第一話 2 敵襲
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この小説は「帰還の導 術使いの弟子 1・出会い(暫定版)」の分割、修正等を行ったものです。暫定版をご覧になられた方には、重複する内容となっております。
「帰還の導 術使いの弟子 1・出会い(暫定版)」を、誤って短編として投稿してしまったので、再投稿と言う形になってしまいました。ご迷惑おかけして、申し訳ございません。
一部暴力的、残虐な場面があるためと判断したため、R-15指定させていただきました。
この作品は「カクヨム(https://www.nicovideo.jp/series/254503 )にも重複投稿しています。
「総員、第一種戦闘配備。敵は穢れである」
僕は思考無線の電源を入れ、戦闘指揮所と情報を共有する。他の人も次々と、思考無線を入れる。情報量が一気に増える。まるで蜂の巣を突いたように大騒ぎの状態だ。
僕は現状を確認する。艦の直上に大規模な穢れの反応がある。それらが天の火にむかって落ちてくるようだ。
僕は艦橋の扉から外に出る。念のために扉を閉じた事を確認する。
僕は天を仰いで“遠目”の術を行使する。視界が鮮明になり、遠くの物が良く見えるようになった。彼方の小さな点まで見通せるくらいだ。
僕は索敵をしながら、これからの手順を頭の中で復習しようと思う。
◇◇◇
敵は穢れ。この場合、最初に行うのは目視による索敵だ。敵の種類や規模を目視する。その情報は思考無線を通し、戦闘指揮所に送られる。情報は目視だけでなく、気配なども情報として送る。送った情報は、戦闘指揮所で処理する。目視で観測するのは、穢れた敵が探知装置に引っかかるとは、限らないからだ。
次に行われるのは艦砲射撃だ。観測機器や目視で集めた情報を統合して、艦砲射撃を行う。弾種は穢れ払いの曳光弾だろう。砲弾は周囲の空間を焼き、広範囲の敵を巻き込む炸裂弾でもある。範囲攻撃で確実に敵戦力を削ぐ。
艦砲射撃で捌ききれなかった場合、白兵戦の出番だ。差し当たっては銃撃戦だろう。僕も靖國PDWで敵に応戦することになる。敵に対しては通常弾では効果が薄い。だが、穢れ払いの曳光弾なら話は違う。穢れ払いの曳光弾は、穢れを燃やす効果がある。
そして最後には接近戦だ。僕の場合、愛刀の刀を振り回すことになる。戦斧や刀を振り回す、中世のチャンバラが繰り広げられる。一見馬鹿馬鹿しく思えるが、これが事実だからしょうがない。この状況になったら艦自体にも結界が張られ、艦自体を封印する。こうなると、艦の出入りが不可能になる。
この状況になると、文字通りの生か死かという状況になりかねない。しかし実際には一、二か所の扉だけが封印を免れる。そして、その扉を死守しながら戦う事になるだろう。
今回の敵の規模を考えると、接近戦を行う事は明白だ。敵と白兵戦になった場合、僕の真価が問われる事になる。
◇◇◇
一方、場所は変わって戦闘指揮所。そこには一〇名ほどの人員が配置されている。戦闘指揮所では、電探やソナーなどを用いた既存の観測から、質量観測、生命探知、理力測定など人類にはできない観測も、ここで一括管理を行う。
そしてここでは、副長自らが情報を精査、選別して情報の最適化を行う。一方、艦長席には、軍医の服に身を包んだヴィガージャが座っていた。
「頭上遥か彼方に赤銅色の霞。空一面に広がっているね。大量の穢れが降ってくるのかなぁ。」
「しかし突然の出現。前兆は一切なかったです。」
「それにしても、このタイミングで大規模な穢れだねぇ。自然発生かなぁ」
軍医はこめかみに思考無線を張り付ける。観測員の情報に限定し、索敵の状況を確認する。
「靖國領との接触のタイミングですから、どこかの勢力の差し金でしょう。」
