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42 屋根がある素晴らしさ

 昨日はえらい目にあった、あと少しでキリに腕をもっていかれるところだった。

 お酒は飲める人で楽しむのが一番だ、キリも楽しんではいたみたいだが。

 今度飲むときは話し合おう。


 宿で全員で朝食をとった後、ギルドに向かう。

 いつもより活気があると思ったら、街から正式に行方不明事件の解決が発表されたみたいだ。

 今まではやっぱり不安だったんだろう、歩く人たちの表情が心なしか明るく見える。

 これが本来のニューシルンの姿なんだろうな。


「なんだか雰囲気が明るいね。」

「今までが暗かったから余計そう感じるわね。」

「謎の行方不明事件が起こっていれば暗くもなるさ、街の人からしたらようやく安心できたってところなんだろう。」

「そうだよね、いつ自分か周りの人が巻き込まれるかわからなかったんだもんね。」

「その心配がなくなったのはいいことだわ、私たちもいい経験になったしね。」


 確かにな。めったにない体験だったよ。

 欲を言えば鱗とか欲しかったな、倒したとたんに魔物自体が腐っちゃったからどうにもできなかったけど。

 鱗があれば盾を作ってもらうこともできたかもしれなかったのに。

 まぁ取れなかったものは仕方ない、他のいい素材に巡り合うことを期待しよう。


 そんなことを話しながらギルドに着いた。

 依頼にあった行方不明者の捜索は軒並み取り下げられているな。

 後は変わり映えしない依頼が多い。

 あまり自分たちのランクに合ってない依頼は受けたくないし、とはいえまだランクFだからな、そこまで強い敵とは戦いたくない。

 今まで事故でバーサーカーとか、教団の謎の魔物とかと戦ってきたけど本当はそんなものと戦えるレベルにないはずだ。

 なにせオークですらまだ早いと言われるランクなんだから。

 ちなみにオークはランクEと言われている、もちろん複数いる場合は難易度が上がるが。

 久々に採取でも行くか、近場での採取もあるみたいだし。


「どうする?俺としては近場の採取なんかいいんじゃないかと思うんだが。」

「うーん、何かいいのあった?」

「これなんてどうだ?」


 依頼・沼キノコの採取。

 シンプルだ、どうやらこの沼も歩いて半日位のところにあるらしい。

 それなら半日歩いてその日は採取、翌日にゆっくり帰ってくればいいだろう。


「無理のない依頼だと思うんだ。」

「そうだね。近場の沼だからそんなに危険な魔物はいないと思うし、大丈夫だと思うよ。」

「そうね、今回はこれにしましょうか。」

「よし、決まりだな。」


 依頼を受けて用意を整える。

 今回からはテント一式があるからちょっと重いな。まぁこれもトレーニングの一環だと思っておこう。

 ちなみに荷物はなるべく均等に分けている。

 俺が多く持つものかと思ったが、いざ戦闘になったときに一人疲れていたらシャレにならないからというのが理由だ。

 もっとも盗賊のいるパーティーの場合は盗賊を身軽にして見回りを強化するところもあるみたいだが。


 街を出て、沼に向かって歩き出す。

 そこまで場所が遠くないというのは助かるな。

 なんだかんだで夜営は負担になるもんだ、襲撃自体はそこまでなくても、体を十分に休めることができない日が続くのはきつい。


「ついでにビックトードを討伐したら持ってきてほしいって言われたから、荷車を借りてきたけど必要になるのかな。」

「さぁな、いたら持っていけばいいさ。それにしてもでっかいカエルなんだろ?うまいのかねぇ。」

「話で聞いた分だと美味しいらしいわよ。脂はそんなにないけどさっぱりとしてるらしいわ。」

「ふぅん。何となく食指が動かないけどな。」


 カエルは鶏肉に近いとは聞いたことがあるけど本当なんだろうか。

 わざわざカエルを食べたいとは思わないから実際のところは知らないけど。

 今回のビックトードは一応魔物らしいが動き自体は普通のカエルだと言っていた。

 もっともジャンプ力や、舌を伸ばす速さは凄まじいものがありそうだけど。

 一般的に食べられているもののようだからそこまで強くはないことを期待したい。


「ビックトードはあくまでもついでよ。目的は沼キノコよ、忘れないようにね。」

「うん。そうだね。」

「後はテントの使い勝手を確かめてみたいよな。」

「そうね。でもそれほど複雑なものではないし心配はいらないわよ。」

「だといいんだけど、なにせ初めてだからさ。」

「慣れるまでは戸惑うかもしれないけど、少なくとも今までよりは快適に寝れるわよ。」


