26 四階での緊急事態
「三階で様子を見るんじゃなかったのか?」
「えぇ、最初はそのつもりだったわ。でもこのメンバーなら四階でもやっていけると思ったのよ。
なにせ攻撃らしい攻撃を食らっていないし、私の魔法を温存する余裕すらあるわ。それなら十分挑めるんじゃないかしら。」
「でも二階から三階で敵のレベルが一気に変わった気がする。四階なら危険なんじゃないか?」
「行くとしたらすぐに引き返せる場所で戦ってみてからかな。どれくらいの違いがあるかわからないから、でも確かに余裕があるから行ってみること自体は賛成するよ。」
確かに三階ではそれほど危険を感じなかった。
ならば余裕を持ちつつ行けるところまで行くというのも悪くはないか。
「わかった。でも危険だと思ったらすぐに退却するぞ?それが条件だ。」
「えぇ、それで十分よ。」
「それなら三階で一晩休んでから出発だ。まずはしっかりと休息を取ろう。」
「せっかく岩トカゲのお肉もあるからね。」
「そうだった、久々にまともな食事にありつける!」
「薬草も生えていたのよ、簡単にだけどハーブティーも作りましょう。」
今日のご飯は豪勢になりそうだ。
「シロも最近はいい肉食べることができなかったからうれしいだろ。」
「シュロロロー。」
「スープは変わり映えしないけどね。」
「食べられる野草が分かればなぁ。」
「そこまで贅沢は言えないわ。肉とハーブティーで我慢しましょう。」
うん。うまい。
携帯食料ばっかりの日々はもう嫌だ。そう思ってた中で単純だけど、焼き肉とハーブティーだ。美味しくないわけがない。
明日も美味しい肉が取りたい。
魔物の素材も大事だけど、戦い続けるためのモチベーションも変わらず大事だ。
美味しい食事はすぐに終わった。
シロも満足そうだ。
ここ三階は夜が来る。見張り番を決めてしっかりと休息を取らなくては。
朝、軽くおなかに入れて動き出す。
四階に行くことが決まったはいいが、まだ階段が見つかっていない。
とりあえず奥に向かうことにする。
森に入ると方向が分からなくなるから、なるべく平原か岩山の近くを歩く。
時々岩トカゲが襲ってきたので、素材と肉をもらっておく。これで今日も美味しい肉が食べられる。
「あ、あれが階段じゃないかな?」
「そうね、ようやく見つかったわ。」
「よし、一息ついてから行こう。だいぶ歩いたしな。」
階段横で一息ついていたところで四階から一つのパーティーがあがってきた。
どうやらダメージを受けている人がいて引き返してきたらしい。
とはいえ声はかけない。ダンジョンのマナーというやつだ。
と思ってたら相手から声をかけてきた。
「すまねぇ!回復薬でももってないか?怪我をしたやつがいてこのままだとマズいんだ、もちろん礼はする!」
回復薬なら宝箱から出た、だがキリに任せたほうがいい気がする。
三人で軽く話し合った後、答えることにした。
「こちらには回復魔法が使えるものがいるので任せてもらえますか?」
「そいつはありがたい。申し訳ないんだがよろしく頼む。」
「では怪我人をこちらに。」
「あぁ。」
連れられてきた人は太ももを深く切られていた。
キリが急いで回復魔法を使う。
おそらくここで出会わなければ失血死していた可能性が高い。
しばらくすると傷口が塞がったようだ。
「すまねぇ、礼を言うよ。これは少ないが取っておいてくれ。」
「えぇ。ところで何と戦ってこんなダメージを受けたんですか?」
「あぁ、バーサーカーだ。」
「バーサーカー!?バーサーカーが出るなんて聞いたことないわよ?」
「めったに出ない、だから一部のハンターしか知らない話さ。だがごくまれに出現するんだよ。実際に見たのは俺たちも初めてだ。
全員で生きて戻れたのは運がよかったといえるだろうな。もっとも一人はやばい状態になっちまってたが。
