55 休日と新装備
「マスター、おかわり。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
俺が今いるのは喫茶店ロイバーだ。
ここ最近の馴染みの喫茶店と言ってもいい。
少し暗めの雰囲気、そして飾りすぎない店内、渋めのマスター。
俺にとっては結構お気に入りのお店になっている。
そして最近来ているのにはもう一つ理由がある。
このマスター、実は元ハンターの盗賊、つまり罠を探して解除したり宝箱を開けたりしていたらしい。
その時の技術を少しでも学ぼうと思って通い詰めているのだ。
ちなみにそのための本も買った。
少々値段はしたが、ワイバーンの時の報酬を考えるとどうという事もない。
「マスター、こんなにうまく見つかるもんか?」
「そこは注意して見て頂くしかありませんね。罠と言うのはどれほど巧妙に隠されていても、どこかにそれとわかるような痕跡があるものなのです。」
「床だけじゃなくて扉や壁にも仕掛けられているんだろ?それらすべてを見落とさないようにって、盗賊ってのは凄いんだな。」
「慣れですよ。それに解除するべきなのはほんの一部です。多くの罠は起動しないように気を付けて通り過ぎてしまうのが一番です。」
こうして盗賊の手ほどきを受けているのは、俺たちのパーティーに専門の盗賊がいないからだ。
エリィも同じように勉強して身に着けているらしいが、それでも専門ではない。
ならば俺も学ぶことによって危険を少しでも減らそうと考えたわけだ。
特に中級のダンジョン以上になると罠が仕掛けられていることが多くなるらしい。
それなら少しでも技術を身に着けることで、ダンジョンでの危険度を減らすことができるだろう。
俺たちは情報を集めた結果、ダンジョンに入る確率が高いと思う。
色々なマジックアイテム、そしてレアな鉱石も手に入るかもしれないらしい。
俺たちが欲しいミスリルは上級のダンジョンで出たという話を聞いた。
まだまだ道のりは遠いがそこに向けてやるべきことは少しづつでもやるべきだろう。
だからこうして教えを乞うているわけだが、非常に難しい。
「スイッチを押してから回避するという方法もありますがお勧めはしません。どれほどの罠か予想を上回ることもありますからね。」
「うーん。なるべく安全に進みたいからなぁ。」
「ならば少しでも覚えておいて損はありませんよ。その本に書かれているのはあくまで基本です。
実際にダンジョンに入ったら自分なりに応用して突破しなくてはならないことの方が多いかもしれません。」
「このよくわかんないツールを使って解除していくんだよな。最初のうちは練習がてら簡単な罠も解除しながら進んでみるか。」
「それがよろしいでしょう。」
よくわからないツールと言うのは十徳ナイフみたいなもので、一つのツールで多くの罠に対応できるように作られている不思議な道具だ。
正直何に使うのか全く分からないものもついているので、個人的にこれでいいのか不安になっている。
「踏んで紐が切れる事で起動する罠は比較的簡単です。切れてしまうところから紐を外すだけで無効化できることが多いでしょう。しかし、それすら見越して仕掛けられていることもあるので注意深く見ることが大切です。」
「ちなみにマスターが一番嫌だった罠はどんな罠?」
「そうですね。床とほぼ一体となっていて壊しても発動、踏んでも発動、そして一本道と言う場合ですかね。」
「そんなのどうすればいいんだ?」
「私たちの場合は遠くから魔法を撃って突破しましたね。」
「そんなんでいいのか。」
「別に解除の腕を試されているわけではないのです。大切なのは罠があると気付くことです。かかってしまってからでは遅いのですから。」
「確かに。その通りだよな。」
勉強になる。
俺がまずやるべきことは罠を見つけることか。
解除するか、避けていくか、壊していくか。それはその場で決めることだ。
視野が狭かったな。
「ただ一つ。なるべく壊さずに解除しなくてはいけないものもあります。」
