45 全員でカフェ
ここ数日は簡単な依頼を受けているくらいでそこまで日数のかかるようなものは受けていない。
先日、話し合いで近々スタッカルドに戻ろうという事になったからだ。
そのため、今日がニューシルンで過ごす最後の休日になるだろう。
日課を終え、今日はカフェにでも行こうと思う。
行こうと思うんだが今日は同行者がいる。
「キリ、エリィ、本当に一緒に行くのか?」
何を思ったかキリがコーヒーを飲んでみたいと言い出したことがきっかけで全員で行くことになった。
別に一人で飲みたいわけではないからそこは構わないんだが、エリィはともかくキリにコーヒー等は合わない気がするんだが。
「うん、一回飲んでみたいって思ってたんだ。」
「私も久しぶりに飲みたくなったのよ。もっとも紅茶があればそちらにするけどね。」
「あー、なるほど。エリィはともかくキリ、コーヒーは結構苦い飲み物なんだぞ、口に合うか?」
「でもわざわざ飲みに行きたいって思うものなんでしょ?それなら気になるんだよね。」
「まぁ俺は好きだけど、結局は嗜好品だからな。合う合わないはあるぞ。」
「そうかもしれないけど、それなら私にも合うかもしれないよね。」
「確かにそうね。飲んでみないとわからないわよね。」
飲んでみないとわからないのも、もっともな話だ。
三人で行くとなると雰囲気の軽めなお店の方がいいかな。
お菓子とか置いてありそうなところでなら話もしやすいだろうし。
そういうお店も誰かと行くなら悪くない。
どんなお菓子が置いてあるのかも楽しみだしな。
ケーキとかはあるんだろうか。
クッキーのようなものはあるのは知ってるんだけど、それだけだとちょっと寂しいから期待したいところだ。
「それでどこにあるの?」
「いや、今回はニューシルンをブラブラするのもいいかなって思って場所は特に聞いてない。」
「じゃあ見つけたところに入るのね。」
「そんな感じになるかな。急いで行くような所でもないからね。」
「そうね。のんびりしてから行きましょう。」
ここ数日で随分活気が戻ってきた。
屋台も最初来た時よりも増えてる気がするし、あちらこちらからいい匂いがする。
カフェを探しながらあっちこっち覗いてみる。
特に必要ないのに武器屋とかね。
よさそうな武器もあるけど俺の武器はおやっさんにアドバイスをもらいながら変えていった方がいい気がするから今は欲しいとは思わない。
でも見るだけでも楽しいもんだ。
キリはハンマーとかバトルアックスを見ているし、エリィはナイフを見ている。
そういやエリィのナイフはダンジョンで拾ったやつを使ってるんだったな、素材の剥ぎ取りに使いにくいのであれば新しいものを買ってもいいかもしれない。
「エリィ、いいナイフでもあったか?」
「特に気になるものは無いわ。どうして?」
「前にダンジョンで交換してたからさ。使いにくいのであれば新しいナイフを買ってもいいと思うよ。」
「あの時は使い古してダメになったものだったからよ。今は特に不自由してないわ。でもそうね、そのうち気に入ったものがあったらお願いするかもしれないわ。」
「あぁ、使いにくいものを使うよりは使いやすいものを使った方がいいからな。」
その後もロングソードや両手剣を見てみたけど、俺には扱えないな。
重すぎる。そして単純に体格の問題もあるだろう。
俺のような標準的な人間にはショートソードが一番使いやすい。
あんまり長居しても店の邪魔になるだろうから、そこそこ見たら退散する。
「キリは何か気になるものでもあったか?」
「ううん、特になかったよ。今使ってるのが一番だしね。」
「そうか。まぁ俺もなかったな。当面はこれで十分だ。」
その後、魔道具屋さんを覗いたり、屋台で買い食いしたりしながらカフェを探していた。
見つけたのは清潔感のある明るい雰囲気のカフェだ。
喫茶店というよりカフェと言った方がしっくりくる感じで客層も女性が数人で入ったりできそうなお店だ。
ここならお菓子もあるだろうし話もできるだろう。コーヒー入門としては当たり障りのない感じじゃなかろうか。
「キリ、エリィ、ここに入ろうと思うんだけど構わないか?」
「うん。」
「お任せするわ。」
「じゃあ行こうか。」
店内に入る。
騒がしいというほどではないが、色々なところで話に花が咲いているな。
これなら俺たちが普通に話をしても特に目立ったりはしないだろう。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「三人と一匹です。」
