43 カエルの恐怖は舌とともに
「ねぇ。ジュン、姉さん、起きて。」
「んん、どうした?」
「多分だけどビックトードがいる。倒すのなら今がチャンスかも。」
「そう。見てみましょうか。」
日は登っていないが、うっすらと明るくなってきたころキリに声をかけられた。
テントから出ると沼の方に大きなカエルらしきものが六匹見える。
あれがビックトードか、確かに二メートル近くある。でかいな。
奇襲をかけたいが気付かれるだろうな。
魔法を使って一網打尽っていうのもバラバラになる可能性を考えると採用しにくい。
食材だからなぁ、なるべく食べる部分を多く確保しておきたいところだ。
「どうする?このまま普通に出て行って戦うか?」
「それしかないでしょうね。私の魔法は使えないでしょうし。」
「そうだね、そこまで強くないと思うから大丈夫だと思うけど。」
「よし、ならなるべく頭を狙って倒そう。幸いにも特殊な攻撃はしてこないらしいからな。エリィは万が一の時のために魔法の準備を頼む。」
「ええ。わかったわ。」
「いくぞ!」
武器を構えてビックトードへと走る、なるべくなら相手の態勢が整っていないうちに一匹でも倒しておきたい。
三匹のビックトードに気付かれたが、まだ気づいていない奴らの頭に剣を叩き込む。
さすがにこれで全てのビックトードに気付かれたか。
だが、俺とキリが一匹ずつ仕留めることができた。
後四匹、近くで見るとでかいから迫力がある。
一匹のビックトードが舌を伸ばしてきた、結構早い。
何とかかわして舌を切り裂く。
なかなかの速度だが今までに戦ってきた相手に比べればこのくらい大丈夫だ。
距離を縮めて斬る、と思った瞬間にぴょーんとかわされた。
さすがカエル、ジャンプ力はなかなかのものだ。
マズいな、少し挟まれている状態だ。
なにせ相手は機動力がある、早めに片づけないと面倒なことになりそうだ。
「キリ、そっちはどうだ?」
「ぴょんぴょんと、あたらないよ。」
「意外と曲者だったな。囲まれてるから気を付けろよ。」
「わかった。」
それからというもの攻撃する間合いには入れずにひたすら逃げ惑うビックトード。
戦う気がないんだったら逃げればいいんじゃないかと思うんだが、あれで戦っているつもりなんだろうか。
特に爪が凶暴なわけでもないんだが、まぁあの巨体につぶされると流石にダメージを食らう。
―べちょ。
後ろを振り向くと別のビックトードの舌が俺にへばりついていた。
不快!巻き付けられて食べられるでもなく、打撃としてダメージがあるわけでもない。
ただただ臭くて不愉快!
頭に血が上る、だがそこは落ち着け、俺はクールな男のはずだ。こんなのは軽いいたずらだと思えばいい。
大人の対応で余裕を見せてやろう。
「オラァ!このクソガエル!俺の!剣の!錆にしてくれるわぁー!!!」
冷静にとか無理、だってあいつら攻撃してくるっていうよりずっと煽ってくるんだもん。
近づくと跳ぶし、あの舌全部ぶった切ってやろうか!
勝てると思ってるんだろうか、なんか顔を見てるだけで腹が立ってきた。
隙を見て切りかかるがすぐにぴょんぴょん飛ぶ。でかいから着地地点だけには注意が必要だけどそれ以外に脅威がない。
―べちょ。
ん?音のしたほうを見るとキリが顔面に舌の攻撃を食らっていた。
あ、ハンマーを落とした。
震えてるな。
―ガシィ!
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
キリが舌を持って背負い投げのようにビックトードを地面に叩き付けた。
「うぅ、臭い、気持ち悪い。」
「キリ、大丈夫か?」
「うぅ・・・」
だめだ、今はそれどころじゃなさそうだ。
仕方ない、今叩き付けたやつはとどめを刺すとして、残りはエリィに任せよう。
「エリィ!すまないが残りの三匹は魔法でやっちゃってくれ!」
「わかったわ!」
すぐさま轟音が・・・あれ?
