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49 竜種と報告と

 外に出るとまだ朝日が出ていない、朝ぼらけといったところか。


「どうした、キリ。」

「私の見間違いかもしれないんだけど、あれを見てほしいんだ。」

「あれ?」


 指をさした方向を見る。まだ寝起きで目がはっきりしていないからよくわからない。

 隣にいるエリィを見る。


「あれは…もしかしてワイバーン?」

「姉さんにもそう見える?遠いから自信はなかったんだけど、鳥とは違うしもしかしたらって思って。」

「本当にワイバーンだとしたらマズいわね。少なくとも今の私たちの手に負える相手じゃないわ。」

「うん。早めに街に戻ってギルドに連絡したほうがいいんじゃないかなって思うよ。」

「そんなにやばい相手なのか?」


 正直、ワイバーンと言えば竜種の代表的な雑魚のイメージがある。

 中盤辺りに現れてあっさりと倒されていく、そんな存在だと思っていた。

 だが二人がこっちを見る目は呆れているようだ。


「いい?ワイバーンは亜竜とは言え竜種なのよ。他の魔物とは強さが全く違うと思ってもいいわ。私たちの攻撃がどこまで通じるかはわからないけど、倒すのは無理よ。」

「うん。戦ったら美味しく食べられちゃうだろうね。」

「そんなに強いのか。いや、俺のイメージと違ってたからさ。」

「どんなイメージだったの?」

「竜種の雑魚かな。」

「間違ってはいないわ。ただし雑魚でも竜種なのよ。」

「なるほど。ちなみに戦うにはどれくらいのランクなんだ?」

「最低でもCランクね。もっとも単独では無理だと思うわ。複数のCランクで何とか倒すってところね。出来ればBランク以上がいてほしい相手よ。」


 それは強いな、ゴブリンが集落を作ったときと同じ脅威を単独で作り出すのか。

 腐っても鯛みたいなもんか。違うか。

 どのみち俺たちにできるのはギルドに報告することだ。

 出来る事が限られているのなら素早く行動するに限る。

 このままここにとどまっているだけでも危ないだろうしな。


「よし、それじゃあすぐに荷物をまとめてスタッカルドに戻ろう。」

「それがいいわ。」

「もう火は消してあるよ。」

「わかった。移動速度を考えると荷車のオークを減らしたいところなんだが。」

「遠いからそこまでしなくても大丈夫だと思う。でも急ごう。」


 まぁせっかく倒したオークだしな。

 こいつらにはお金になってもらおう。

 準備を整えてすぐに出発する、ある程度まとめてあるから早いもんだ。

 荷車がメチャクチャ重いがそこは勢いを殺さないように頑張るしかない。

 後ろにワイバーンがいる焦りもあるんだろう。いつもよりスピードが出ている気がする。


「ワイバーンってのは本来ここら辺にいるもんなのか?」

「いないはずよ。おそらくはぐれのワイバーンがたまたま流れ着いたんでしょうね。」

「ってことは異変の原因はもしかして…」

「あのワイバーンでしょうね。」

「多分ワイバーンが森の魔物を食べてるから、森から魔物たちが逃げ出してるんだろうね。」

「そうなるか。他のハンター達も逃げてればいいけど。」

「見つけていたら逃げているはずよ。余程の命知らずでなければ。」

「だよな。」


 ガタゴトと道を進んでいたら、前でハンター達がかたまっているところを発見した。

 近づいてみるとどうやら話し合い、というよりもめているようだ。

 おそらく二つのパーティーがいて言い争いをしているんだろう。

 片方は見覚えがある、昨日助けた狼の牙だ。

 かかわりあいたくないし、急いでいるからそのまま横を抜けようとしたら知らない方から声を掛けられた。


「おい!お前らもハンターだろ?」

「…ああ、そうだが?」

「こいつらがワイバーンを見つけたって言ってんだ。本当か分らないけど本当なら倒しに行こうぜ!」

「はぁ?いや、失礼だがランクはいくつだ?」

「Eランクだ。」

