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57 火炎ウサギ

 結局、夜に襲撃は来なかった。

 ウサギは夜行性ではないけど、それに近いものがあるって聞いたことがあったんだけど魔物だから違ったのかね。

 仕方ないので村にある畑付近で火炎ウサギの警戒に当たる。

 すでに村人は動き出している時間だ、挨拶をしておく。


「おはようございます。」

「おー、おはようございますー。」

「今のところは火炎ウサギは現れてないみたいですね。」

「そうですなー。ただあいつらは昼間に堂々とやってきたりしますんでー。」

「それはまた嫌な奴らですね。」

「村でも倒そうとはしたんですが、結局返り討ちにあってしまいましたわー。」

「強かったんですか?」

「そうですねー。魔法を使われると正直手も足も出ませんでー。」

「なるほど。」


 間延びした話し方をするおじさんと、そんなやり取りをしながら畑周囲を歩き回る。

 どうやら出没する時間は決まっておらず、火炎ウサギが気が向いたときにでもやってくるらしい。

 完全に餌場としてしか見ていないようだ。

 昼間に堂々と出てきてくれるならこちらとしてもやりやすい。

 食事をしに来たところを逆に俺たちの食材になってもらおう。


「待ってるだけってのは暇だな。」

「ちゃんと見張っとかないといけないけど、それでも暇だね。」

「お酒が欲しくなるわ。」

「それはダメだよ、姉さん。」

「分かってるわよ。」

「そもそも持ってきてないしな。気持ちはわかるが。」

「それに今回は私がやることってなさそうなのよね。」

「うーん、確かに俺とキリが倒すことになるか。」


 エリィに任せると食べられる部分がどれくらい残るかわからないからな。

 キリも吹き飛ばしてしまうかもしれないが、エリィに比べればまだ食べる場所は残るほうだ。

 可能ならきれいに倒したいところだが。

 肉はもちろんだが一番高く売れるのは毛皮だと聞いている。

 火に強いウサギの毛皮ということで少し高めの服に使われることが多いらしい。

 とはいえ俺たちのパーティーは素材をきれいに取ることには向いていないからな、贅沢は言うまい。


「まぁ安全が第一だ。ヤバイって思ったら躊躇なく撃ってくれ。」

「分かってるわ。」

「どっちかっていうと畑に被害を出さないように気を付けないとね。うまく引きつけられればいいんだけど。」

「そのためにこうして歩いて見回ってるんだ。大丈夫だろ。」


 そのまま朝は何も起きず昼過ぎになった。


「なかなか来ないな。」

「そうね。あら?あれは?」

「何か走ってきてるね、火炎ウサギかも。」

「よし、なるべく前に出て戦うぞ。」


 現れたのは二メートルには少し届かないくらいのウサギだった。

 見た目は普通のウサギだ、別に角が生えているわけでもない。

 大人しくて人懐っこかったらペットとして人気が出たかもしれない。


「こいつが?」

「うん。たぶんね。」

「よし、それじゃあ戦闘開始だ!」


 走ってくる火炎ウサギに対してキリがハンマーを振り下ろす。

 だがそれは予想していたのだろう、見た目にそぐわね軽いステップで避けてしまう。

 だが足は止まった。

 ここなら畑に被害は出ないだろう、存分に戦える。


「俺は一応畑に行かないように足止めを第一に考えて立ち回る。メインの攻撃はキリに任せた!」

「わかった!」


 一度走り出してしまえば追いつくのは難しい、それなら走らせなければいい。

 俺は畑を背に、盾を構えながら戦闘に加わる。

 巨大なウサギなだけあって爪もそれなりに大きく鋭い。

 振り下ろされる爪に対して、盾を構える。

 ―ギィン!

