30 のんびりした一日
長かったダンジョンでの戦いが終わって休日を取ることになった。
俺がまずすることはコーヒーが飲めるお店を探すことだ。
「凄い久しぶりだな。まさかコーヒーがないってことはないと思うんだけど。」
この世界の食文化は結構進んでいる。
もちろん物足りなく感じることはあるが、たいていは満足できるレベルだ。
あぁ、屋台からいい匂いが漂ってくる。
ご飯は食べたのに、なにかつまみたくなる。
「ランゲさんにコーヒーが飲める場所でも聞いて来ればよかったな。」
スタッカルドは広い、目的の店を探すのにどれくらいかかることやら。
まぁ久々の休日だ、のんびり探すのも悪くないだろう。
「ん?ボーグさん?」
なにか荷物を抱えて女の人と話しながら歩いている。
彼女なのか、やけに楽しそうだ。
あ、こっちに気付いた。
「よう、ジュンじゃねーか。」
「こんにちはボーグさん。」
「あら、知り合い?」
「ボーグさんにお世話になったことがありまして、命の恩人なんです。」
「ボーグ、やるじゃない。私はアイシャ、よろしくね。」
「やめろよ、特別なことなんてしてねぇ、俺は当たり前のことをしただけだ。」
照れてるのか、若干恥ずかしそうだ。
「そんなことないですよ、ボーグさんと出会っていなかったら生きていなかったと思いますし。」
「そうなの?」
「えぇ、襲われてるところを助けてもらっただけでなく、生きる術も教えてもらいました。」
「そうだったの、少し怖そうな顔してるけど面倒見はいいのよね。」
頼りがいのある兄貴って感じだもんな。
「もういいじゃねーか。それよりジュンは何してたんだ?」
恥ずかしいのか話題を変えてきた。
でもこれはチャンスだな、コーヒーが飲めるお店を知ってるかもしれない。聞いてみよう。
「実はコーヒーが飲めるお店を探してまして。」
「コーヒーか、結構いろんな店で出してるらしいぞ。俺は詳しくないけどアイシャ、お前なら知ってるだろう?」
「えぇ、よかったらいくつかおすすめのお店を教えてあげるわ。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
よかった、コーヒー自体はあったんだな。
そのあと、お店を教えてもらってから二人と別れた。
多分付き合ってるんだろうな、なんとなくそんな雰囲気だ。
アイシャさんからおすすめのお店を教えてもらったからとりあえずそこにいってみよう。
ここからそれほど遠くないみたいだからよかった。
スタッカルドは広いからな、遠いところにあるとたどり着けるか不安になる。
えっと、ここの通りを曲がってすぐって言ってたな。
「ここか。うん、喫茶店って感じだな。」
やっぱりコーヒーや紅茶を出すお店となると、落ち着いた雰囲気になるものなのかな。
木造建築でいい雰囲気だ、テラスまである。
客層は女性が多いみたいだ。
とりあえず入ってみるか、この世界のコーヒーを飲んでみたいし。
―カランカラン
「いらっしゃいませ。お一人さまですか?」
「はい。」
「ではお好きな席にどうぞ。」
いいね。中も全体に暗めで落ち着いた感じだ。
早速注文をしてみよう。
日本ならブレンドがそのお店独自のこだわりが出ていることが多くてまずは頼むんだけど、ここにはあるのかな?
うーん、わからない。よくわからないけど豆の種類も結構ありそうだ。
これから自分に合ったものを見つけるのも楽しそうだな。
とりあえず一番上のおそらく一番人気か自信のあるコーヒーを頼んでみよう。
このお店は店員さんを呼ぶときベルを鳴らすのか。
そういうこだわり嫌いじゃないぜ。
なんてったって雰囲気を味わうお店だからな。
―リリン
「おまたせしました、ご注文をどうぞ。」
「この一番上のコーヒーをお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
ここは淹れるところを見れるのかな?
うん、見れるね。どれどれ。
こっちでは煮出す方式なのか。
地球ではトルココーヒーに近い感じか?
粉はちゃんと布で漉してくれるのか。
地球ではペーパードリップが手入れもしやすくて使いやすいけど、こっちだと紙の生産に問題があるのかな。
「おまたせしました。」
ミルクはついてこないみたいだ、味付けを変えるなら砂糖のみなんだろう。
匂いを嗅ぐ。
濃厚な匂いだ、なんともいえない香ばしさが鼻の奥を伝っていく。
あぁ、久しぶりのコーヒー。大切に飲もう。
まずはそのまま一口。
抽出の仕方を見てて苦みが強いのかと思ったけど、そこまででもない。
おそらく豆本来の味がいいのだろう。
バランスが取れている、苦みと酸味がほどよい。
ふぅ、落ち着く。
残り半分は砂糖を入れて楽しむか?
