99 家と女の子
日が落ちてきた。
日本ならこれからが霊の活動時間だが、どうなることやら。
何もいないことは無いだろうから少し気を引き締める。
とはいえ街の中だ、過剰な警戒はしない。
「どんなのが出るのかな?」
「聞いてた話だとレイスってことはなさそうね。」
「レイスだったら攻撃してきそうだもんね。声が聞こえたとか家が揺れただとどういうのが当てはまるんだろう。」
「攻撃する手段を持ってないのかもしれないわね。そうなるとレイスよりも弱いのかもしれないわ。珍しいのは間違いないと思うわよ。」
「でも今までの住人は出て行ってるからなぁ。」
「安心して暮らせないなら出ていくと思うわ。ほとんどの人は対抗する手段を持ってないんだから。」
それもそうか。
街の人みんなが魔法使いだったらそもそもハンターなんて必要なくなるかもしれないしな。
にしても声が聞こえただの家が揺れただの、完全に霊の仕業としか思えない。
霊はレイスの下になるのか?
でも呪い殺すなんて話もあるし、一概には言えなそうだよな。
目に見えて、対抗手段もあるこの世界ならそんなに脅威でもないのかもしれないけど。
「――――――」
「ん?何か言ったか?」
「何も言ってないよ。」
「私もよ。」
「空耳か?」
「――デテイッテ―」
「出たみたいだね。」
「そうみたいだな。シロ、見つけたら出番だぞ。」
「シャー。」
シロを撫でながら家を探索する。
とりあえず相手を見つけないことにはどうにもできない。
豪邸というわけではないからすぐに見つかると思ったが、なかなか見つからない。
そのうちに家が少しだけ揺れた。
「揺れたわね。」
「うん。少しだけね。」
「威嚇してるのかしら?」
「多分そうなんじゃないかな、早くここから出て行けって。」
「直接危害を加えるわけじゃないからまだ可愛いもんだな。」
「でも住んでるときにやられたら嫌だと思うよ。寝てるときに揺れたら起きちゃうもん。」
「それはそうだけどさ。」
日本は地震が多かったからな。
今の揺れくらいなら人によっては起きないんじゃないか?
もっと大きな揺れを想像してたから拍子抜けしたところはあった。
今のじゃせいぜいいたずらの範囲だと思う。
「出てこないね。」
「出てきてもやれることが無いのかもしれないわね。だから隠れてるのかも。」
「隠れてるとなると見つけるのは難しそうだな。」
俺の予定ではすぐに発見できて、シロの魔法を試すことができると思ってたんだけど。
まさか隠れられるとは思わなかった。
こうなったらもう魔法を使ってみてもらうか?
この家くらいならシロだったら一気にいけるかもしれない。
「シロ、相手が隠れてるみたいなんだけど魔法でこの家くらいなら浄化できそう?」
「シャー。」
コクコク。
いけそうだ。
ならやってみてもらうか。
「キリ、エリィ、シロなら家ごと浄化できそうみたいだ。原因とは会えなかったけど試してみよう。」
「凄いね、シロ。」
「わかったわ。このまま探していても見つからないみたいだしそうしましょう。」
「よし、それじゃあシロ頼む。」
「シャー!」
シロから浄化の魔法が放たれる。
結構強烈な光だ。
すると。
「きゃああぁぁぁぁ!やめてやめてやめてーーーー。」
目の前に八歳くらいの女の子が転がり出てきた。
「お願い!やめて!お願いーーーー!」
「ねぇジュン。」
「あ、あぁ。シロ、やめてあげて。」
何とか間に合ったんだろう。
半分消えかかってるが、人の形を保っている。
怪奇現象の原因が多分この子なんだろうな。
泣きながらこっちを見てる。
「あ、あ、ありがとう・・・。」
やばい、罪悪感が凄い。
俺がやったわけじゃないんだが、小さい子をいじめたみたいで非常に居心地が悪い。
「いや、それより君が声を出したり家を揺らしたりしていたのかい?」
「う、うん。」
「なんでそんなことをしていたのか聞いてもいいかな。」
「ここはわたしのお家なの。だから他の人には出て行ってほしかったの。」
キリとエリィに視線を送る。
二人とも困っているようだ。
退治すれば住めるからと思ってやってきたのに、出てきたのが小さな女の子の幽霊みたいなものだ。
対処に困る。
これが悪霊ならさっさとやっつけておしまいなんだが。
だがこれからもこの物件は残るわけで、誰かがこの子を倒してしまうかもしれない。
そうじゃなくても場所がいいだけに建て直すのも選択肢に上がるかもしれない。
もしもそうなったらこの子もかわいそうだ。
いや、むしろ浄化させてあげたほうがいいのかな?
