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黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子  作者: 八城 曽根康
寄港
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第二話 3 ペプーリア

当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は「カクヨム(https://www.nicovideo.jp/series/254503 )にも重複投稿しています。


 師匠は突然立ち止まる。(あご)に拳を当てる。数秒考えた後、軍医様に尋ねる。


「軍医殿。確認するが軍医殿は「ペプーリア」だな。」


「チミ。今更それを聞くのかい。」


 軍医様は呆れた表情で肩をすくめる。


「確認が遅れたが聞く。泊地島(はくちとう)の同胞に知らせるためだ。」


「ま、いいけど。」


 軍医様は筆入(ふでい)れほどの大きさの、長方形の木箱を取り出す。火の付いていない葉巻を箱にしまう。そしてくるりと向き直った。



「ボクが十七代ペプーリアだよ。」



 師匠は、手を顎に当て思案する。数秒後、手を顎から話すと、軍医に問いただした。


「一七代。計算が合わんな。我々第四艦隊が行方不明になってから、七六年。一五代ペプーリアは高齢だった。だが、ヴィガージャ種の寿命を考えると、一六代目が存命中のはずだ。」


 軍医様の動作が一瞬止まる。この話は繊細(せんさい)な話だ。これから話す内容は、ペプーリア様に対する尊敬の念が、無くなるかもしれない話だ。何故なら…。


「先代のペプーリア様は、若くして亡くなったよ。死因は戦死だよ。」


「なんだと。本当か。」


 先代のペプーリア様は、凄腕の航空機のパイロットだった。その空戦技術は他の追従を許さないほどだ。しかし残念な事に、若くして亡くなった。その事件は、軍全体を震撼(しんかん)させた。


「一〇年前に黄泉軍(よもついくさ)の一派が、内乱を起こしてね。その時先代ペプーリア様は亡くなられたよ。」


「ちょっと待て。軍医殿はどう見ても吾輩(わがはい)と同年配だ。代々のペプーリアは生まれつきのはずだ。」


 師匠の意見は当然だ。代々のペプーリアは生まれつきのペプーリアだ。しかし軍医様はどう見ても十歳には見えない。当然そこに矛盾(むじゅん)が生じる。


「理由は簡単。ボクは生まれつきのペプーリアじゃないよ。突然変異と言ってもいいかもね。」


 元々軍医様は、先代の十六代ペプーリア様の専属医に過ぎなかった。先代は生まれつき、ペプーリア細胞に異常があり、定期的な治療が必要だった。そしてその治療にあたっていたのが、軍医様であった。


 一六代ペプーリア様の死亡に立ち会った際、突然変異を起こす。


 しかしその時何が起きたか、公に公表されていない。詳細は重要機密(じゅうようきみつ)として、現在も情報が封印されている。


 そして現在、十七代ペプーリア様が軍医様だ。しかし生まれつきのペプーリアではない軍医様は、異端児と言われている。


 代々のペプーリア様は、ペプーリアとしての教養と実力を磨く。また、ある分野で最高峰に上り詰める者もいる。


 ペプーリアの権威(けんい)尊厳(そんげん)、そして矜持(きょうじ)を守るだけの実力を持つか。軍医様は今も試されている。


「理由は分かった。しかし、ペプーリアの権威と言うか、正当性をどうやって示すのだ。」


 師匠は顎に拳を当てて、怪訝(けげん)な顔をする。


「それなら心配ないよ。ボクがペプーリアの力を示す。そうすれば、否が応でも納得してもらえるよ。さあ、飯を食いに行くよぉ。淺糟(あさかす)君も一緒だ。拒否権は無いよ。」


 そう言うと、軍医様は駆け足で食堂に向かった。僕は軍医様に遅れないように、ついて行く。師匠はしばし考えると、僕達の後に続いた。



                      ◇◇◇



 僕達は士官食堂にいる。僕は師匠と軍医様と一緒だ。僕は二人に紅茶とクッキーを出す。


 ボクも自分の分の紅茶を注ぎ、師匠の(となり)の席に座る。正直な事を言うと、下士官の僕にとって、士官食堂は落ち着かない。やはり場違いな気がする。それと何故お茶会かと言うと、ご飯の時間には早すぎたからだ。