「それなら無理だろう、ワイバーンなら俺も見た。今スタッカルドに報告に行く最中だ。」

「無理なもんか!俺たちは実力だけはそこらへんのCランクよりあるんだ!今はまだランクが俺たちに追いついてないだけなんだよ!」


 凄い自信だな。

 狼の牙も報告に行こうって言ってたんだろうな、困った顔でこっちを見てる。


「なんにせよ今の俺たちにはワイバーンは手に負える相手じゃない。やめておくよ。」

「ケッ、腰抜けが!で、お前らはどうなんだよ!?」

「俺たちも同じだな。そもそも報告に行ってギルドも十分に準備しないと倒せない相手だろう。引くべきだ。」

「ハン!そんなら俺たちだけでやってやるよ!せいぜい怯えて逃げかえってるんだな!行くぞ!!」


 止めるべきなんだろうがあれは止まらないだろうな。

 厳しいようだがこればっかりは自己責任だ。

 俺たちは報告に向かうとしよう。


「行っちまったな。お前らはどうする?」

「同じさ、スタッカルドに戻るよ。」


 苦笑いをしながら返事をされた。

 まぁ他に選択肢があるとも思えないし、意地悪な質問だったか。

 狼の牙も荷車を引いてるし一緒に行ってもいいかもしれないな。


「それなら目的は同じだ。一緒に行くか、その方が襲われにくいしな。」

「あぁ、そうだな。街までよろしく。」

「こちらこそ。」


 とはいえのんびりしているわけにもいかない。

 お互い荷車を押しながら速度を上げてスタッカルドに向かう。

 急いでいたからだろう、日が暮れる前に着くことができた。


「急ごう。情報は少しでも早いほうがいい。」

「あぁ、二パーティーの報告ならギルドも信憑性のあるものとして扱ってくれるはずだ。」


 ギルドの扉を開ける。

 ソアラさんがいた、丁度いい。


「ソアラさん、少しいいですか。」

「はい。依頼についてでしょうか?」

「関係は無いわけではないんですけど、依頼で行った森でワイバーンを確認しました。」

「…それは本当ですか?」

「少なくとも我々「エスプレッソ」と「狼の牙」の二パーティーが確認しています。」


 と言うと後ろを振り返る。

 狼の牙の面々もまじめな表情で頷いている。


「わかりました。これは非常に重要な案件になりますね…ギルド長にも報告しなくてはいけません。」

「後、名前はわからないんですけど一つのパーティーがワイバーンを倒しに向かいました。Eランクだそうです。」

「それは…止められなかったんでしょうか。」

「あれは無理ですね。むしろ一緒に行こうと誘われましたよ。」

「そうですか…わかりました。報告は以上ですか?」

「そうですね。後は依頼達成の確認をしてもらいたいのと換金くらいです。」

「申し訳ないんですが私はギルド長に報告に行きますので、他の方にお願いします。貴重な情報ありがとうございました。」


 そう言うとソアラさんは階段を駆け上がっていく。

 俺たちと狼の牙は換金を終えて別れた。


「なんだか面倒なことになったけど、無事戻ってこれたんだから良しとするか。」

「うん。今日は急いできたから少し疲れたよ。」

「幸いにも私たちは時間に余裕があるわ。ゆっくり休みましょう。」

「そうだな。宿でゆっくり休んでワイバーンが討伐されたら行動を再開すればいいさ。」


 何も俺たちがワイバーンと戦うことになるわけではないんだから。

 ワイバーンは高ランクのハンターに任せて、その間はしばらく休めなかった分、体を休めておけばいい。


「ちょっとした休暇だと思おう。しばらく休みらしい休みを取ってなかった気もするからな。」

「そうね。お酒でも買ってこようかしら。」

「じゃあ私は久々に屋台でも回ろうかな。」

「その前にランゲさんの宿を確保しておこう。」


 無事ランゲさんの宿は確保できた。

 今日は外で食べる気にもなれない。

 食堂で何か食べて早めに休もう。

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