第一話 1 淺糟 誠(あさかす まこと)
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この小説は「帰還の導 術使いの弟子 1・出会い(暫定版)」の分割、修正等を行ったものです。暫定版をご覧になられた方には、重複する内容となっております。
「帰還の導 術使いの弟子 1・出会い(暫定版)」を、誤って短編として投稿してしまったので、再投稿と言う形になってしまいました。ご迷惑おかけして、申し訳ございません。
一部暴力的、残虐な場面があるためと判断したため、R-15指定させていただきました。
この作品は「カクヨム(https://www.nicovideo.jp/series/254503 )にも重複投稿しています。
9/17追記 題名がふさわしくないと感じたため、サブタイトルを変更しました。ご迷惑おかけします。
僕は黄泉軍の一人だ。根の国で生まれ、穢れ払いを生業とする種だ。黄泉軍の事は古事記にも記されている。
僕達は靖國領に向かっている。忘却の川の下流にある、閉じた世界だ。そこに行方不明だった友軍がいる。
旧第四艦隊。かつて大東亜戦争の時、行方不明になった艦隊である。避難していた民間人ごと消息を絶ち、当時は大騒ぎとなったと聞いている。
そして時が経ち、そこの住人が軍との再交信を成功させたことで、旧第四艦隊の再発見につながった。旧第四艦隊が漂着した土地を、軍では靖國領と呼んでいる。
この事は最近まで軍の機密だったけど、軍は二〇年前から忘却の川の彼方にある、靖國領との連絡をやり取りしていた。そこで軍は、機密理に技術交換や物資を送ったりして、第四艦隊の帰還作戦を行っていた。
送られた物資を用いて、艦を建造する基地を建設する。そして現地で帰還艦を建造し、軍への帰還を進めてきた。
そして今回、最終的な調整のため、初めてとなる人員派遣が行われる事になった。そのため機密が解除され、軍内外に公になった。旧第四艦隊の生存を公に認め、人員の応募に踏み切ったわけだ。軍は以前から、忘却の川の調査を行っていた。その調査結果を世に広めた形だ。
そのことが知れ渡るや否や、軍内外で大騒ぎになった。旧式とは言え、一個艦隊が忘却の彼方から帰還するからだ。
軍の内部では同胞の帰還を歓迎する一方、任務の困難さや未踏の地からの帰還に、不安を隠しきれない者も多かった。また帰還作戦の費用、帰還人員の居住区の提供など、細かい話を挙げるときりがない。
特に軍に敵対的な勢力が、中止を勧告してきたけど、軍の強い意向で今回の帰還作戦が実行された。軍内部の一部の派閥が、積極的に動いている…という話を、聞いた事がある。
そして僕は今、武装輸送艦『天の火』の自室にいる。
◇◇◇
僕の名前は淺霞 誠。歳は一三歳。階級は軍曹。灰色真珠を連想させる瞳に、黄緑色の毛皮が全身を覆っている。ヴィガージャと呼ばれる男児で、突起のような短い角が、額に一本生えている。身長は一四〇〇ミリと、平均的なヴィガージャ種の身長だ。
ヴィガージャと呼ばれる個体は、全身が毛皮に覆われており“穢れ払いの炎”と言う炎を行使する事ができる。
“穢れ払いの炎”は文字通り、穢れを払う青白い炎である。穢れを燃やして浄化させる。穢れ払いを生業とする黄泉軍にとって、無くてはならない能力である。
今回の作戦は天の火に乗り込んで、靖國領に向かう。そして帰還の時、道しるべの一つとして、帰還する艦隊に随伴する。
今回の任務は長期の任務で、特殊な事例だった。そのため問われるのは本人の適正で、それは技術や能力よりも優先された。
僕は志願に名乗り出た一人だ。志望動機の半分は自分の信念を貫くためだ。僕は今回の帰還作戦に賛成を表明している。消息を絶った同胞が生きていた事は、喜ばしい事だと思う。
だけど、忘却の川の下流に位置する世界からの帰還。帰還は理論的には十分可能だが、実績が無い。そのため二の足を踏む人達が多い。そんな人達の中、僕は自分の正しさを証明するため、あえて危険な任務に志願した。
ついでに志願した時に受け取った、給料半年分の前金と、給料二年分の成功報酬は僕の物だ。当然正規の仕事のため、危険手当が加味された月給も、忘れてはならない。
そしてもう一つの理由は、僕は術師を目指している。一度は適正無しと診断され諦めかけていたが、再検査により適性が発覚した。そして僕は、靖國領の人に術を師事してもらうことを条件に加えた。
僕は昔から術をある程度使えた。しかし適正無しと判断され、術の専門の勉強を受けられなかった苦い思いがある。一度はあきらめかけた道。今度は掴んで離すものか。