「え?」
「宝箱です。」
「あー。」
「こればっかりは出来る限り解除できるようになっていた方がいいでしょうね。」
「デスヨネー。」
そうか、宝箱だけは罠が仕掛けられていたからって無視したくないし、壊して開けようものなら中身も壊れてしまうかもしれない。
面倒だ。
そんな感じでここの喫茶店に通い詰めているわけだ。
マスターに礼を言って喫茶店を出る。
今日はミミールさんから盾を受け取る日だ。三人分の鎧はとっくに受け取っている。
早速向かおう。
「ミミールさん、こんにちは。」
「ジュンかい。盾は出来ているよ。」
「おお!見せてください!」
「わかってるよ。今持ってくるから待ってな。」
ついにワイバーンの盾が手に入る。
これで戦いやすさも大幅にアップするだろう。
「ほら。どうだい?なかなかいい感じに出来上がっただろう。」
見た目は大きめの鱗が張り合わされた盾といった感じか。
鉄も使われていて今までよりは重くなっている。
今までが軽すぎたっていうのもあるけど。
持ってみる。
思っていたよりも動かしにくい重さではない、これならすぐに慣れることができるだろう。
何よりも頼りがいがある。
今までの皮の盾と比べたら失礼かもしれないが、ある程度の攻撃も、魔法さえも防いでくれそうな安心感がある。
「気に入ったようだね。そいつは結構丈夫だよ。魔法に対してもそこそこ耐えることができるはずさ。
ただし重さは変わったから、受け流しをするタイミングとかは自分でしっかりと調整するんだよ。」
「わかりました。それにしてもこれはいいですね。一気に強くなった気がします。」
「気がするだけさ。使いこなしてこその装備品。それを忘れるんじゃないよ。」
「そうですね。肝に銘じておきます。」
「どれ、最後に微調整をするから動くんじゃないよ。」
グリップの長さや固定するベルトを調整してくれる。
長くお世話になるはずの装備だ。頼りにさせてもらおう。
「こんなもんかね。動かしにくいところとかはないかい?」
「そうですね、大丈夫だと思います。」
「まだまだだが多少は見れる装備になったじゃないか、これからも頑張んな。」
「はい、ありがとうございました。」
礼を言ってミミールさんの店から出る。
ちなみに代金は前もって払ってあるから心配いらない。
「ワイバーンと戦うってなってどうなることかと思ったけど、しっかりとリターンはあったな。」
多少リフレッシュしたしこれから頑張るか。
二人は多分宿にいるんだろう。
エリィが酒を買い込んで飲み比べているみたいだからな。
たまには俺もご相伴にあずかろうかな。
決して出来上がった盾を見せびらかしたいわけではない。無いったらない。
二人へのお土産に屋台で適当に買い物をしながら宿に向かった。
「エリィ?いるか」
「ジュン?どうしたの?」
「たまには俺もお酒を貰おうかなって思ってな。」
「ふふ、いいわよ。飲みましょう。」
「キリとシロにもお土産だ。屋台で色々買ってきた。」
「ありがと。シロ、何食べる?」
「シャー。」
俺も串焼きを食べつつ適当な酒をコップに入れて飲む。
これはちょっと甘ったるいな、肉にはあまり合わないかもしれない。
俺はさっぱり目が好きだからな、次の一杯はエリィに聞いてから飲もう。
「あら。ワイバーンの盾が出来たのね。」
「ん?ああ、さっき出来てな。ミミールさんに調整してもらって持ってきた。」
「皮の盾から随分とランクアップしたわね。」
「そうだな。あれはあれで使いやすかったんだが、頼りになるかと言われるとそうでもなかったからな。」
「うん。見ててハラハラした。」
「それは悪かった。でもこれでそんなことは無いだろう?いかにも頼りになりそうな盾だからな。」
「そうだね、ある程度は敵の攻撃に耐えられると思うし安心かな。」
「油断はしないようにね。」
「まだ慣れてない盾だからな。慎重に使っていくさ。」
それぞれリフレッシュもできたみたいだし、そろそろ依頼を受け始めるか。
新しい盾も早く俺になじませないとな。