 虫よけランプもあるし次からの夜営は少し心安らぐものになるといいな。

 今まで本当に虫がうるさかったりしたからね、耳元でプーンってされるとどうしても寝れない。思い出すだけで何だかかゆくなってくる。

 後は服の中に入ってくるやつとかね、勘弁してほしい。


「目的地はもうすぐね。」

「あぁ、近場の依頼ってのはいいなぁ。」

「移動が楽だからね。」

「後は沼キノコがどのくらい見つかるかよね。そこそこの量があればいいんだけど。」

「こればっかりは行ってみないとね。あることを祈ろうじゃないか。」


 沼に着いた。


「思ってたよりも大きな沼ね。」

「そうだね。でもこれだけ大きければ沼キノコもありそうだよ。」

「だな。じゃあ沼を一周まわりながらさがしてみよう、沼キノコは沼付近に生えてるらしいし。」

「そうね。後は沼にも気を付けましょう、何が潜んでいるかわからないわ。」

「わかった。」


 沼付近を歩く。

 沼キノコの見た目はカサが青白いらしい。

 他に似たようなキノコは沼には生えていないから見ればわかると言われたから探すのは大丈夫だろう。


「あったわよ。」

「早いなー。見せてくれ。」

「言われた通りの見た目ね。」


 う、本当にカサが青白い。

 なんというか絶対毒キノコだろって思わせる青白さだ。

 少なくとも健康的な青ではないな。

 でもすぐに見つかったのならまだまだありそうだ、袋自体はそこそこあるし何といってもビックトードの持ち運び用に荷車もあるから取れるだけ取っていこう。


「あー、結構あるな。」

「そうだね、多分しばらく取りに来る人がいなかったんじゃないかな。」

「今回の依頼は当たりね。」

「確かにな、こんなに楽に見つかるとは思ってなかった。」


 沼キノコは結構生えていた、沼を一周する必要がないんじゃないかって思うぐらいに。

 すでに一袋は取ってある。

 これ以上取らなくてもいいんだが、あるとわかると取ってしまう。

 まだまだ余裕もあるし、売れるからいいんだけどさ。

 それにしてもビックトードが出てこないな。

 連戦になるかと思ってたんだけど、静かなもんだ。

 広い沼だからもしかしたら、たまたまこっち側にいないときに来たか?

 依頼じゃないから戦えなくても構わないんだけど、せっかく荷車を用意してきたんだから何匹かは持って帰りたい。


「そろそろ暗くなってくるわ。テントの準備をするわよ。」

「そうだね。まだ慣れてないから余裕をもって準備したいもんね。」

「それじゃあ場所を決めるか。何があるかわからないから沼からは少し距離を取って、開けてるところでいいか?」

「そうね、それで問題ないと思うわ。」


 沼から距離を取って、丁度いい位の位置に木が生えてたのでそこでテントを張ることにした。

 テントの使い方は、まず広げてその四隅から中央へ鉄の棒が支えるという原始的な奴だ。

 特に変わったものはないし荷物も軽いに越したことは無い、おそらくこれで十分なんだろうな。

 中に入って虫よけランプを置いて完成。

 日本のテントとは比べるべくもないがハンターが使うものならこんなもんだろう。

 随分簡単なものだが入ってみると安心感が違う。

 個室にいるっていうのは心に余裕を持たせてくれるのかもしれない。

 広さは十分とは言えないが、それでも寝るだけならそこまで不自由しないだろう。


「うん、使い心地はよさそうだ。」

「それはよかったわね。これである程度しっかりとした休息が取れるはずよ。」

「ようやくっちゃ、ようやくだな。」

「今までは優先するべきものもあったからね。仕方ないよ。」

「だな。なんにせよ屋根のないところで寝るのもおしまいだぜ!」

「凄い嬉しそうだね。」

「俺にとっては大きな変化だからな。よく今までやってこれたと思ってるくらいだ。」

「それじゃあ大切にしないといけないわね。」

「あぁ、長く使っていきたいからな。」


 テントの準備もできた。今日は何の肉も取れていないからマズい携帯食料の世話にならなくちゃならないのがつらいところだ。

 見張り番はエリィ、俺、キリの順番でする事になった。

 取り合えず寝よう。

 あぁ、テントっていいなぁ。

 今までよりずっとあったかいよ、ぐっすり眠れそうだ。

 女の子と二人で眠れるものかと思ったけど、疲れには抗えずすんなりと眠りに落ちた。

評価とブックマークありがとうございます。

こんな作品ですが今後とも見て頂けると幸いです。

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