 いける。皮の盾とは全然違う。

 その代わりに少し重くなったが、そこは慣れと体を鍛えることで同じように使うことができるようになるだろう。


「そらっ!」


 防いでから素早く剣を振るう。狙いは足だ。

 だが火炎ウサギもその軽快な動きでかわしてしまう。

 見た目によらず動きは速く、攻撃も爪の鋭い一撃がある。

 思っていたよりも厄介な魔物だ。

 キリもハンマーを振り回すがまだ一撃も当たっていない。


「キリ、爪に気を付けろ!結構鋭いぞ!」

「うん!」


 火炎ウサギが狙いを変えてキリに襲い掛かる。

 だがキリもハンマーを盾にしたり避けたりと、一撃も食らわない。

 意識がこっちから逸れた、今がチャンスだ。

 もう一度足に斬りかかる。

 だが音で察知しているのか剣を振るうと素早く避けられる。

 フットワークの軽い奴だ、何とか一撃入れたいところだがそれがかなわない。

 一気に距離を詰めるとその分ステップで距離を取られる。

 おそらく自分に有利な位置をしっかりとってるんだろう。

 これまでの魔物とは一味違う。

 俺が攻撃を防ぎ、キリがハンマーを振るう。火炎ウサギが回避しながら攻撃を繰り出してくる。

 そんな攻防がしばらく続いたとき、火炎ウサギが距離を取って大きく息を吸い込んだ。

 そうして全身の毛を逆立てると炎を纏って突撃してきた。

 とっさに盾を構える。

 だが二メートル近くの突撃を受けて抑えられるわけもなく、大きく吹き飛んでしまう。


「グッ!」

「ジュン!」

「大丈夫だ!それより足が止まったぞ!」


 キリが素早く距離を詰めてハンマーを振り下ろす。

 火炎ウサギも爪で迎撃しようとキリを襲う。

 キリが素早く狙いを変えて、向かってくる火炎ウサギの腕にハンマーを叩き込んだ。

 火炎ウサギの腕は吹き飛びこそしなかったものの、骨から砕けていることは明らかだ。


「ナイスだ、キリ。これでこれまでと同じようには戦えない。」

「それでもまだ足は無傷だからね。さっきの突進もあるし気を付けないと。」

「そうだな。それでも有利にはなったんだ。一気に畳みかけるぞ!」


 二人で一気に距離を詰める。

 火炎ウサギも距離を取ろうとするが、片腕がつぶれたのが邪魔になっているのか、今までの俊敏さが少し失われている。

 距離を取られる前に足に一撃入れることができた。

 傷は浅いが攻撃が当たるようになってきた。

 左右から攻め立てる。

 火炎ウサギはさっきの攻撃でキリを警戒しだしたようで、俺は比較的自由に動けるようになった。

 ここまでくれば畑の守りは考えずに仕留めることを考えていいだろう。

 後ろに回り込み足を狙う。

 その間も片腕を振って暴れるが、キリには当たらない。

 その隙に片足に剣を突き刺した。

 効いたんだろう、火炎ウサギが叫び声をあげる。と同時にバックステップして大きく息を吸い込んだ。

 またあの突撃か!


「来い!」


 歯を食いしばって突撃に備える。

 来た!

 片腕が使えず、足に傷を負っているせいか先ほどの威力は無い。

 吹き飛ばされることもなく耐えることができた。

 そして火炎ウサギはキリの頭への一撃によって崩れ落ちたのだった。


「二人ともお疲れ様。」

「あぁ、思ったよりも強い魔物だったよ。」

「そうだね。素早くてなかなか当てられなかった。」

「魔法を撃とうか迷ったけどダメージ自体は受けてないみたいだったし様子を見させてもらったわ。」

「なんとかな。さすがはワイバーンの盾ってところだ。」

「性能の実験にはなったみたいね。」

「ああ。十分だ。」

「それじゃあ火炎ウサギを村まで運びたいわね、討伐した証明のためにも。荷車でも借りてくるわ。」

「わかった。」


 証明が終わったら剥ぎ取りだ。

 最初想像していたよりもきれいな状態で倒せたから毛皮は大分売れるだろう。

 肉はどうするか。限界まで持っていくか、途中で腐らないかな。

 腐ったとこだけ切り取って売ればいいか。

 他にも爪が売れるはずだ。忘れずに持って行かないとな。

 なんにせよ倒せたんだ、今日はウサギ肉パーティーだな。

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