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5 原始的でも武器は武器

 翌日。

 朝食は屋台で食べることにして、少し考えておくことがある。

 昨日の採取についてだ。たかが薬草と思っていたが意外と稼げることはわかった。

 採取とはいえいつ魔物が出るかわからないから命がかかっていることを考えると妥当な値段なのかもしれない。なので思ったよりも暮らしていけそうだ。

 だがゴブリンなどが出た場合、現状逃げる以外の選択肢をとっていない。

 袋を担いで逃げきってから別のところで薬草を探す。これでは少々効率が悪い気がする。そもそも逃げ切れなかったらそこで終わりなのだから一日博打をして勝ったようなものだ。

 ならば気は進まないがゴブリンを倒して、討伐証明である耳と魔石をとったうえでふたたび薬草を探したほうがいいんじゃないかと思う。

 出来ることなら戦いたくはないがハンターとして生きるなら戦う手段は必要になるだろう。なにせ街からでて行動することが多いのは想像つくのだから。


「あの四人が倒してるところを見てて、ゴブリンくらいなら多分やってやれない相手じゃないと思うんだよな。問題は精神的に俺がそういうことをできるのかだ。」


 戦いが身近にあればそういうものとして考えられたかもしれないが、そういうわけではなかった。

 動物だって殺したことはない、普段食べてた肉だってお店ですでに肉になったものを買って食べていただけだ。料理で少し包丁を使うのとはわけが違う。さらに、今回は人型のものを殺さなくてはいけないと思うと気が重い。

 だがやらなくてはいけない、いつまでも逃げるのみで通じるわけもないのだから。戦わないとと心に決める。


「でも武器はもらったナイフ一本だからなぁ。」


 出来るだけ安全を確保しながら戦いたい。しかしナイフはリーチの問題で超近接攻撃になる。可能ならもう少し長めの武器を用意したいがそんな金はない。


「うーん、棒を削って尖らせるか。ゴブリンくらいなら槍代わりに使えるんじゃないか。そうだな・・・それでためしてみるか、ダメだったら全力で逃げよう。」


 俺の今日の方針は決まった。

 無理なく安全に。良い棒があったら削って槍にしておく。ゴブリン一体だけなら戦ってみる、ただし無理だと思ったらすぐ撤退。

 これで問題はないはずだ、あったらその時に考える。


「それじゃあ軽く食べてから森に行くか。」


 昨日とは別の串焼きを食べた、気のせいかこの世界の串焼きはうまいきがする。


 森についた。さっそく手ごろな棒を探す。


「ある程度の長さがあって、太さもほしいかな、折れたら大変だ。」


 しばらくすると手ごろな棒があったので早速加工する。難しいことはしない、ただひたすら尖らせていくだけだ。

 出来上がったら突いてみる、いいのかわからないが使いにくくもない気がする、多少の太さもある、信じよう。

 さて薬草探しだ、なるべく多く探したい。今のところ大事な収入源だ。

 まわりにも気を付ける、気が付いたら目の前にいたなんてことになったらパニックになる自信がある。安全第一だ。


 いた、ゴブリンだ。

 一匹のようだ、やるか?今ならまわりに何もいない、やるなら今だ。

 槍を構えて忍び寄る。まだ気づかれていない。不意打ちでもとりあえず倒せればいい。そーっと・・・今だ!


