59 洞窟かダンジョンか
今日も日課をする。
一般的なトレーニングはもちろんだが、最近はキリとのスパーリングも増えてきた。
俺としては防御、回避、そこからの反撃と身になるものが多い。
キリの動きが素早いのと、一撃が重いから耐えるにはこれ以上ない相手だ。
Eランクに上がって魔物の一撃の威力も上がってきたから非常に助かる。
特にこの間の火炎ウサギの突進はキリとのスパーリングをしてなかったら大怪我をしていたかもしれない。
これからのことを考えるともう少しメニューを増やすか、中身を工夫したほうがいいのかもしれないな。
そんな日課をこなし、朝食を食べてギルドに行く。
途中、キリとシロが屋台で買い食いしながら向かうのもいつものことだ。
前と違って今は懐が温かい、気楽に買い食いができるようになったのもいいことだ。
ギルドについて今日も何かいい依頼がないか探し始める。
「うーん。またオークか。」
「オークは大体いつも貼られてるよ。肉が人気だし、その分消費も激しいからすぐになくなるからね。」
「オークでもいいんだけどもう少し違うものも受けたいよな。」
「そうなると結構日にちがかかるものが多いね。後は護衛依頼だけど私たちには向いてないし。」
「そうなんだよな。」
近場の人気のある依頼はすぐになくなってしまう。
だから遠いところのばかり残るんだが、日数がかかるってことはそれだけ準備もかかるし何より行って戻ってくるだけで大変だ。したがって放置されやすい。
今日のところはオークにしておくかと思ったところでエリィから声がかかった。
「ちょっと気になる依頼があったわよ。」
「ん?どんなの?」
「洞窟の探索依頼ね。なんでも新しく洞窟ができたみたいだから、その探索をしてほしいみたい。」
「へぇ、ちなみに何が気になったんだ?」
「この洞窟が新しくできたってとこよ。もしかしたらダンジョンかもしれないわ。」
「ダンジョンって新しくできるのか?」
「そうよ。詳しい理由は分かってないけど出来たり消えたりするのよ。有名なダンジョンはそれだけ長く存在しているからってことね。」
「なるほど。ってことは、今回の依頼もダンジョンができたかもしれないから調べてくれって事か。」
「おそらくはそうね。出来たばかりのダンジョンは大抵難易度は高くないわ。だからもしかしたら美味しい依頼かもしれないわ。」
「だったら受けてみてもいいかもしれないな。キリはどう思う?」
「私もいいと思うよ。」
「よし、それなら受けてみよう。」
洞窟の探索依頼を受けて準備に取り掛かる。
今回は何が出てくるかわからない。マーリンさんのお店で毒消しなどの状態異常を回復する薬を買っておく。
今回の依頼は歩いて一日の距離だが、中がダンジョンだった場合何日かかるかわからない。
長くなってもいいように乾燥野菜を多めに買い込んでおこう。
準備が出来たら出発だ。
まだまだ時間は早い。おそらくは今日中に着くだろう。
「新しいダンジョンか、何かいいアイテムでもあればいいんだけどな。」
「そうね。ただ、いいアイテムがあるってことはそれだけ難易度が高い可能性もあるわ。もしいいアイテムを手に入れることができたら一旦引いた方がいいかもしれないわね。」
「なるほどな。そう考えるとダメなアイテムのほうがいいのか?いや、でもなぁ。」
「そういうのは出てから考えればいいと思うよ。」
「うっ、確かにな。でもダンジョンっていうとどうしてもさ。」
アイテムが欲しい気持ちを止めることができないんだよな。
そもそもそのために行くようなもんだろうし。
「気持ちはわかるけどね。」
「今回は依頼よ。アイテムも欲しいけどまずはしっかりと探索をしないといけないわね。」
「わかったよ。でもこの依頼ってどうやったら達成なんだ?」
「出来る限りの探索でいいのよ。一つのパーティーで全てを知ろうとしても無理だからね。撤退したときはそれなりの理由があれば大丈夫よ。もしも入ってすぐに凶悪な魔物がいたら、その情報だけでもいいかもしれないわ。何もなしにすぐに撤退じゃだめだけど。」
