第一話 3 戦闘
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この小説は「帰還の導 術使いの弟子 1・出会い(暫定版)」の分割、修正等を行ったものです。暫定版をご覧になられた方には、重複する内容となっております。
「帰還の導 術使いの弟子 1・出会い(暫定版)」を、誤って短編として投稿してしまったので、再投稿と言う形になってしまいました。ご迷惑おかけして、申し訳ございません。
一部暴力的、残虐な場面があるためと判断したため、R-15指定させていただきました。
この作品は「カクヨム(https://www.nicovideo.jp/series/254503 )にも重複投稿しています。
僕は思考無線で示された場所を視認する。幽霊と魔法少女。かみ合わない組み合わせだ。幽霊は人魂の形をしている。植物や小動物の穢れが元になっているみたいだ。個体の戦闘能力は低いが、数で押してくるから面倒な相手だ。
魔法少女は昨今の派手な色服を着ている。何かのアニメに出てきそうな魔法少女そのものだ。女性の穢れが元になっている。
しかし、何故魔法少女だろうか。理由は分かっていない。どう見てもふざけているように見えるけど、これが現実だから仕方ない。
この二つの敵の共通点は両方とも浮遊ができる点だ。自由落下だと水面や甲板に激突して、元の穢れに戻るだけだ。
戦闘指揮所からの情報では、数は約千体以上。二個大隊はいるそうだ。それらが艦の真上から落ちてくる。こんな大量の穢れ、事前に観測できるはずだ。これは別の意味での敵襲かもしれない。偶発的な遭遇じゃなくて、敵対勢力が捨てた穢れかもしれない。
艦砲射撃での迎撃指示が下る。主砲四門の砲身が垂直にせりあがり、落下物に狙いを定める。艦尾理力弾垂直発射装置も起動し、十六セルの蓋が一斉に開かれる。
「一番、二番、三番、四番。全主砲、砲撃準備よし。」
「理力弾垂直発射装置、起動確認。」
砲雷長から報告が入る。穢れ迎撃の準備が完了した。
「準備ができたら、すぐに攻撃して。」
あれ。艦長の指示が飛ぶが、戦闘指揮所にいないのかな。僕はそう思い甲板を見回すと、艦長を甲板後部で発見する。直線距離で一〇〇メートルくらいだろうか。周りの味方からは離れていて、明らかに孤立している。
「軍医様。孤立していては危険です。」
僕は思考無線で艦長に呼びかける。僕の呼びかけの後に、他の人達からも同じ意見が軍医様に向けられる。
「大丈夫。僕は君達より強いよ。それにボクが標的の可能性があるからね。言わば囮だよ。」
「囮って、どういうことですか。」
僕は軍医様の無謀さに、理解が追い付かない。
「ボクは重要人物だからね。僕狙いの可能性が、あるってことだよ。」
「本当に大丈夫ですか。」
「くどいよ。もし危なかったら助けを呼ぶかな。そうしたら救援をお願いするよ。」
たしかに軍医様は、僕よりはるかに腕が立つ。だけど大丈夫だろうか。
◇◇◇
「うちーかたーはじめ。」
副長の号令が思考無線を介して、頭に響く。主砲の砲撃音。艦首側の一二〇ミリ単装高角砲が、火を噴いた。艦尾側の一二〇ミリ単装高角砲も、後に続く。四基の砲塔から吐き出される心もとない弾幕が、魔法少女の集団に襲い掛かる。
弾幕は正確に魔法少女を狙い撃つ。魔法少女を射抜く直前、灼熱の火球になり彼女達を飲み込む。穢れ払いの曳光弾だ。
「初弾命中。敵、断末魔を確認。」
初弾で魔法少女一人を焼肉にする。焼き殺される少女達の断末魔が、精神の観測という形で確認できた。それと同時に、人肉の焼ける匂いが観測された。とても美味しそうな匂いだ。
砲撃はさらに続き、高角砲は砲弾を吐き続ける。対空砲火が的確に穢れを射抜く。穢れ払いの曳光弾が光り輝き、目標の目の前で炸裂し、穢れを焼き払う。
さらに理力弾垂直発射装置が、次々と青白い火の玉を吐き出す。これは近接防御の切り札だ。火の玉達はまるで意思があるかのように…実際には統合した情報を元に未来予測をしながら、敵に向かって飛んでいく。
一つが幽霊型に直撃する。火球は破裂し、幽霊型は四散して消え去る。
別の火球が魔法少女に直撃する。青白い火の玉の強すぎる火力は、魔法少女を一瞬にして灰塵に変える。
