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98 家を買おう

 王都での休日を終えて、どうするか話し合った結果スタッカルドに戻ろうという事になった。

 王都での依頼は特に変わったものもなければ、少し距離が遠かったりと面倒な部分が多い。

 その代わりに報酬は少し高くなっているが。

 これならスタッカルドに戻って依頼を受けてもそんなに変わらないというのと、キリとエリィが少し人の多さにうんざりしてしまったから、また来たくなった時に来ればいいやという事になった。


 来た時と同じように馬車を使ってスタッカルドに戻る。

 盗賊が出たが護衛の人がサクッと倒して特に何ともなかった。

 また五十人規模の盗賊団が出たら大変だが、あんなものそうそう出るわけでもない。

 無事にスタッカルドまで着いた。


「馬車は便利なんだけど体が痛くなるんだよな。特に尻が。」

「揺れるからね。仕方ないよ。」

「どこもこんなものよ。慣れていくしかないわね。」


 ふとサスペンションを作ったら売れるかなと思ったけど、そもそも作り方を知らない。

 スマホでもあれば調べられるんだけどそんなものは無いからな。

 クッションでも買っておくくらいしか方法はなさそうだ。


「とりあえずいつも通り宿をとるか。」

「それについて考えたんだけど、そろそろ家を買ってもいいんじゃないかしら。」

「家を?」

「そう。この間の遺跡探索の報酬も合わせて結構なお金が貯まったわ。行動する中心地をスタッカルドにするのなら、そろそろ家を買ってもいいころだと思うのよ。」

「たしかに私たちはここを中心に行動してるから買ってもいいかもね。」

「俺は家の値段をよく知らないんだけど、手持ちのお金で買えるものなのか?」

「十分買えると思うわ。まず聞いてみて、いい物件が無ければ今まで通り宿に泊まればいいわ。」

「そうだな・・・。それなら聞くだけ聞いてみてもいいかもしれないな。」


 家か、夢のマイホームなんてこだわりは無いけど、拠点を構えるのはいいかもしれない。

 荷物も置いておけるし、気兼ねなく使える部屋があるのは嬉しい。

 早速聞きに行こうと思ったけど、物件を扱っているお店なんて知らない。

 一度ギルドに寄ってソアラさんにおすすめの店を教えてもらった。

 さすがはギルドの受付嬢だ、こういった相談もよくあるみたいで非常に手馴れていた。

 それで、今来たのがそのおすすめしてもらったお店だ。


「いらっしゃいませ。」

「えっと家を探してるんですが。」

「家ですね、かしこまりました。何か条件などはございますか?」


 キリとエリィを見る。


「出来れば治安がいいところがいいわね。」

「あと、できるだけギルドに近いと嬉しいかな。」

「あー、俺も希望というかわがままを言っていいか?」

「どうしたの?」

「出来れば小さくてもいいから風呂がついてるとありがたい。」


 この世界に来て一番不満なのが風呂に入れないことだ。

 水浴びも慣れてきてるし悪くは無いんだが、やっぱり風呂に入りたい。

 なんだか体が気持ち悪い気がして仕方ないんだよな。

 特に虫の体液を浴びた時はそれはもう風呂に入りたかった。


「お風呂ですか。そうなると数は多少減りますがいくつかございますね。」

「おお!それを教えてください!」

「そんなにお風呂に入りたかったの?」

「入りたかった。あったかいお湯に浸かれるのは一つの幸せだと思うぞ。」

「そこまで思い入れがあったのね、気が付かなかったわ。」

「ハンターをやってたらなかなか入れないのも仕方ないことだしな。でも家を買うなら風呂がついてるところがいい。」

「ジュンがそこまで言うなら構わないよ。」

「私もいいわよ。」

「ありがとう。」

「ではいくつかご紹介させていただきますね。」


 お店の人は地図と資料を持ってきて説明を始めた。

 どうやら物件の数はそこそこあるらしい。

 一つ一つ聞いてみる。

 治安の悪いところはまず下げてもらった。

