を使って伝えるのがあなたの役目よ。」

「何で私なの?」

「その資格と力が、あなたに宿っているからよ。それにここは、伝承者の力を持つ者と、伝承を現実世界で伝える選ばれし者しか立ち入れない場所なの。」

「つまりここは、あの世でもなければ現世でもない……。じゃあ何なの?」

「異空間とでも思ってもらえればいいわ。それから、あなたは先刻死んだけれど、伝承者の力がある以上、あの世にいくことはできないわ。もちろん現実世界にも戻れない。そんなあなたがすることは一つ。ここの本、いわゆる伝承を全て伝えること。無事に伝われば本は消えるシステムよ。だから、この館を空にしたら役目は終了ってところね。やってくれるわよね?」

「断ったら?」

「うーん……。拷問でもして頷いてもらう?なーんて冗談よ。魂を安らかに眠らせるには役目を果たす必要があるわ。ああそれと、断ってもいいけど、その瞬間魂が弾け飛んで永遠の苦しみを味わうことになるよ?それでもいいなら止めないわ。新たな伝承者の誕生をこちらは待つだけだし。どうする?」

「……わかった。それだけは嫌だからやるわ。」

「よかった!それじゃあ、今日からよろしくね!史乃!」

真面目な話は終わったのか、黒板は再び元のトーンの声に戻っていた。


この日、伝承者・葉月史乃が誕生した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