このままストレートでもいいな、迷う。
よし、少しだけ入れてみよう、一杯で味を変えて楽しめるのも魅力の一つだ。
うん。飲みやすくなった。
このコーヒーには砂糖を入れるなら少しだけでいいな、たくさん入れるとせっかくのバランスの良さが味わえない。
あぁもう無いのか。
だがこれからも通えると思えば悪くない。
上から一つずつ飲んでいくのも楽しみだ。
「うん、ごちそうさま。」
やっぱり嗜好品なんだな、結構いい値段がした。
さて、シロにお土産でも買って戻るか。
どうやらエリィも久しぶりのお酒を楽しんでいたらしい。
買った酒を宿で飲んでいた。
「ふふ、久しぶりのお酒は美味しいわー。」
「俺もコーヒーを堪能してきたよ。はい、シロにお土産。」
「シャー。」
お土産は屋台の串焼きだ。
串は危ないので外して皿に置くとシロは美味しそうに食べはじめる。
「私もなにか食べてくればよかったかな。」
「美味しいものはいっぱいあるからな。食べてみたいところとかあったのか?」
「あるよ、でも屋台は結構食べ歩いたし、お店は一人だと入りにくいっていうか。」
「それじゃあみんなで食べに行こう。俺も気になるしな。」
「そうね、今日は外に食べに行きましょうか。」
「うん。お店選んでおくよ。」
「あぁ、頼むよ。」
ランゲさんのご飯も美味しいけど、たまには外に食べに行くのも悪くない。
キリが気になるお店ならきっとおいしいだろうし楽しみだ。
今のうちに武器や防具の手入れを念入りにしておこう。
終わるころには丁度いい時間になってそうだ。
「ジュン、終わった?」
「あぁ、終わったよ。ってエリィはまだ飲んでたのか。」
「うふふ、久しぶりだからいつもより美味しく感じちゃってね、でもここまでにしておくわ。そろそろ食べに行くんでしょう?」
「あぁ。キリ、店は決まったか?」
「決まったよ。行こう。」
キリに連れて行ってもらった店は焼き肉の店だった。
「ここは肉が柔らかくて美味しいっていう話なんだ。タレも美味しいらしいよ。」
「そうなの、楽しみね。」
「キリは本当に肉が好きだな。」
「そうだね、不思議と飽きないんだよね。」
「好きなものなんてそんなものよ。」
それにしても外にいるときも肉を食べて、街にいるときも肉を食べるってのはなかなかだと思うぞ。
まぁいつもとは違って色々なメニューがあるんだから構わないが。
「よし、入ろう。」
「いらっしゃい!」
「三人と一匹で。」
「へい!こっちへどうぞ!」
特にシロがいても問題ないみたいだな、小さいし。
場所によっては連れていけないところもありそうだが。
メニューを見る。
カルビとか肉の部位ごとに分けられている感じじゃなくて、角うさぎとかオークとか何の肉かで分けられている感じだ。
とりあえずキリの食べたいものを適当に頼む、俺は野菜も食べたかったのでサラダを注文した。
運ばれてきた肉を見ると一人前がでかい、日本では考えられない量だ。
それが三人前できたから肉が山盛りになっている。
焼くと肉汁が鉄板にたまる。網焼きじゃないのが残念だ。
近くに置いてある刷毛みたいなのは、あふれ出る余分な肉汁を捨てるためにあるものらしい。
それにしてもうまそうだ。
あとうれしいのがご飯があったことだ。
俺は焼き肉にはご飯がないと不満だ、だからご飯があったことはとても喜んだ。
焼きあがった、タレをつけて食べてみる。
「うまい!」
「うん。おいしい。」
「そうね、柔らかくて美味しいわ。」
ご飯が進む。ご飯はちょっと不満があるがそれでもいい。肉がうまい。
シロにも生と焼いた肉の両方を食べさせる。最近は味の違いが面白いのか両方とも食べている。
「うーん、評判道理おいしいね。」
「そうね、お酒も頼もうかしら。」
「ほどほどにな。」
「姉さん、結構飲むんだね。」
「良いご飯にはお酒が付き物でしょう?」
「私は一度しか飲んだことがないからわからないかな。」
ドワーフっていえば酒飲みのイメージがあるけどキリはそうでもないのか。
そう言われれば飲んでるところを見たことないな。
「それじゃあ飲んでみる?」
「うーん、前に飲んだ時にやめたほうがいいって言われたからね、やめておくよ。」
「そう、残念ね。ジュンは?」
「俺は少しだけ飲もうかな。」
「そうこなくっちゃね。」
俺はそこまで酒に強いわけではないからな、軽く飲んで食べるほうに集中した。
全体的に満足のいくお店だった。
のんびりした一日だったがたまにはこんな日もありだろう。