「さてと。第一印象が大事だからね。」


 そう言うと軍医様は、紅茶に角砂糖を三つ入れる。


「そのふざけた口調が無ければ、もう少しましだと思うがな。」


 師匠は砂糖を入れずに、紅茶を一口飲む。


「ほっといてちょ。上級大尉君。靖國領(やすくにりょう)でのペプーリア信仰はどんな感じかな。」


 そう言うと、軍医様はクッキーを一枚頬張る。小さなクッキーだから、一口で口に入る。


「そうだな。実物のペプーリアが居なかったため、知識としての存在だな。先入観は少なくないと思う。」


 僕はクッキーを一枚食べる。クッキーはほんのり甘く、香ばしい匂いが口の中に広がる。

「先代様までがあまりにも偉大だったからねぇ。はて、本物が目の前に出てきて、どんな反応をするかな。」


 僕は砂糖の入っていない紅茶を、一口飲む。ほろ苦い味が、口いっぱいに広がった甘味の味を、きれいに掃除してくれる。口直しにちょうどいい。


「もう少し(おごそ)かな口調や、知性を感じる口調なら、威厳(いげん)などが出てくると思うがな。」


 師匠は一杯目の紅茶を飲み終えると。二杯目をカップに注ぐ。


「チミもしつこいねぇ。ボクはこの口調が喋りやすよ。慣れない口調で喋っても、ボロが出るのが落ちだよ。」


 軍医様は紅茶を一気飲みする。どうも軍医様はワザとこの口調をしているようだ。けど、その理由は誰も知らない。


「まあ、その口調は置いておこう。別の話になるが、軍医殿は生まれつきのペプーリア様ではない。そのあたりはどう説明する。」


 僕は一杯目の紅茶を飲み干す。そこに師匠が二杯目を注いでくれる。紅茶の香りはとても良い香りだ。


「そうだったね。大まかな経緯は、さっき話したけどね。ま、事実だから隠しようはないからねぇ。」

軍医様は師匠に、クッキーは要らないの、と聞く。師匠は、食べる気が起きないから要らない、と答える。


「この件は、言い方に気をつけなければな。」


 師匠がそう言うそばで、軍医様はクッキーが乗った皿を、ボクの前に持ってくる。


「あらかたの事なら、会見の時に冊子(さっし)を配るよ。それに大まかな事が書かれているよ。」

そう言うと軍医様は、一杯目の紅茶を飲み干す。師匠が二杯目を注ごうとすると、手でやんわりと断る。


「冊子をあらかじめ作ってあったのか。」


 師匠はそう言いながら、紅茶の入ったポットを僕の前に置く。


「そうだよ。こういうのは資料になる物がいいよ。まさか一人一人説明するわけにもいかないからねぇ。」


 もへへへへ、と笑って、軍医様は師匠に、隠し持っていた冊子を渡した。


 冊子には、今回の帰還作戦の概要(がいよう)と八ヶ城様の意思。それと本国の現状について書かれていた。


「軍医様に師匠。この紅茶とクッキーですが。」


 正直に言って、僕は少し困惑(こんわく)している。


「チミは育ち盛りだからね。要らないクッキーを食べたまえ。」


「クッキーだけでは食べにくいだろう。紅茶ももらっておけ。」


 僕はでかかったため息を飲み込む。クッキーも紅茶も嫌いでは無い。しかし、何か複雑な気持ちを感じた。



                      ◇◇◇



 僕はお茶菓子を食べながら、ペプーリアについて復習することにした。


 ペプーリアには二種類ある。黄泉軍(よもついくさ)の学名と、黄泉軍の種の代表だ。これから復習するのは、後者の方だ。


 過去十六代のペプーリア様は、何らかの才能に恵まれ、いずれの時代でも黄泉軍の象徴として働いていた。代々のペプーリアは一人残らず歴史に残っている。


 これは各々が偉業(いぎょう)を残したというより、代々のペプーリアについての記録が、詳細にいたるところまで残っているという、事実によるところが多い。


 ペプーリア様には、大まかな三つの特徴がある。


 外見は軍医様を見ればわかりやすい。代々のペプーリア様は必ずしも美形ではないが、総じて紅玉(こうぎょく)のような(あか)い瞳。真珠を溶かしたような、白く光沢のある毛皮で覆われている。生まれてくるペプーリアは、すべてヴィガージャ種だ。


 次に、先代までのペプーリアの力を行使(こうし)することができる。これは第四代が発明した力で、自分より前の代のペプーリアの力を、行使する能力だ。また英霊(えいれい)の召喚も可能だ。


 しかし時のペプーリアが、全ての先代達の力を、行使できるわけではない。軍医様の場合は、初代と十六代の二人の力だけだ。


 三つ目の特徴は、全ての黄泉軍の中で、ペプーリアは常に一人しか存在しない点だ。これは、先代が死亡した時に、生まれ変わりと呼ばれる存在が、新たに生まれてくる。


 軍医様のように、突然変異で普通のヴィガージャから変質した例は、過去に無い。とにかく、生まれつきだろうが、そうでない存在だろうが、ペプーリアは常に一人だけだ。


 軍医様が行使できる過去のペプーリアは、二名のみである。これは歴代ペプーリアの中でも少ない数だった。


 ここでさらに波紋(はもん)を呼んだ。


 一つ目は、たった二人の力しか行使できない点だ。歴代のペプーリア様は四代目を除き、大体三、四人の力を行使できる。しかし軍医様は、先代の十六代と初代の二人の力しか行使できなかった。過去の優秀な術師(じゅつし)の力や、剣豪(けんごう)の剣術に頼れないという事だ。


 ペプーリアとして劣悪であるのか。そんな陰口が現在でも存在する。


 もう一つは、初代ペプーリアの力を行使できることだ。


 この力は、代々のペプーリアは使うことができなかった。初代ペプーリアの力を具現化させたのは、軍医様が初めてだ。


 これが何を意味するか。単に相性の問題だろうか。それとも軍医様が特殊な存在だからだろうか。今でも考察は進んでいない。


 今まで神話の中のみの存在で、確証がなかった。軍医様が初代の力を行使したことにより、軍医様は一部で神聖視された。


 この力に注目したのは、黄泉軍より外国の神や悪魔達であった。初代ペプーリアの存在は、まさに神と崇められる存在だからだ。


 特に高天原(たかまがはら)の神は、初代の偉業を知っているため、その力を行使できる軍医様を尊重(そんちょう)している。


「初代ペプーリアの力…それは本当か。」


「もへへ。会見の時に実演してみるから、楽しみに待っていたまえ。」


 そう言うと軍医様は、黄金(こがね)の葉巻を取り出して、火を付けずに咥えた。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は靖國領での会見についての話になります。


 次回以降は、週に一回の投稿になるかと思います。


 それではまたお会いしましょう。

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