板型携帯端末のタイマーが鳴る。僕は現実に引き戻される。僕の仕事の時間だ。今日は当直の日。長い長い一日の始まりだ。
僕は厚手の軍服を着用する。普通の軍服とは違って、魔法銀で作られている。荒事にも対応できる、防弾性、防刃性も兼ね備えた軍服だ。
次に刀を差す。僕が自腹で買った得物だ。黄泉軍の白兵戦装備は手斧だ。刀は白兵戦員より、警備員が装備する代物だ。給料二か月分を出して買った刀。戦斧に比べて威力は低いが、簡単に鞘に納める事ができるため、扱いやすいと思っている。手入れは面倒だが、僕のお気に入りの一振りだ。
頭部は軍服と同じ、魔法銀製の戦闘用の笠だ。顔面は透明の目ま庇ひさしが付いていて、顔面を覆う。後頭部も魔法銀で覆われていて、後頭部も保護する皮兜。いつも通りのお決まりの装備だ。
余談だけど、先ほどから出ている魔法銀という物、紛らわしい事に銀ではなく皮材質だ。特殊な加工により魔除けの銀の特性を示すため、魔法銀と呼ばれている。黄泉軍が昔から使っている皮素材で、耐久性が高いのが特徴だ。
僕は機関拳銃の紐をベルトに結び、ホルスター替わりの固定具を右足の腿に取り付ける。
この機関拳銃は、靖國PDW。軽量で装弾数が多く、取り回しの良い機関拳銃だ。集弾性能も悪くない。本体重量が軽いため反動が強めになるが、弾薬の口径が小さく反動自体が少ないため、あまり気にならない。銃の取扱店で一目ぼれし、試射を行ってさらに気に入った、僕の愛銃だ。
さらに部品一つ一つに、抗グレムリン効果が付与されている。グレムリン効果とは、何らかの超常現象により、銃に弾詰まりを起こさせたり、機械の動作不良を起こしたりする、障害の総称だ。この銃はその不具合に対してある程度抵抗し、信頼性を高めている。
しかし代償として、この機関拳銃の値段は高価だった。僕はこの機関拳銃を買うために、前金の内、八割つぎ込んだ。支給されている小銃の八倍の価格だ。
最後に予備の弾倉を五つ、腰に装着する。弾薬は三・七ミリ靖國曳航弾。弾倉の装弾数は五〇発。弾の種類は穢れ払いの曳光弾で、人間に撃てば火傷は免れない。逆に言えば火傷程度の損害だ。当然、通常弾より威力は低いが、穢れを纏う敵の弱点を突く弾薬で、黄泉軍では必要不可欠な弾薬だ。
ただし、ほかに同じ口径の銃が存在しない。そのため、弾薬があまり出回っていないだけでなく、価格も割高なのが唯一にして最大の欠点だ。僕以外にはこの機関拳銃を使う人は、この艦の中にはいない。当然、弾薬ケース一〇箱、一〇〇〇発分の弾薬は全て僕の自腹だ。出航した時は二〇〇〇発あったが、射撃訓練を艦内で行っていたため、残弾は半分になった。この銃弾は靖國領で補充できるため、特に問題は無い。
◇◇◇
そろそろ僕の勤務時間だ。僕は通路を見わたす。
艦の通路は意外と広い。おそらく、僕が刀を振り回せるくらいの広さはある。これは靖國領の航海および帰還の際、少しでも閉塞感を減らして居住性を良くする配慮だと聞いている。この艦の居住性に配慮されていると思う。
狭いながらも一等兵にも個室が割り当てられている。軍曹である僕の部屋もベットを含めて三畳の広さがある。一度、一等兵の部屋に入ったことがある。僕の部屋より狭かったが、それでも二畳の広さがあると聞いた。
自室を一歩出る。通路には物資が入っている箱が、積み重なっている。その大部分が戦闘糧食の入った箱、つまり食糧だ。その量は通路の半分を食料が占領している。当然これらの食料をつまみ食いしたら、営倉行きだ。
今回の任務は特殊な任務だ。長期間の航海だが、補給は一切できない。幸い燃料は十分だが食事はそうはいかない。補給の当てはないから、念のため一年以上の食料を詰め込んでの出向だ。
出航当時、僕の部屋にも戦闘糧食の入った箱が、十箱以上置いてあったくらいだ。今回の人選の一つに、戦闘糧食を食べ続けても苦にならない人員が、配属されている。今のところは問題になっていない。
僕は持ち場に行く。とは言っても、引継ぎが終われば、艦内の見回りが待っている。
僕の配属は警衛科だ。本当は機関科を志望したけど、戦闘の腕が立つから、警衛の仕事に回された。希望が通らなかったのは不満があったが、僕より腕の立つ人員はこの艦には少ないらしい。適正に見合ったから、警衛科に回されたんだろう。
僕が心の中でぼやいていると、突然警報が鳴り響く。
敵襲だ。僕は急いで戦闘時の持ち場に向かった。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回作でお会いしましょう。