53 戦後処理
ワイバーンとの戦闘が終わってすぐに怪我人の救助に動き出した。
しっぽに吹き飛ばされた人や爪にやられた人たちへ、回復薬を渡したり回復魔法を使ったりしている姿がそこかしこで見られる。
「俺たちは何とか軽い怪我だけで済んだな。」
「そうだね。姉さんはお疲れだけど。」
「一日で三回の魔法はちょっときつかったわ。普通に撃てればそんなこともないんでしょうけど。」
「でもエリィの魔法のおかげでだいぶ助かったんだ、みんな感謝してるよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいわね。」
事実、銀の爪がくるまではエリィの魔法でしかワイバーンの隙を作り出すことができなかったといっても過言ではない。
そう考えるとやっぱりエリィの魔法は凄いんだろう。
「よう。」
「あ、ボーグさん。ありがとうございました、助かりましたよ。」
「いや、最後の魔法は凄かったぜ。あれのおかげで逃がさずに済んだ。それにしてもお前のパーティーも今回の依頼に来てるとは思わなかったがな。」
ボーグさんは言うと大声で笑った。
「なんでも人がいないとかでメンバーに入れられたんですよ。もうだめかと思いました。」
「そうか。それは災難だったな。メンバーも増えてるみたいだし、改めて挨拶といくか。
俺たちは「銀の爪」Bランクだ。おれはリーダーのボーグ。あそこのちょっと変わった奴がロッシュ。虎の獣人で大剣を持ってるやつがターニャ。エルフの魔法使いがサインフォートだ。よろしくな。」
「私はキリ。ハンマーと回復魔法を使うよ。」
「私はエリィ、魔法使いよ。」
改めてボーグさんと俺のメンバーの自己紹介をする。
「ところで今のランクはいくつだ?」
「Eランクです。」
「Eランクでワイバーンの依頼に選ばれるとは大したもんじゃないか。
最初受付で聞いたときは間に合わなくて全滅してるんじゃないかと心配してたんだが、意外にもって言ったら失礼か、持ちこたえてるどころか傷を負わせてるときたからな、びっくりしたぜ。
ジュンも強くなってるみたいだしな。」
「まだまだですよ。今回はみんなで協力して何とか持ちこたえてたって感じです。」
「それでも大したもんだ。今回のことはとことんタイミングが悪かったのと、問題行動をしたやつがいたみたいでそれが重なった結果での緊急事態だったわけだ。」
というとワイバーンを引き連れてきたハンターの二人に厳しい視線を向ける。
ボーグさんがこんな視線を向けるんだ、やっぱり悪質な行為をしたってことなんだろうな。
「まぁあいつらは上の人間が適切に処分するんだろう。俺たちは連れていくだけだ。お前らは大丈夫だろうが、あまりいい調子になって似たようなことをしないようにな。」
「はい。気を付けます。」
そう言うと銀の爪の面々とワイバーンを引き連れてきたハンター二人のところに向かっていった。
「Bランクハンターってのは凄いんだな。」
「うん。あのワイバーンと正面から渡り合ってたもんね。」
「俺は向き合ったら少しの間逃げまわるので精いっぱいだったよ。」
「それでも少しの怪我だけで済んだのだから良かったじゃない。」
「まぁね。こんな事、二度とごめんだけどさ。」
「それは私たちだけじゃなくて、ここにいる人みんなが思っているでしょうね。」
「そりゃそうだな。」
「でも無事終わったんだから良かったよ。」
確かに無事終わった。
正直ここまでかと思ったからな、仕方ないこととはいえギルドに苦情の一つでも言いたいもんだ。
ひとまず全員の手当てが一段落したらしい。
そうなるとここでやることはない。
一部のハンターがここに残りワイバーンを誰かに取られないように見張り、残りはスタッカルドに戻って荷車をいくつも持ってこないといけない。
さっさと行動に移してワイバーンをギルドに運び入れる。
するとギルドで大声で言い争いをしている声が聞こえてきた。
