7 はじめての依頼
保存食は乾燥した肉、よくわからない固形スープと水を買って出発した。
村までは特に迷う道でもないようなのでまわりに気を付けながら雑談をしながら進む。
「へぇ、それじゃあ鍛冶屋が合わなくてハンターになったんだ。」
「うん。鍛冶自体には興味あったんだけど、どうも不器用でうまくいかなかったんだよね。力はあったんだけどさー。」
「なるほど、でっかいハンマー持ってるから力はあるんだろうなーってのはよくわかるけどさ。」
「ジュンはなんでハンターになったの?」
「うーん、完全に成り行きというか、ほかに選択肢がなかったからかなぁ。」
「そっか、選べる人なんて一握りかもしれないしね。ん、ゴブリンだ。」
キリは強かった。
三匹のゴブリンが現れた、とりあえず剣を使った戦闘に慣れたいと言ったらキリがすぐに二匹のゴブリンを吹き飛ばした。
あの小さい体のどこにそんな力があるんだろう。ハンマーなんて自分の体くらいあるんじゃないか?
俺も盾があるおかげか、余裕をもって戦えた。うまく切ることはできなかったが、たたきつけて切る感じで何とかなった。もっとも一刀両断にはほど遠いが。
「はじめて使ったけどこん棒よりはいいわ。盾があるってのも安心感があるし。」
「こん棒と一緒にしたらかわいそうだよ。まだまだ危なっかしいけど、慣れたら数匹くらいはまとめて相手できるようになると思うよ。」
そうはいっても出来るだけ一対一でお願いしたいところだ。
一月も耳と魔石をとっていたから、今は前ほどの抵抗感はなくなっている。サクサクとって次に向かおう。
それから2度のゴブリンとの戦闘をして村に着いた。
小さめの村だ、もっとも大きめの村だったら自分たちで何とかしそうではあるが。
とりあえず依頼主である村長さんに話を伺う。
やり取りしたことがないので今回はキリにまかせる。
「ようこそ、キラチ村へ。」
「依頼を受けてきましたエスプレッソといいます。ゴブリン退治の依頼を受けて来ました。」
「ありがとうございます、ご覧の通り小さな村ですのでゴブリンを退治する人手もおらんのです。どうぞよろしくお願いします。」
「わかりました、確認できただけでも構いませんのでゴブリンがどれくらいいたのか、また、どこにいたのかなどわかる範囲で教えてください。」
「正確な数はわかりませんが十~二十はいるのではと言われています。目撃情報が多いのは村の裏手にある森の中ですね。」
「わかりました、今日は遅いので明日から取り掛かります。」
俺たちのために空き家を用意していてくれたようで、そこで寝泊まりすることになった。
「早ければ二日で終わるかもしれないかな。二十近く刈れば問題なく成功を押してもらえると思う。」
「二十匹か、剣も念入りに手入れしておかないとな。今まではゴブリンを倒すのはメインじゃなかったから気合入れないと。」
「無理に突っ込んだりしなければ大丈夫だよ。怪我したら治してあげるからね。」
いい笑顔だ、なるべくお世話にならないように心がけたいものだ。
とりあえず武器の手入れをする、今日だけでもゴブリンと戦ったんだから手入れは必須だ。明日もよろしくとなるべく丁寧に手入れをする。
美味しくない携帯食料を食べたら早めに眠る。一日歩いたから疲れてはいるからね、明日への備えはなるべく万全にしておきたい。
さてゴブリン狩りだ、慎重に行こう。高ランクがゴブリンなどに不覚を取ったなんて話は掃いて捨てるほどある。
まして俺は最低ランク、一戦一戦が全力だ。キリも今までに見たことがないくらい気合が入っている。
「で、とりあえず歩いて探すって感じでいいのか?」
「そうだね、とりあえずはゴブリンの痕跡とか見ながら探してみようかな。目撃情報が多いってことはそれだけ歩いてるゴブリンが多いってことだと思うし。」
森の中を歩き回る。正直痕跡はよくわからない。けものみちっぽいものとかを報告するのが精いっぱいだ。
しばらく歩き回ったときにキリがゴブリンを見つけた。二匹だ。
一対一でサクッと倒す。
少数で出てくれたら何とかなる。今回は危なげなく倒せた。剣はいい。
次に会ったのは角うさぎだ、初めて見るがそんなに強くないらしい。少し大きいけど可愛い。
角うさぎからしたら俺は敵なんだろう。襲ってきたので心を痛めながら倒した。
