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56 お茶を用意しよう

「火炎ウサギですか?」

「はい。お願いできたらと思いまして。」


 ギルドに入って依頼を物色してたらソアラさんに頼みごとをされた。

 何でも火炎ウサギという魔物が出たから倒してほしいという依頼らしい。


「そこまで凶暴な魔物のようには聞こえないんですけど。」

「ウサギとはいえ一メートルから大きいものですと二メートルになる個体もいます。油断できませんよ。

 今回お願いしたのは放置したままですと畑を荒らす可能性が高いのと、火炎ウサギのお肉がとても美味しいらしいからなんです。」


 キリの目つきが変わる。

 俺たちがハンターをやっているうえで飲食に対してある程度比重を置いていることはソアラさんには知られている。

 そこで今回丁度いい依頼があったから持ってきたんだろう。


「なるほど、興味深い依頼ですね。」

「でしょう?火炎ウサギのお肉は臭みがなくとてもさっぱりしているらしいですよ。ただ、熱に強いらしいので調理に時間がかかるみたいですけど。」

「オークとは全く質の違った肉のようですね。確かに食べてみたいです。」

「ジュン受けようよ。」


 キリが食いついたな。

 確かに食べてみたい気持ちはあるし、受けてもいいかな。

 手ごろな相手で新しい盾の性能を試してみたいっていうのもあるし。

 この火炎ウサギが手ごろな相手かはわからないが。


「エリィ、どうだ?」

「私は構わないわよ。さっぱりしているのなら私の好みにも合いそうだし。」

「よし。それじゃあその依頼を受けます。」

「ありがとうございます。」


 依頼は決まったし、いつもと同じように準備するだけだ。

 ただ今回は火炎ウサギのお肉を楽しみたいってのもあるから、少し値段はするが胡椒も持っていこう。

 食事を楽しめるときは楽しむのが俺たちのやり方だからな。

 そのうちオリジナルの調味料とか実験して作ってみてもいいかもしれないな。


「んー、だいたい揃ったけど食事を楽しむならもう一つ買い足すのもいいか。」

「まだ何か買うの?」

「茶葉を買っていくのはどうかと思ってさ。」

「あら、紅茶?」

「あぁ、せっかくうまい肉を食べるってのに他が寂しいと気分が盛り上がらないじゃないか。さすがに日持ちしないようなものは持っていけないが、茶葉なら日持ちもするし荷物にもならない。」