正確には言い争いではなく一人が喚いていると言った方が正しいか。
原因はワイバーンを引き連れてきたハンターだった。
どうやらそのうちのリーダーが自分たちの立場を説明されて、大声で反論を始めたらしい。
曰く、自分たちはワイバーンに襲われただけであってスタッカルドに危機をもたらそうとしたわけではないと。
曰く、自分たちも戦ったのだから分け前を貰える権利はあるはずだと。
つまり自分たちは無罪で報酬の一部をよこせと言ってきたわけだ。
だが、ギルド内は静かだった。
誰かが声を荒げて反論するわけでもない、かわいそうなものを見る目でワイバーンを引き連れてきたハンター達を見ているだけだ。
「おっしゃいたいことはそれだけですか?」
「なんだと!?」
「ですからそれだけですかとお聞きしたのです。
まずあなた方が自分からワイバーンに向かっていったという報告が二件届いております。つまり襲われたのではなく戦いに行って負けそうになったからこのスタッカルドまで逃げてきたという事になります。
次にそれだけのことをしておいて分け前を要求できる権利はありません。
以上です。」
「ならそいつらが嘘をついてるんだ!」
「残念ながら信頼性の高い報告です。その報告はワイバーンの存在の報告と共にされましたから。」
「誰だ!そんな報告をしたやつは!?」
「それはお教えできません。」
リーダーが血走った目であたりをキョロキョロする。
運が悪いことに目が合ってしまった。
「お前だな!あの時逃げ出した臆病者め!!」
あぁ、面倒ごとに巻き込まれたくなかった。
視線でまわりに助けを求める。
だがやはりリーダーをかわいそうなものを見る目で見ているだけだ。
仕方ない、自分で何とかするしかないか。
「確かにワイバーンの報告をしたのは俺だ。そしてそのついでにお前たちのことも報告したな。」
「貴様…!」
「だがそれのどこが間違えている?俺は自分の力量を考えて早くギルドに報告するべきだと思ったからしたまでだ。そこに文句を言われる筋合いはないはずだ。」
「ならばなぜ俺たちのことを言った!?必要ないことだろう!」
「だからついでだと言っただろう。その途中でこんなこともありましたよって話しただけだ。」
もはや冷静に考える力も残っていないのか、ほぼ自白だろという事まで口走っている。
そして何を思ったか支離滅裂なことまで話し出した。
「そうだ!こいつらが悪いんだ!俺はこいつらに一緒にワイバーンを倒しに行こうって言ったんだ!それを無下にしやがったんだ!
こいつらは強力な魔法が使えたんだ!それを利用すれば俺たちだってワイバーンを倒せた!全て協力しなかったこいつらが悪い!」
周りのハンターに切実に訴えている。
だがその訴えが届くことは無い。
なぜなら誰が見てもどちらの行動が正しかったのかが明白だからだ。
「協力するわけないだろう。俺達はEランクだぞ。そしてお前らもEランクだったと記憶している。
そこのアンタ、すまないが答えてほしい。この場合は戦いに行くのと報告に行くのどっちが正しいんだ?」
「…当然報告だ。近場にワイバーンが出た、すぐにでもギルドに報告するべき問題だ。」
「だそうだ。」
リーダーは他の人にも目を向けるが他のハンターも目が物語っているか、目を逸らされるかで次第に大人しくなっていった。
「話は終わりましたか?
あなた方の身柄は衛兵に引き渡されることになります。訴えたいことがあるのならば、しかるべき場所で訴えるんですね。」
ここでの話は終わりという事だ。
そしてワイバーンを引き連れてきた二人にとっては今後明るい未来は望めないだろう。
俺も他人ごとではないな。
いい気になって似たようなことが無いように気を付けないといけない。
それにしてもソアラさん怖いときは怖いんだな、怒らせないように気を付けよう。
少し時間がたった後衛兵たちによって二人は連れていかれた。
自業自得ではあるが少しかわいそうではあったな。