うれしいことに肉はそこそこ美味しいらしい、今日の夕飯に持って帰ることにする。
まったく、ゴブリンが美味しく食べられればこんなに苦労しなくてもいいのに。いや、やっぱあれはいいや。見た目から食欲をそそらないし。
他にも単体でちらほらいたので倒しておく、意外と群れていないのかな。
「ゴブリンて群れないの?」
「リーダーに当たるのがいれば群れになって行動することが多くなるかな。
普通のゴブリンだけだと群れても三匹から多くて五匹くらいが多いよ。もちろん単独で行動しているのも多いし。例外もあるけどね。」
「そんじゃ今のとこはリーダー格はいなそうってことか。」
「今のところはかなぁ、目撃されてる数が多いらしいから少しの群れもあってもおかしくはないけどね。」
野良のゴブリンにしては個体数が多いから多少の集団も覚悟しておいたほうがいいみたいだ。
それにしても意外と見つからない、もっとわらわらいるものかと思ってたけどそんなことはないみたいだ。もっとも溢れるくらいいるようなら俺は今まで生き延びてはいないか。
日が暮れるまでに十六匹のゴブリンを倒して村に戻った。
夕飯は今日狩った角うさぎだ。角うさぎの肉はさっぱりして美味しかった。なるべくなら保存食より新鮮なものを食べたいものだ。
二日目。
昨日倒したからか思ったよりも出てこない。なにもおこらないまま森を歩く。
「目標は二十匹だろ?もう少しで終わりそうだな。」
「うーん。そうだといいんだけど、群れっぽいものがまだ倒せてないのが気になるんだよね。」
「群れか。じゃあ今日は探し方を変えたりする?」
「洞窟とかあればそこを調べるんだけど、村の人に聞いたら洞窟はないみたいなんだ。だから匂い玉を使ってみるよ。」
「匂い玉?」
「ゴブリンが好きなにおいが出る罠だよ。昨日でそこそこ倒したから、残りはまとめておびき寄せてみようかなって思うんだけど、どうかな?」
「来すぎたら撤退でいいかな、俺は同時に相手できるのはまだ二匹が限界だ。」
「そうだね。集まりすぎたら様子を見ようか。じゃあ匂い玉を使うね。」
キリが発火装置で火をつけると煙が出てくる。
なんというか生臭い、ゴブリンはこんな匂いが好きなのか?獲物のにおいってことなんだろうか。
しばらく待っていると、三匹のゴブリンが現れた。これくらいなら問題ない。
こういう時、キリは一匹引き付けておいてくれる。俺に戦闘の経験を積ませるために協力してくれるのはすごくありがたい。
一匹倒したときに増援が現れた。追加で七匹だ。はじめての群れだ。逃げるにはゴブリンの位置が悪い、それでも一応逃げたほうがいいか聞く。
「いったん引くか?」
「ううん、そのままやってみよう。少し余裕も出てきてるみたいだし、私も戦うから。」
戦闘継続になった。二対九、今までだったら絶対に逃げていた数字だ。
キリにばかり任せられない。なるべく早くゴブリンを倒さないと何が起こるかわからない。
目の前のゴブリンに集中する。相手が死角に行かないようにして、体勢を崩した瞬間に一匹。盾で目くらましをしてもう一匹。
戦えてる。次、向かってくるところを切り飛ばすのはまだ怖いので、木を盾にして相手の勢いを殺す。そして木の陰から出てきたところを思いっきり斬る。
ここでミスをした。ゴブリンがもう一匹いて木の反対側から回り込まれていた。そいつに腕を噛まれる。
「アアアァァァァァ!!!!!」
痛い痛い痛い!
見るからに鋭そうな歯だ、このままだとマズい。
剣で突き刺したいが暴れていて狙いがうまく突かない。
―ドォン!
キリがゴブリンを吹き飛ばしてくれた。どうやらほかのゴブリンも全部倒したらしい。
「まってて、今回復するからね。」
あぁ、前も思ったけど回復魔法ってのはすごい。みるみる治っていく。
「もう大丈夫だよ。」
「あ、ありがとう。」
「んふー、ケガしたときはまかせてよね。」
得意そうだ。ここは素直に感謝しておこう。
「これだけの数を相手にしたのは初めてだったからな、正直緊張した。」
「群れが残ってたみたいでちょうどタイミングがかぶっちゃったね。でもあれから新しく来ないってことはあらかた終わったかなぁ。」
「そうであってほしいわ。」
「軽く見回りをしていないようだったら村に戻ろうか。群れも倒せたし報告しようよ。」
「あーい。」
残りのゴブリンもいなかったので村に戻った。