あんたたちも行くなら十分に気を付けたほうがいい、あいつは本来下級ダンジョンに出る奴じゃないからな。」
そういうと彼らは未だ気を失っている人を担いで戻っていった。
「どうする?」
「バーサーカーはまだきついんじゃないかな。」
「そうね・・・。選択肢はいくつかあるわ。まずは諦める、無難な選択肢ではあるわね。二つ目はバーサーカーを倒す、これはやりたくはないわね。私たちで倒せるかわからない、少なくとも厳しい戦いにはなるでしょうから。三つ目はバーサーカーを避けて探索する、これなら四階が私たちにあっているかにもよるけど効率はいいはずよ。」
「バーサーカーを避けることはできるのか?」
「その場所にとってレアな魔物なら数が極端に少ないはずなのよ。特にダンジョンなら一匹とかがいいところでしょうね。だからよく注意を払っておけばそうそう会うことは無いはずよ。」
「うーん。」
三階でもいい気がするが、たった一匹のバーサーカーのために四階の探索を邪魔されるのもなぁ。
これまでなら安全策一択だったんだが。
「キリはどう思う?」
「バーサーカーとは戦いたくないかな。四階に行くならすぐ逃げられる場所でっていうのが前提としてあってほしい。」
「うーん、とりあえず四階に行ってみてそこら辺の敵と戦ってみて自分たちの強さを確認してみるってことでどうだろう?」
「そうだね、それならいいかな。」
「そうね、まずは通用するかわからないんだから確認してみるのは悪くないわ。」
「よし、それじゃあすぐに戻れる場所からは離れないように行こう。」
少し不安だが自分たちの実力を確かめるためにも、一度四階に足を踏み入れるのは悪くないだろう。
バーサーカー、出ないでくれよ。
四階も変わらず平原と言うか外と変わらない感じのフロアだった。
迷宮よりは敵が見つけやすい。運がよかったと思おう。
「見た感じ魔物がいないね。」
「そうだな。」
「でもあまり遠くまでは行きたくないわ。」
「視界が狭くなるところは絶対に行かないでおこう。急に襲われたら対応できない。」
おっかなびっくりさきにすすむ。
草原に大きなカマキリがいた。
「グリーンマンティスよ。鎌の攻撃は鋭いわ、気を付けて!」
「わかった!」
二メートル近くあるんじゃないだろうか、でっかいカマキリだ。
スタッカルドの教会の人を思い出す。
もっともこっちのほうがずいぶんと凶悪な感じだが。
怖いな、手を出せないぞ。
瞬間グリーンマンティスが鎌をふってきた。
盾で何とか受ける。
早い!
反撃する隙があるんだろうか。
引くわけにもいかない、じりじりと間合いを詰める。
鎌の攻撃が来る!
盾で受けた瞬間、剣で斬る。
鎌で受けられてしまった。
こいつは今までの魔物の中では圧倒的に強い。
キリが後ろからハンマーを振りかぶる。
だがグリーンマンティスはかわすと同時に鎌でキリを攻撃する。
後ろががら空きだ、背中から思いっきり切り裂く。
もともと細めの胴体だったからかそのまま切り裂けた。
キリは?
大丈夫だ、ハンマーを盾にして防いでいたようだ。
一瞬の攻防とはいえ疲れた。
さすがは四階といったところか。
「お疲れ様。」
「今回は危なかったよ。まさか反撃してくるとは思わなかったな。」
「二人ともいい動きだったと思うわよ。魔法も使ったらもっと楽に倒せそうね。」
「そうだな。でも強かった。」
「さぁ素材をはぎ取りましょう、グリーンマンティスは鎌よ。」
鎌と魔石を切り取る。
「グリーンマンティス一匹じゃなんともいえないけど強くなるには丁度よさそうな場所かもな。」
「そうだね、あれくらいは楽に倒せるようになりたいよね。」
「それじゃあ十分に気を付けながら、四階で経験を積むことにする?」
「階段から離れすぎないように気を付けながら頑張ってみるか。」
「うん。」
基本方針は決まった。
バーサーカーに気を付けながら特訓だ。