「うぉあらあああーー!!」


 狙いがずれて腹にかすった、まっすぐ突き出すのがこんなに難しいとは。

 今は反省するときじゃない、まず倒さないと。

 突く、突く!偶然腕に刺さった。でもそこまで大きな傷になっていない。

 マズい、思うように当たらなくて焦ってきた。ゴブリンも態勢を整えてきてる。

 うまくあたらないならただの棒として殴りつける。とどめの時だけ刺せばいいだろう。

 棒で殴る、意外と軽いのか態勢を崩せた、いける。

 後は刺すだけ。


「う・・・」


 刺すだけだが心に来るものがある。やらないととわかっていてもためらってしまう。

 目を瞑って一気に刺す。何度も。


「ううぅぅぅおぉぉ!!!」


 恐る恐る目を開けてみる。

 体中から血を流してゴブリンが倒れていた。


「う、うおええぇぇぇ・・・」


 吐いた。

 今までゴブリンを倒しているのを見ていた時とは違い、俺がやったという実感が頭を真っ白にする。

 だがまだ終わりではない、耳と魔石をとらないといけない。

 ただでさえ限界ギリギリだというのにさらに耳を切って、胸を切り開くことをする、また吐きそうだ。


「くっ、成仏してくれよ。」


 震える手を何とか抑え、耳と魔石を手に入れる。

 これを毎回やらないといけないのか、辛すぎる。


「これでも大した金にならないんだろうな、ゴブリンだもんな。」


 ゴブリンから取るものも取った、一休みしよう。

 こんなに精神的に疲れたのは初めてだ。正直もう帰りたい。

 休みつつ棒をもう一度削る、木だけあって一度使うと鋭さがなくなってしまう。

 武器も早めに調達しないと。


 薬草採取に戻る。草を切り取る。


「あー、心が落ち着くわ。」


 袋に薬草がたまり次第街に戻ろう。


 街についた。

 ゴブリンの耳はあくまでも討伐証明で、薬草と変わりない値段だったが、魔石は想像よりは高かった。そうでもないと討伐する人がいないのか?

 もしかしたら魔石はたくさん使われていて需要があるのかもしれない。

 一日に二度薬草を納品すれば十分だからもう一度行かないといけない、今はおなかに何も入りそうにないからすぐにむかうことにしよう。


 本日二度目の森。

 いつゴブリンが来てもいいように手早く薬草を集める。

 とはいえ、薬草を探しているのはおれだけじゃない、そうそうすぐに見つかるわけでもないが。

 一度目のゴブリンと戦った時のことを思い出してみる。

 うまく不意打ちができたのはよかった、ただまっすぐに突くことが想像以上に難しい。結局殴り倒す感じになったのは反省だ。

 薬草をとることも大事だが、突く練習もしたほうがいいのかもしれない。

 しばらくただまっすぐに突きだす練習をする。


「フッ!・・・フッ!」


 狙ったところに強く突くということは難しんだな。どうしたもんか。

 突くのはとどめだけにして最初から殴り倒すようにするか。

 それならまだ当てやすい。そうしよう。

 少し短くて重さのある大きめの木に、削って持ち手を作る。

 うん、これ見たことある、こん棒だ。

 原始的とはいえ武器として使われていたんだから問題ないはずだ。

 ナイフよりはリーチがあるしこれでいくか。武器を買うまでの我慢だ。

 安全にとどめをさせるように槍は少し短めにして持っておこう、ナイフでのとどめは抵抗がある。というかいきなり動かれたら怖い。


「うん、槍よりは使いやすい。振るだけでいいからさすがに当たるだろ。」


 使用感を確かめたら薬草をとる作業に戻る。

 いる、ゴブリンだ。

 今回は相手もこっちに気付いてる。素早く手作りのこん棒を構える。

 走ってくるが、そこまでのスピードじゃない。

 近づいてきたタイミングでこん棒を全力で振る。


 ゴスッ!


 当たった。二度、三度と振り下ろす。

 とどめに槍で一突き、動かないな。

 倒したようだ。こん棒つえぇ、今回は危なげなかったんじゃないか?

 さて・・・耳と魔石か、これは慣れるんだろうか。正直やりたくない。

 こみ上げる吐き気と戦いながら耳と魔石をとった。

 現状ではこれで精いっぱいだ。こん棒に少しでも違和感が出たら作り直すようにして採取を続けよう。


「ふぅ、薬草もそこそこたまったし、戻るか。」


 街に引き揚げた。

 あの後二度ゴブリンと遭遇したが運よくどちらも一匹だったので倒した。これで多少収入が多くなる。

 換金した後、街でスープとパンを食べた。正直、今日は肉が喉を通りそうにないので。

 それでも昨日よりはよく稼げたのだから良しとしよう。武器がいささか原始的だが使えないことはないし、これは前進だ。


「それにしても疲れた。もう寝よう、寝て忘れよう。」


 この日、悪夢にうなされたのは言うまでもない。

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