96 ナバスと古代魔法文明
とりあえず喫茶店に行くという事であの場からは逃げ出した。
でもなぜだか彼は自然とついてきてしまった。
断ろうとも思ったんだが何となく断りにくい。
今はどうせ休日だしという事で諦めて相手をしている。
ちなみに彼の名前はナバスというらしい。
敬語も無理して使わなくていいと言われたからもう普通に話している。
「つまり魔力さえあれば全ての人が同じように恩恵を受けれたわけなんだよ。魔法を使える人というのは実際はそんなに多くない。それを考えるとどれだけ凄いことなのかがよくわかるだろう?」
「俺みたいに魔法が使えなくても問題ないってのは羨ましいな。何度も魔法が使えたらって思ったからさ。」
「そうだろう。魔法使いにとっては簡単な魔法だって、普通の人にとっては非常に難しいことなんだ。それをどんな手段を用いたのかはわからないが部分的だったかもしれないけど普通の人にも使えるようにしたというのは驚きだ。ぜひともその手段だけでも発見できればと思っている。」
「今はそういったマジックアイテムは無いのか?」
「今ではとてもじゃないがそんなものは作れない。せいぜいが火を付けるアイテムを作れるくらいなものさ。もっとも色々な実験を行っているから少しずつ進歩はしてるんだけどね。」
魔法を使えれば戦闘の幅が一気に広がる。
もしあるのなら見つけてみたいものだ。
何といっても憧れがあるからな。
一度手から魔法を飛ばしてみたいというのは多くの人が思った夢だろう。
「部分的な魔法を誰でも使えるようにしたって意味じゃ、火を付けるアイテムを作れたんだから、そのまま研究していけば古代魔法文明に近づくんじゃないか?」
「そうとも言えるけど道のりが果てしなく遠いかな。とにかくレベルが違うんだよ。何せ古代魔法文明の時は実戦で使えるような魔法まで使えたみたいなんだからね。」
「ちなみに今は?」
「少し大きな種火を作るのが精いっぱいかな。」
「確かにレベルが違うな。」
「だろう?それも元になったのは古代魔法文明のマジックアイテムだと言われているしね。正直よく再現できたものだと思うよ。」
そんなんでもあるのとないのでは違うからな。
うちは火打石で何とかしてるけど。
キリは不器用だけど火打石だけはうまいんだよな。
マジックアイテムに変えてもいいんだけど、今のところ不便さを感じていないから問題ないか。
「ナバスは何か作ったりはしていないのか?」
「もちろん試作品を作ってみているよ。失敗続きだけどね。でも実用的なところまではいってないにしても成功品もあるんだ。ぜひ見てほしい。」
「それはもちろんいいけど、何を作ってるんだ?」
「私が作ってるのは水のマジックアイテムだね。他にもいろいろ手を出しているけど、今のメインは水だよ。」
「水か。確かに出来れば随分と便利になるな。ハンターだって魔法使いのいないパーティーは水の問題が付いて回る。それを解決することができるだろうし。」
「そうだろう。それに井戸から水を引き上げるのも重労働だし並ぶのも問題だ、衛生的な問題だってあるだろう。水のマジックアイテムが安く出回るようになれば多くの人に恩恵があると思うんだ。」
よく考えてるんだな。
ぜひとも成功させてほしいものだ。
俺のパーティーにはシロがいるから水には困らないけど、いなかったらと思うとここまで楽に依頼を出来てはいなかっただろうし。
それに衛生的な問題も確かに大きそうだ。
皆わざわざ煮沸してから飲むなんてことはしてないだろうし、安全な水を確保できるのは意味のあることだな。
「それじゃあ飲み終わったら試作品を見に来てくれ。まだまだ実用性には乏しいがかろうじて成果の出たものもあるんだ。」
「え、今からか?」
「そうさ。せっかく古代魔法文明について話せる仲間ができたんだ、ぜひとも見てほしい。」
いつの間に仲間になったんだ。
まぁ話してて退屈しない奴だから構わないけど。
王都に友人ができたと思って素直に喜んでおこう。
「わかったよ。行こうか。」
「少し歩くことになるけど勘弁してくれ。」
喫茶店を出てナバスに連れられて歩く。
「見てくれこの人の数を。今は水に困ってないから何ともないけど、いつか水が不足しだしたらこの人たちは非常に困ることになるだろう?」
「そうなったら水のあるところに街でも作って人を分散するしかないだろうな。」
「確かにそうだね。でも街というのはすぐに作れるものじゃない。長い月日がかかるものなんだ。万が一の時に備えて水のマジックアイテムを完成させておきたいところだね。」
「よく考えてるな。ただの古代魔法文明にあこがれる奴かと思ってたけど、人の役に立つための研究をしっかりとやってるんだな。」
「実際あこがれている部分はあるよ。でもどうせ研究をするならいかに人の役に立てるかというのも大切なことさ。」
しばらく歩いていると人通りが少なくなってきた。
と同時に城が近づいてきている。
でっかい城だな。
遠くから見てもきれいだなって思ってたけど、近くで見てもやっぱりきれいだ。
「なぁナバス。家はどこなんだ?」
「もうとっくに見えてるんだけどね。もう少し待ってくれ。」
「そっちは城だと思うんだが・・・。」
「そうだね。その認識で間違いないよ。」
「城の研究者なのか?」
そうだとしたらあの考えも頷ける。
優秀そうなやつだし、国に仕えてるのかもしれない。
「似たようなものかな。ほら、やっと入り口だよ。」
手慣れた様子で入っていく。
すれ違う人は丁寧にお辞儀をしながら挨拶しているな。
「ナバスって結構偉い人なのか?」
「多少立場があるだけさ。私自身はまだまだ何も成し遂げていないよ。」
「というよりも俺はここにいて大丈夫なのか?」
「大丈夫。私の客人だというのは見てわかるだろうしね。追い出されはしないよ。」
「落ち着かないんだが・・・。」
さっきからチラチラ見られてる。
追い出そうという感じは無いが、どうも厳しい視線も向けられてる気がするな。
お城に俺みたいなどこの誰ともわからない奴がいればそういった視線も当たり前か。
「城なんて入ったことないんだぞ。どうすればいいんだ?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。普通は入ったことない人の方が多いと思うし。」
「だから緊張してるんだよ。研究室があるなら早く行こうって。」
「もう着いたよ。ここが私の研究室さ、ゆっくり見て行ってくれ。」
ドアを開けて中に入るとなんだかよくわからないものがいっぱいある。
多分一つ一つ価値のあるものなんだろうな。
古代魔法文明のものなのかもしれない。
書物もたくさんある、さすがは研究室と言ったところか。
「物が多くてすまないね。片づけは苦手でさ、どうにも散らかしてしまうんだ。」
「ここのものは自分で作ったものもあるんだろ?」
「ああ。そこらへんに転がっているのは大体私が作ったものかな。資料となるマジックアイテムは棚にあるよ。」
ナバスはベルを鳴らして使用人に飲み物を持ってくるように伝えてる。
ここに住んでしばらく経ってるのかな、随分と手慣れてるように感じる。
転がっている物を一つ持ってみる。
「これはどんなマジックアイテムなんだ?」
「それは失敗作だね。魔力だけで水を出せないかと思って作ってみたんだけど、どんな効果もなかったよ。そこらへんに転がってるのは大体そんな感じのものが多いかな。」
「一応試作品はあるんじゃなかったか?」
「その通り。見てほしいのはこれさ。」
そう言って指をさした先には二メートルくらいの大きい物体が鎮座していた。




