51 対ワイバーン
「いいか、俺たちが前に出る。お前らは出来る限りのサポートをしてくれ。
中距離攻撃の手段を持たないものは決して焦るな、チャンスが来たら攻撃してもいい、だが無理だけはするなよ。
俺たちは粘り強く戦い、追い返せばいい。それを忘れるな。」
Cランクのリーダーが全員に声を掛ける。
さすがはCランクといったところか、やるべきことがはっきりしている。
「この場は俺が一番ランクが高い、一応リーダーとさせてもらう。行くぞ!!!」
「「「「「おう!!!!」」」」」
スタッカルドを出て街道を進む。
情報が本当なら歩いて二時間もしないうちにワイバーンとあうだろう。
「それにしても本当にワイバーンと戦うことになるとはな。」
「情報を持ち帰った時点で終わったと思ったんだけどね。」
「運が悪かったわね。」
「二人とも意外と落ち着いてるな。」
「そんなことないよ。ただやることは変わらないし、ここまで来て逃げることも出来ないからね。」
「そういうことよ。私だって戦わずに済むなら戦いたくはないわ。」
「姉さんの魔法なら追い返すことも出来るんじゃないかって期待してる。」
「どうかしら、これまでの相手とは格が違うからあまり自信はないわね。」
「でも俺とキリはワイバーンが下りてこないと何もできないからなぁ。エリィがカギになりそうだ。」
「そうね。出来る限り頑張るわ。」
エリィの魔法は凄いからな、俺も期待はしちゃうな。
それに一パーティーとはいえCランクもいるんだから、合わされば追い返すことぐらいは可能な気もしてきた。
俺の出番なんかないかもしれないな。
そうだといいなー。
「見えたぞ!ワイバーンだ!」
くそっ、やっぱりいたか。
ワイバーンは羽ばたきながら足元にいるハンターをいたぶるように追いかけまわしている。
まだ遠くてわからないがあの時のハンターだったらここまで逃げてこれたのは凄いことなのかもしれない。
確かに普通のEランクよりも実力はあっただろうな。
見えるのは二人か。他がどうなったのかは聞くまでもないことだろう。
「さっき言ったことを忘れるなよ!戦闘準備!」
各自武器を構える。
魔法使いはすでに詠唱に入っている人もいる。
そうしているうちにハンターが逃げてきた。やっぱりワイバーンに向かっていったハンターだった。
「た、助けてくれ!」
ワイバーンが近づいてくる。
怖い。雑魚とはいえ竜種と言った意味がよくわかる。
鋭そうな牙と爪、発達した後ろ脚、大空を自由に飛び回る大きな翼とそこについている前脚。
そしてその五メートルはありそうな巨大な体が、自分は圧倒的な強者だと主張している。
震えだしそうな手に力をこめて剣を握る。
「どいてろ!!攻撃開始!!!」
矢や魔法がワイバーンに向かって降り注ぐ。
だがワイバーンはそれらをあざ笑うかのように避けていく。
いくつか当たったのもあるだろうが全くダメージになっていない。
「くそっ!」
そのままワイバーンはこっちに向かってくる。
各自戦いやすいように距離を取る、かたまっていても戦いにくいだけだ。
俺はキリと一緒に隙を窺う。エリィは後方で魔力をためている。
前線でワイバーンとの戦闘が始まった。
あの巨大な爪をなんとかいなしながら切り付けているが攻撃はなかなか届かない。
援護するために矢が次々と放たれるがワイバーンの分厚い鱗の前には意味がない。
翼を狙っている人もいるみたいだが、翼も相当に硬いらしく攻撃が通じていないように見える。
「ゆっくりと回り込め!チャンスがあれば後ろから切り付けろ!」
「「おう!!」」
リーダーの声に従ってCランクのパーティーが動き出す。
俺たちも少し距離を取りながら回り込む。
他のパーティーも有望な人たちが集められただけあってゆっくりとワイバーンを囲っていく。
下りれば攻撃のしようもあるんだが、羽ばたき続けているために攻撃するチャンスがやってこない。