一体、また一体と灰塵になって落ちてゆく。吐き出された砲弾と火の玉は多いが、それ以上に敵の数が多い。四門の艦砲射撃と、次々と吐き出される火の玉。それらをもってしても捌ききれそうにない。そのうち艦に乗り込んでくるだろう。
僕がそんな事を考えていると、急速に接近してくる人影を発見した。魔法少女にしては地味な彼女達は、上空から落下速度以上の速度で迫ってくる。
「白兵戦用意。甲板で迎撃せよ。」
副長の命令と同時に、瞬時に情報が頭の中に流れ込んでくる。優先順位は危険度の高い魔法少女達。魔法少女達は攻撃に秀で、耐久力に劣る。情報によると、強力な破壊光線を放つ個体がいるという。
迎撃を行うため“飛翔”の術を行使する。浮遊する相手は、僕達の手の届くところに降りてくるとは、限らない。僕の体はふわりと浮かび、重力の枷から解き放たれる。“飛翔”の術は術師のたしなみだと思っている。
敵と接敵するわずかな時間を用いて、甲板に背を向け、あおむけになった状態で宙に浮く。真上を向いて迎撃するのは首が疲れる。
そして構える得物は靖國PDW。安全装置を解除する。次にレバーを引いて弾倉から薬室に給弾を行う。最後に、三点バーストに設定されている事を確認する。
これで迎撃準備は完了だ。グレムリン効果の強さは、僕の機関拳銃の動作を、阻害させる強度ではない。動作も問題ないだろう。
弾丸は全て穢れ払いの曳光弾。敵の本質は生物の穢れだ。幽霊や少女の形をしているけど、穢れ払いの弾丸は非常に効果がある。今回の相手にはうってつけだ。
艦砲射撃の轟音を聞き流しつつ、得物を構える。少し経つと戦闘指揮所から接近の報告が入ってくる。
敵はおそらく、接近すると速度を減速させるだろう。減速して狙いやすくなったところに隙が生じる。そこが迎撃のチャンスだ。
僕の予想通り、艦の真上に降りてきた敵は減速を開始する。僕はすかさず靖國PDWの引き金を引く。曳光弾の明るい光条が放たれる。そして一番狙いやすかった幽霊型に二、三発の銃弾を叩きこむ。幽霊型の敵を光条が貫く。曳光弾の薬剤が敵を内部から焼く。幽霊は傷口が青白く燃え上がり、瘴気を漏らしながら萎んでいく。
次に近くにいる魔法少女に照準を向ける。幽霊型の敵の倍の銃弾を叩きこむ。弾丸は魔法少女に銃痕を植え付ける。銃痕から青白い炎が燃え上がり、青い炎は全身に燃え広がる。程なく魔法少女を灰の塊に変えた。
僕は一体、また一体と撃墜していく。七体退治した時、弾倉の弾が尽きた。弾倉を交換しようとした時、七色の破壊光線が僕を襲う。
破壊光線を間一髪のところで回避する。僕の体を破壊光線がかすめる。かすっただけだが痛みが走る。熱湯のような高温を軍服越しに確認した。
光の波が過ぎ去った後、僕は破壊光線の元凶を確認する。黒いとんがり帽を被り、白と黒の服に身を包む魔法少女だ。他の魔法少女より地味だが、強烈な破壊光線を放つ強敵のようだ。
僕は次の攻撃が来ないうちに、一気に距離を詰める。機関拳銃から手を離し、腰に帯びた刀に手をかける。刀を抜く動作でそのまま魔法少女に切りかかる。
白と黒の魔法少女は、間一髪で僕の抜刀を避ける。空を切った刀が、魔法少女の長髪を数本切断する。
攻撃はかわされたが、僕はまだ相手を補足している。魔法少女はボクの攻撃を回避して、動きが硬直している。僕は間髪入れず次の攻撃に移る。
僕は口から “穢れ払いの炎”と呼ばれる青白い炎を、魔法少女の顔面に吐きつける。魔法少女の表情は、炎を払う手によって見えなくなる。
“穢れ払いの炎”を被った魔法少女は、一瞬にして青白い火だるまと化す。致命傷なら灰塵と化すだろう。数秒の時間の後、僕は火だるまが助からないことを確認する。そして戦況確認のためあたりを見回す。
僕がいる場所は艦橋付近。敵はどんどん直上から降ってくる。…いや、艦橋付近に敵が集まってきている。艦橋付近でも戦闘員が応戦しているが、明らかに数が足りない。
艦橋構造物には、各種観測機器が備え付けられている。ひょっとしてこれは、不味い状況じゃないだろうか。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は戦闘の後半戦になります。
それではまたお会いしましょう。