 留守にする事も多いのに、治安が悪いところに住んでたら、空き巣に入られて物が全部盗まれるかもしれないからな。

 次にギルドから遠すぎる場所も下げてもらった。

 というか不便すぎる場所だったからって理由かな。

 残ったのは数件の物件。

 どれもいい値段がする。

 ただ、さっきから一つの物件が紹介されていない。

 それが気になるんだよな。


「残りはここら辺になりますね。ギルドからそれほど遠くもなく、治安もいい場所ですよ。」

「うーん。ところで一つだけまだ紹介してもらっていない物件があるみたいなんですが、何か理由があるんですか?」


 というと店員は困ったような顔をして話し出した。


「この物件は紹介するには問題がありまして。その、出るんですよ、ゴースト系の魔物らしきものが。」

「らしきものって、よくわかってないんですか?」

「ええ。何度か住んでみた人がいるんですが、何やら声がしたり家が揺れたりするという事で怖がって誰も住まなくなりました。」

「なるほど・・・。原因を解決できればいい物件ですよね?」


 間取りも問題ない。

 風呂もあるし、ギルドも近い。

 シロの魔法で解決できるのならここにしたいところだ。


「そうですね。問題のある物件ですので非常にお安くなっていますし、解決できるのでしたらおすすめですが、やめておいた方がいいかと思いますよ。」

「では一日様子を見させてもらえませんか?それで解決できそうならその物件を買わせてください。解決できそうもなければ他の物件にします。」

「私としてはそれでも構いませんが・・・。」

「では決まりですね。試しに一日住んでみます。」


 話し合いを終えてカギを預かった。


「シロの魔法で何とかするの?」

「そのつもりだ。場所もいいし値段も安い。出来る事ならここに決めたいところだな。」

「大丈夫かしら。お店でも何とかしようとしてできなかったってことは、それだけ強力なものがいるってことだと思うわよ?」

「ダメだったら素直に諦めるよ。物は試しだ、やるだけやってみようってことで。」


 シロの魔法でどうにもならなかったら俺たちに打つ手はない。

 家の中でエリィの魔法を撃つわけにもいかないし、俺とキリの攻撃なんか効くとは思えない。

 今回の事は完全にシロ頼みだ。

 それに危険は少ないと思ってる。

 声がするとか家が揺れるとか、直接危害を加えてくるわけじゃないかんじだ。

 それなら一日くらい試してみても大丈夫だろう。


「もしかして二人ともそういった物件はやめておきたかった?」


 俺も日本じゃ事故物件なんて絶対に嫌だからな。

 霊がいるかもしれないなんて、怖い思いはしたくない。

 だがこの世界じゃ普通に魔物としてレイスがいたし、そこまで怖くは無い。

 でも建物にそういったのがいたとなると不気味に思うかもしれない。

 もし嫌だったらやめておこう。


「構わないよ。倒せるんだったらいい場所だしね。」

「私も気にしないわ。」

「それなら一日試してみるってことにしようか。」


 二人とも気にしないらしい。

 この世界じゃそんなもんだよな、魔物の一種ってことで話は終わりそうだし。

 そういった感覚になったってことは、俺もこの世界に馴染んできたってことなんだろうな。


 家が見えてきた。

 庭の手入れとかしないといけないだろうが、そこまで悪くなってない。

 むしろ人が住んでいないのにきれいなもんだ。


「それじゃあ今日はここで一晩過ごすことになるからな。一応何かあったらすぐ動けるようにはしておこう。」

「依頼を受けてるときとあんまり変わらないわね。」

「でも家の中でゆっくりできるだけでも十分だよ。他の魔物の心配もないし。」

「そうね。何かが出てくるまでゆっくりするわ。」


 念のためまとまって休むことにした。

 本番は出てきてからだ。

 もっともそれもシロに丸投げだけどね。

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