結局囲まれたのを嫌がったのか、ワイバーンは一度その場を離れて仕切り直しとなった。
「ふぅ。いいぞ、何度でも回り込め。ワイバーンが地上に降りた時がチャンスだ、それまでは我慢勝負だ。」
ワイバーンは空を飛び回っている。いつ攻撃しようかタイミングを窺っているんだろう。
俺たちは気を抜かずにワイバーンを目で追いかける。
しばらくすると再び羽ばたきながら降りてきた。後ろ脚の爪で攻撃するためだろう、中々地上に降りない。
皆、何も言われなくても素早く囲い込む。
その瞬間ワイバーンのしっぽが振るわれる。
三人ほど攻撃を食らったようだが、防御が間に合ったようで戦闘に支障はなさそうだ。
回り込んだ魔法使いがワイバーンに魔法を当てていく。
そこまでダメージにはなっていないだろうが、態勢を崩すことはできたようで遂にワイバーンが地上に降りた。
「いまだ!後ろをとれ!」
「「「おう!!」」」
一斉に斬りかかる。
皆考えることは同じようで、まずは邪魔なしっぽを狙い始めた。
―ギィン。
弾かれるような音が聞こえてくる。
ワイバーンはしっぽまで頑丈なのか、それとも俺たちのランクの武器じゃ切れ味が足りないのか。
それでも攻撃を続ける。俺も攻撃をと思った瞬間、ワイバーンが羽ばたいて空へと逃れた。
「チッ、逃げられたか。いいか!しっぽを切り落とすのは無理だ、なるべく柔らかそうなところに剣を突き刺せ!いろんなとこを刺されれば流石に逃げていくだろう!」
確かに、鱗のないところなら刺すことができてもおかしくない。
問題は次のチャンスをどう作るかだ。
さっきの一撃がワイバーンを本気にさせたようで、明らかに雰囲気が変わっている。
俺たちから少し距離を取るとそのまま地上に降りた。
地上戦に変更したか?
次の瞬間、そのたくましい四肢を使って突っ込んできた。
やばい、防御なんて無理だし避けるしかない。
ワイバーンの見た目で後ろ脚しか発達してないと思ってたが、意外と前脚も強靭らしくスピードが速い。
何よりあの牙に捕まったら助からないだろう。
「キリ、大丈夫か!?」
「大丈夫!でも結構吹き飛ばされた人がいるよ!」
「真ん中にいたらあれはきつい、ここからは動き回らないとだめかもしれない!」
「わかった!」
今の一撃でだいぶやられたかもしれないな、回復して復帰してくれることを祈るばかりだ。
「リーダー!どうする!?」
「今は回避だ!みんななるべくダメージを負うな!」
そうなるよな。
ただここをチャンスに変える人もいる。エリィだ。
飛んでいる時よりも当てやすくなったんだろう、このタイミングで溜め込んでいた魔力を解放した。
轟音と共にワイバーンに集中する怒涛の魔法。
その瞬間、俺とキリはワイバーンに向かって走っていた。
エリィの魔法なら多少は効くはず。それならその瞬間には必ず隙ができる。
パーティーだからこその信頼。
そしてその信頼は裏切られない。
エリィの魔法を受けたワイバーンはわずかとはいえ体勢を崩し、隙をさらけ出していた。
「キリ、行くぞ!」
「うん!」
ここからなら外さない。俺はわき腹に剣を突き刺す。
キリは前脚にハンマーを叩き付けた。
よし!とりあえず攻撃は通った。後は無理をしないで後退だ。
「引くぞ!」
「わかった!」
わずかなやり取りだったが初めてのダメージを与えることに成功した。
まだ先は長いだろうが、積み重ねていけば撃退することも出来るだろう。
そんなことを思っていたらリーダーに声を掛けられた。
「やるじゃないか。二撃とはいえ入れることができたのはでかい。」
「うちの魔法使いは凄いんですよ。まだまだこれからですよ。」
ワイバーンは起き上がってこっちを睨みつけている。
ターゲットになったとか勘弁してほしいんだが。
エリィは次の魔法までに時間がかかるだろう、それまでなんとか時間を稼がないと。
ようやくこっちの攻撃が通じたところだ、ここからだろう。