「そういうもんか。出来たばっかりで情報がないんだからそんなもんなのかな。」
「そういうものよ。」
確かに全てを調べて来いって言われても無理だしな。
危険なダンジョンだっていう情報を持ち帰れば、高ランクハンターに受けてもらうことも出来るんだし、いいシステムなのかもな。
俺たちの手に負えるダンジョンならほどほどに調べて出ていけばいいだろう。
なるべくアイテムを手に入れて。
「何を考えてるかわかりやすいね。」
「ふふ。私もアイテムは欲しいから気持ちはわかるわ。」
「仕方ないだろう?これから行くのはダンジョンなんだからさ。」
「やることは変わらないしいいと思うよ。でも魔物には気を付けてね。」
「もちろんだとも。」
前回のダンジョンでも危ない目にあったからな。
さすがにバーサーカーなんていないとは思うけど確率はゼロじゃない。
ちゃんと気を引き締めないといけないな。
「そういや、ダンジョンって前提で話してたけど違ったりはしないの?」
「……」
「……」
「あれ?もしかしてただの洞窟だったりする?」
「それは行ってみないとわからないわ。でも急に現れたのならダンジョンの確立が高いはずよ。」
「もし、ただの洞窟だったら洞窟でしたって言うしかないね。」
「そうだったら楽だけど嫌だなぁ。」
これだけ気合入れてダンジョンに行こうとしているのに、ただの洞窟だったらと思うと気分が盛り下がる。
でも洞窟だった場合も何か住み着いてるかもしれないし、しっかりと調査しないといけないのか。
「ダンジョンでありますように。」
「あはは、大丈夫だよ。多分。」
「なんか急に心配になってきてな。」
「気持ちはわかるけどね。でもそれならそれで危険はなかったんだからいいことだよ。」
「わかるんだけどさ、もう俺ダンジョンに行く気になってるから、それで急にただの洞窟でしたってなるとちょっとがっかりするのさ。
キリだって、さぁ肉を食べるぞってなってるのに、出てきたのが野菜だけだったら嫌だろ?」
「嫌だね!」
「それと同じだよ。」
「ふふ。なんだかとっても残念な会話になってるわね。」
返す言葉もない。でもそんな感じなんだよな。
キリには俺の気持ちがよく伝わったみたいだ、仲間としてこんなにうれしいことはない。
「そろそろ見えてもいいころなんだけどね。」
「もしかして通り過ぎたか?」
「いえ。道のりにあるって言ってたからそんなはずはないわ。」
「うーん。あ、あれじゃない?」
「え?あれかぁ。」
道のりの横にある岩山にぽっかりと穴が開いていた。
洞窟といえば洞窟だけど、俺が想像していた洞窟よりだいぶ小さい。
人が一人入れるくらいの大きさしかないな。
これはダンジョンじゃなくてただの洞窟か?
俺のテンションが下がる。
「おそらくこれでしょうね。出来たばかりってことだし間違いないわね。」
「小さくない?」
「私も出来たばかりのものを見るのは初めてだけど、そんなに大きくないみたいよ?」
「前のダンジョンの入り口は人工的に広げられたものだからね。これもダンジョンってことで人が通うようになると広げられると思うよ。」
「人の力で何とかなるもんなんだ。」
「なっても入り口位だけみたいだけどね。」
入り口だけだとしてもダンジョンに関与できるのは凄いな。
俺のイメージだと、ダンジョンは人の手によって変えられないものだと思ってたからな。
「とりあえず入ってみるか?」
「うーん。今日はもう遅いから明日にしたほうがいいと思うけど。」
「そうね。そこまで急ぐことでもないわ、中がどうなっているのかわからないから、なるべく万全の状態で挑みましょうか。」
「わかったよ。それじゃあ今日は近くで夜営をして、朝入ることにしようか。」
「それがいいわね。」
明日に備えて早めに体を休めることにした。
俺には洞窟にしか見えないけど、ダンジョンであってほしいな。