よくわからん。
「えっと、俺たちはここに住みたくて来たんだけどダメかな?」
「ダメ!」
「でも他の人が来たらさっきみたいにやられちゃうかもしれないよ?」
「えっ?」
「君はここでどうしたいの?」
「・・・ここにいたいの。」
地縛霊みたいなもんか?
こっちに迷惑さえかけなければこの子一人くらい住んでても俺は構わないが、二人はどうだろう。
「この子、ここにいたいみたいなんだけど、俺たちが住むようになったらこの子くらいおいてやってもいいと思うんだけどどう思う?」
「追い出すのもかわいそうだし、私はかまわないかな。」
「私もいいわよ。ただし家を揺らしたりしないことは約束してもらわないとね。」
「ってことで、俺たちがここに住むことを許してくれたら君もここにいてもいいよ。それでどうかな?」
「うーん・・・でも・・・。」
「もし俺たちが住まなくても誰か来るかもしれないし。最悪、この家が壊されることになるかもしれないんだよ?そうなったら嫌だよね?」
「・・・うん。」
「無理にとは言わないよ。よく考えてみてね。」
あとはこの子の意思に任せよう。
出来る事ならこの場所で決めたいところだけど無理やりは良くない。
浄化させてあげたほうがいいのかもしれないけど、そこら辺の判断は俺にはつかないから却下で。
そもそも小さい子に泣いてやめてって言われて、それでも実行できるほど鬼にはなれない。
「小さい子に優しいのね。」
「優しくは無いと思うけど。泣かれても厳しくするのは俺には難しかっただけだよ。」
「でもジュンの言うとおりだよね。これだけ立地がいいんだから建て直すのも考えられるよね。」
「あぁ、そうしたらどうなるのかはわからないけど、あの子にとっていい事にはならないだろうな。」
「それにしても変わった子ね。あれだけ自我があって話ができる状態の魔物はそんなに聞いたことは無いわ。もしかしたら魔物じゃないのかもしれないわね。」
「じゃあなんなんだ?」
「さっぱりわからないわよ。」
やっぱり霊?
霊とレイスは違うってことなのかな。
怖い存在じゃないってわかっただけでも十分だけど。
「ねぇ、住んでいいよって言ったらわたしもここにいていいんだよね?」
「あぁ。家を揺らしたりしちゃだめだけどな。」
「お家も壊さない?」
「壊さない。約束しよう。」
「じゃあね、住んでもいいよ。」
「ありがとう。俺はジュンだ。こいつはシロ。」
「私はキリだよ。」
「私はエリィよ。」
「わたしはメリルだよ。」
こうしてスタッカルドに俺たちの拠点ができた。
なかなかの物件を安く手に入れることができて満足だ。
家には一人女の子がついてきたけど別に大したことじゃないだろう。
家の守り神みたいなもんだと思えばたいして気にならなくなるはずだ。
家にあった家具はそのまま使っていいそうなので、ありがたく使わせてもらう。
残りの細かいものとかはおいおい揃えていけばいいだろう。