「かしこまりました。こちらへどうぞ。」
さっきからキリがキョロキョロと落ち着かない。
席についてメニューを見る。
「へぇー、ここがジュンの好きな喫茶店とかカフェってとこなんだね。」
「まぁね。って言ってもお店それぞれに雰囲気が全く違ったりするけど。そこらへんも面白いところなんだよ。」
「ふぅん。」
へぇ、ここはコーヒーと紅茶の他にもジュースもあるのか。
お菓子もありそうだな。クッキーなんかの他にパウンドケーキらしきものもあるのか。
周りを見ても普通のケーキなんかはなさそうだな。少し残念だ。
俺はコーヒーだけでいいかな。
「二人は決まったか?」
「私は紅茶とパウンドケーキをお願いするわ。」
「私はクッキーとコーヒー。」
「一応ジュースもあるみたいだけど?」
「せっかく来たんだからコーヒーを飲むよ。」
「わかった。」
店員のお姉さんに注文をする。
キリ飲めるのか?苦くて砂糖をいっぱい入れることになりそうな気がするんだが。
見た目が子供っぽいからと言って味覚もそうだと決めつけるのはよくないか。
エリィは様になってそうだな、初めてじゃなさそうだし。
「お待たせしました。」
注文したものが並べられていく。
クッキーは皿にジャムがついていて、お好みで付けて食べてくださいってことなんだろうな。
パウンドケーキは少し硬そうだ、ケーキに関しては日本のほうがずっと進んでいそうだな。
二人はお菓子もあるし、俺は先にコーヒーを頂くとしようか。
うん。ここのは若干苦みが強めだな。
お菓子があるからそれに合わせているんだろう。
その苦みもくどくなく、後を引かないのがいい。
少し残念なのは香りが弱いことか。
もう少し香りが強ければさらに良くなっただろうに、もったいない。
キリを見るとコーヒーとにらめっこしている。
「これがコーヒー?」
「そうだよ。」
「すごい黒いんだね。」
「まぁな。ここのは少しだけ苦みが強いからクッキーを食べた後に飲むといいと思うぞ。」
「そうなんだ、わかった。」
クッキーにジャムを付けて食べた後に恐る恐るコーヒーを口に運ぶ。
「んー。苦い。」
「だから苦いって言っただろう。」
「ジュンはこれが好きなの?」
「あぁ、俺はコーヒーを飲むと落ち着くし好きだな。後は店の雰囲気を楽しみたいってときもある。」
「ふぅん。」
「苦くて飲めないんだったら、そこに砂糖があるからそれを入れるといいぞ、苦みが和らぐ。ただ入れ過ぎないほうがいいとは思うけど。」
「うーん。ジュンは何も入れないで飲んでたよね。」
「そうだけどこういったものは美味しく飲めなければ意味は無いからな。砂糖を入れるのが悪いわけじゃない。」
「そっか。それじゃあ少しだけ入れてみるよ。」
気持ちはわかるけどね。
俺も最初はブラックとか何が美味しいんだか分らなかったし。
それでもブラックで飲んでる人を見るとなんか負けた気分になるから悔しかったんだよな。
今ではいい思い出だ。
せっかくのコーヒーなんだから自分なりの美味しい一杯にして飲めばそれが一番いい。
そう思うようになってなぜか少しずつブラックにはまっていったんだけどさ。
不思議なもんだ。
エリィは流石だな。パウンドケーキを食べながら紅茶を口にしてる。
完全に飲みなれてる人だ。
「紅茶はどうだ?」
「なかなかね。少し濃いけどパウンドケーキには良く合うわ。」
「コーヒーと一緒だな。お菓子に合わせてあるみたいだ。」
「そうね。このお店を見てもそういうコンセプトなんでしょうね。」
「そうだな。友人と来てお菓子と一緒にティータイムを楽しんでくださいってところか。」
「ええ、よくできてると思うわ。」
確かに、俺一人だとここには入ろうとはしなかっただろうしな。
店舗ごとに特色があるのはいいことだ。
あー、一杯のコーヒーってのはなんでこんなに減りが早いんだ。
もう少ししかない。
キリもエリィもそろそろ食べ終わるか。
おかわり自由だったらいいのに。
そんなことを言っても仕方ない、美味しく頂いたんだ、それでよしとしよう。
ほどなくして全員飲み終わり、店を後にした。
「はじめてのコーヒーはどうだった?」
「うーん。そのままだと苦くて美味しくないけど、砂糖を少し入れると飲みやすくて美味しくなったかな。」
「ふふ、それじゃあコーヒーも悪くなかったってことかしら。」
「そうだね。お菓子も美味しかったしよかったよ。」
「それは何よりだ。」
たまには三人でカフェに行くのも悪くないな。
また今度飲みに行こう。