なんだか今回の音は大人しいな。
いつもなら轟音や爆音がするのに、ビックトードのほうを見ると一匹も倒れていない。不発か?
「エリィ?」
「ごめん、今回は外れを引いたみたい。ろくな魔法が出なかったわ。」
まじか、これはやばいぞ。
全滅する危機ではないけど、主にストレス的な意味で。
「キリ!そこでうずくまってるとまたべちょってされるぞ!」
―ぴくん。
さっきの感触を思い出したんだろう、すごい表情で起き上がった。
「あと残り三匹だ。さっさと倒して顔を洗おう。」
「うん・・・とどめはお願いね。」
怖いよキリ、相当ショックだったんだね。
キリはハンマーを持たずに駆け出した、速い。
舌の攻撃をかわすと同時に舌を掴むと、さっきと同じように投げ飛ばす。
なるほど、これで俺がとどめを刺していけばいいってことか。
キリは吹っ切れたんだろう。躊躇なく舌を掴んでいる。
代われればよかったんだが、あいにく俺にはそんな力はない。
ほどなくして六匹のビックトードが地面に倒れることになった。
「お疲れ様。シロ、キリに水を出してやってくれ。」
「うぅ、ありがとう。シロ。」
「シャー。」
シロも慰めているようだ。
あの舌を顔面に食らうのは流石に嫌だよな。俺でも鳥肌ものだ。
「ごめんなさいね、今回は全く威力のない魔法ばっかり出ちゃって役に立てなかったわ。」
「いや、そういうときもあるさ。むしろそれが今回でよかったかもしれないな。」
もっと強い、それこそバーサーカーのようなものと戦っている時に今回のようなことが起こったらピンチになりかねないし。
今までが運がよかったと思っておこう。
「キリ、どうだ?少しはさっぱりしたか?」
「うん、まだ気持ち悪いけど。」
「それじゃあ、すまないんだけど俺の背中も軽く拭いてくれないか、俺もなめられてて臭いんだ。」
「わかった。」
「ある意味強敵だったわね。」
「ああ、ビックトードとはもう戦いたくない。」
「うん。」
これは本当の気持ちだ。
他の魔物の相手をしてたほうがまだ気が楽だ。
弓でも使えればまた違ったんだろうけど、俺らのパーティーに弓を使える人はいない。
相性的にも最悪だったのかもしれないな。
「倒したことは倒したんだ、荷車に乗せよう。」
「そうだね。こんな思いまでしたんだから持って帰らないとね。」
「ふふ、そうね。」
「取り合えず六匹だ、ギリギリ乗せられるんじゃないか?」
「押し込んで何とかといったところかしら。でも重いわよ?」
「そこはみんなで押していこう、早めに出れば余裕をもってニューシルンに着くことができるはずだ。」
「うん。沼キノコは大分集まってるし、もう少し取ったら出発しよう。」
その後沼キノコを集められるだけ集めて、早めに沼を後にした。
荷車に六匹のビックトードは何とか乗せられたが、非常に重く、ゆったりとした足取りになった。
キリが力持ちで良かったな、そうじゃなかったらとてもじゃないけどこんなには運べない。
「今回の戦闘で分かったけど、俺たちは距離を取られるとまだまだ対処が難しいな。」
「そうだね、懐に潜り込めればいいんだけど、必ず潜り込めるわけじゃないし。」
「私も魔力の操作に難があるから安定しているわけではないしね。」
「うーん、弓でも覚えるか?」
「ジュンが?」
「ダメか?」
「覚えるなら私ね。ただ、以前やったことがあるけどそこまで向いてはいなかったわ。」
「そうなのか。そうなると魔力操作を練習してもらうのが一番の早道になりそうか。」
「う、それを言われると何とも言えないけれど、頑張るわ。」
「頑張って、姉さん。」
何もかもを求めるのは無理だろう。
今現在でも二人には助けられているしな、まだまだ伸びしろはあるんだ焦ることもないか。
荷車を押しながら、今回気付けたことを確認しあった。