副長席に座る副長が言った。本来は軍医が艦長職だが、今回の任務では、諸事情で軍医は身軽でないといけない。そのため実質的な艦長の仕事は、大尉である優秀な副長が一任する事になる。
「銭ゲバ連中かもしれないねぇ。軍の勢力が増すのを好まんからね。」
「外国勢力の可能性もありますね。」
副官は雑談をしながら情報処理を行う。観測された情報を元に穢れの規模や種類を細かく分析する。
「ま、詮索は後回しだねぇ。目の前の問題に対処しよう。」
軍医は席を立つと、一番近いロッカーに向かう。艦橋勤務の人員は、艦橋のロッカーに武具を閉まっているためである。
「穢れの顕在化を確認。穢れの種類は魔法少女と幽霊型の二種類。直上より降下してきます。総数は一〇〇〇体以上。」
軍医はロッカーを開ける。そこには銃や皮鎧がしまってある。
「もへへ。穢れの数は一〇〇〇体以上。これだけの穢れが、ピンポイントでこの艦に向かってくる。これは本当に偶然かねぇ。」
軍医は白衣を脱ぎ、皮鎧を素早く装着する。この皮鎧は魔法銀で作られている。
「大量の穢れは、臭うと相場が決まっているよ。ほとんど前触れもなく穢れが降ってくることは、普通はありえないねぇ。」
軍医の動きが一瞬止まる。二、三秒思案した後、準備の続きを行う。
「数が多すぎるね。艦砲射撃では捌ききれそうにないから、船外で白兵戦する必要があるかなぁ。副長。白兵戦の指示を出しておいて。」
「了解。」
軍医が手際よい動作で、二本の苦無を帯刀する。その苦無は緋色をしている。この苦無がヒヒイロカネの合金でできていることを示す。人間の世界では架空の物質だが、黄泉軍の間では実用化されている物質だ。
その時、通信士から新たな情報が入る。
「友軍の戦闘艦が当海域に待機中で、すぐにこちらに向かうそうです。靖國領から派遣された艦です。」
「それにしても、帰還艦の実践配備が始まっていたんだ。現在位置はどのあたりかなぁ。」
軍医は下に皮鎧を着た状態で、再び白衣を着用しながら尋ねる。
「現在位置は、本艦十二時方向、一〇分ほどで本艦と接触できます。」
「ずいぶんと手回しがいいじゃないか。出迎えに待っていてくれたのかな。」
「この穢れの大軍を靖國領で観測したため、急行して待機していたみたいです。」
「なるほど。それは頼もしい限りだねぇ。」
軍医はウエストポーチを腰に着ける。一見ただのウエストポーチだが、数々の投げ武器をしまっている、いわゆる魔法のウエストポーチである。
「こっちに急行してくるという事は、期待しても良いかもしれないねぇ。こっちの人員は二〇〇名。穢れの総数の五分の一以下だからね。」
ロッカーから拳銃と拳銃弾の予備弾倉を取りだす。拳銃は南部大型拳銃だ。八ミリ弾のこの拳銃は、黄泉軍の間では今でも現役である。
「追加の情報です。腕利きが数人、こちらの援軍に来るそうです。」
軍医は指と肩を鳴らし、体をほぐす。
「それはありがたいなぁ。この艦の戦闘員は少ないからねぇ。それじゃあ、チャンバラに行ってくる。副長。白兵戦になったら、艦全体に結界を張って。出入り口も封鎖してかまわないよ。」
「出入り口も封鎖して良いのですか。」
「援軍が来るまでの、時間制限の防衛戦だよ。下手な事をやって艦内に敵が入ってきても、面倒なだけだよ。」
「了解しました。」
軍医は靴の紐を締めなおす。過去に一度、白兵戦の時に靴が脱げてしまった。それ以来白兵戦の前には、必ず靴紐を確認している。
「後は頼んだよ。」
そう言うと軍医は、艦長職を副長に丸投げする。
「ご武運を。」
軍医は軽い身のこなしで、戦闘指揮所を後にした。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は戦闘場面になります。淺糟軍曹はどう立ち回るか。
それではまたお会いしましょう。