「そうね。せっかく美味しいものを食べに行くんだから、それくらいは買ってみてもいいかもしれないわね。」

「よし。茶葉を売ってる店を探そう。」

「それなら私が知ってるわ。着いてきて。」


 エリィに連れてこられたのは茶葉専門店だった。

 店の名前はフォイユ。店員さんはエルフの女性だ。

 大通りからは外れているがそこそこ人気のありそうなお店だ。

 茶葉だけで三十種類以上ある。

 これが地球ならほんの少しだけ知識もあるんだが、この世界ではどの茶葉がどういった味なのか全く分からない。

 素直に店員さんに聞くことにしよう。


「すみません。」

「はい。なんですか?」

「さっぱりとした肉に合う茶葉を探してるんですけどおすすめはありませんか?」

「そうですね、いくつかおすすめはありますね。一つ一つ紹介させてもらいます。」


 どうやらあまり渋みが強いものや苦みの強いものはやめて、肉に合わせてさっぱりと飲める茶葉がいいらしい。

 もちろん好みもあるので一概には言えないとは言われたが。

 とりあえずおすすめの中で値段が手ごろなものを買うことにした。


「ありがとうございます。」

「ちなみに淹れるときに注意したほうがいいことってありますか?」

「この茶葉は比較的早めに味が出るので最初は二分ぐらいを目安としてみてください。それ以上蒸らしてしまうとえぐみが出てきてしまいます。」

「あー、依頼の途中で飲むから器具は無いんだけどその場合は?」

「その場合はあらかじめ茶葉を細かく砕いておいて、お湯に好みの濃さになるように調整しながら入れてください。」

「わかりました。ありがとうございます。」


 基本的な淹れ方は地球と変わらないっぽいんだけど、依頼にティーポットを持っていくわけにもいかないからな。

 茶葉を砕いておくとするか。


「これで準備は終わり?」

「そうだな。とりあえずこれでいいだろう。」

「それじゃあ出発だね。」

「スタッカルドから約四日って言ってたわね。とりあえず依頼を出した村まで行きましょうか。」

「ちなみに馬車は?」

「通ってないみたいね。」


 歩きか、もう少し馬車が普及してくれていれば楽なんだけどな。

 仕方ない、歩いて向かおう。

 買い物が終わった足でスタッカルドを出る。


「どんなお肉かなー。」

「さっぱりしてるって言ってたからな。キリの好みに合うかはわからないぞ。」

「私はさっぱりしてるのも好きだよ。味がしっかりしてるといいな。」

「私は買った紅茶が楽しみね。どんな味がするのかしら。」

「少しでも楽しく食事が出来ればそれでいいさ。今回は報酬より火炎ウサギの肉を食べてみたくて受けたようなもんだしな。」

「そうだね。でも報酬も悪くなかったけど。」

「Eランクまでくると途端に報酬がよくなったよな。ここらへんからが何とか余裕を持って生活できるランクってことなんだろうな。」

「今までは見習いみたいなものだったのよ。ようやく一人前のハンターとして認められたってことでしょうね。」


 見習い卒業か。

 一応ワイバーンとも戦ったし、見習いは名乗れないな。

 次は一流を目指したいところだ。

 できることからコツコツと、だな。


 歩いて四日、特に何が出たという事もなかった。

 いつものようにゴブリンやフォレストウルフが何度か襲ってきたが、問題なく返り討ちにしている。

 目的の村に着いた。

 まずは村長に話を聞きに行く。


「失礼します。依頼できました「エスプレッソ」といいます。」

「ようこそ。お待ちしておりました。火炎ウサギの依頼で間違いありませんかな?」

「ええ、それで間違いないです。早速ですが依頼について伺っても構いませんか?」

「ええ、とは言っても伝えられることはそう多くは無いのです。

 ある日突然やってきて、畑を荒らして回っている。

 わが村はほぼ自給自足で成り立っています。これ以上の被害が出ると生きていくことができなくなってしまいます。なるべく早めの討伐をお願いします。」

「わかりました。火炎ウサギは毎日来るんですか?」

「必ずと言うわけではありません。ですが高い確率で来ます。」

「ではこの村で待ち伏せをさせてもらうということでどうでしょうか?」


 すると村長さんの表情が曇る。


「それは…被害が広がる前に討伐してきていただくことはできないのでしょうか?」

「探索に出ている時に村が襲われたら被害が余計に広がると思うのです。

 そこで畑の前にテントを張り、見張ります。火炎ウサギが出たらただちに出撃して討伐という形にしたほうが結果として被害を抑えられると思います。」

「そうですか、わかりました。それでお願いします。」


 こうして簡単な段取りを話し合って終わりになった。

 俺たちは畑の前に陣取り、火炎ウサギをなるべく畑に入れないように戦うことになった。

 うまくいけばこれ以上の損害を出さずに依頼を成功させることができるだろう。

 万が一畑の前に陣取ることで火炎ウサギが来なかったら別の手を考えなくちゃいけないが、多分大丈夫だろうと思ってる。


「それにしても仕方ないとはいえ、村についてもテント生活になるとはな。」

「これ以上畑を荒らされたくないって必死だったし仕方ないわよ。」

「それにパンもくれるし、良かったと思おうよ。」

「まぁな。とりあえずいつもと同じように夜営をして見張ろう。いつ襲撃が来るか分からないからな。」

「そうだね。」


 早めに解決できることを祈って順番に眠りについた。

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