19 喧嘩のきっかけは些細なものから
キリの言っていたもう一仕事とは凱旋パレードのようなものだった。
「うおおぉぉーよくやったぞー!」
「スタッカルドを守ってくれてありがとうー。」
「おじちゃんかっこいいー!」
「ママ―これなにー?」
一部よくわかっていない人もいるみたいだが、現在凱旋パレードの真っ最中。
なんでこんなことをするのか聞いてみたところ。
実際に倒された上位種の姿を見せることで民衆を安心させるためというのと。ハンターとしては名を売る機会として利用できるようにすることで、また大規模依頼を受けてもらおうという思惑があるらしい。
偉い人はたくさんのことを考えないといけないから大変だな。
一応下っ端とはいえ手を振っておく。
若い子にキャーキャー言われている気分にでも浸っておこう。
そうとでも思ってなきゃやってられない。
なんとかギルドについた。
「あぁ、大変だった。」
「そうだね、でもちゃんと討伐したってわかってもらうことは大事だからね。」
「そうだけどさ。俺としては睡眠を先に取りたいわ。」
「もうそろそろ報酬をもらえるから。」
「あぁ。」
パーティー名を呼ばれてから報酬を受け取る。
さすがに多い。しばらくは休むこともできそうだ。
「今回の報酬でちょっと余裕ができたな。少しだけ休むか?」
「うーん。完全に休養でもいいけどさ、たまには街中の依頼を受けてみない?」
「街中の?」
「うん。戦ったりとかとは違ったものが多くて気分転換にはなると思うんだよね。」
「なるほどな、それじゃあ気分転換に受けてみるか。」
受けようと決まったが、なんというか依頼なの?っていう感じのものも多い。
迷子の猫を探してとかならわかる。上司の愚痴が止まらないなんてのはどうしろというんだ?上司と知り合いになって、酒でも飲みに行ってストレスの発散をすればいいのか?わからない。
微妙な気持ちで依頼をみているとキリから声がかかった。
「これなんてどうかな?」
依頼・今まで武器を納品してくれていたところが急に納品してくれなくなった、解決してほしい。
自分たちで話し合えと思うが原因があるならば解決できそうでもある。
「あー、なんでこれにしようと思ったの?」
「うーん、実家が鍛冶屋だからもしかしたら力になれるかなって思ったの。」
「なるほどね。」
それなら受けてみるか?うん、とりあえずやってみよう。
「わかった。受けてみよう。」
「それじゃあ受注してくるね。」
少なくとも話し合いの場を提供することくらいはできるはずだ。後はなるようになる。
「受けてきたよ。」
「よし、いこうか。」
依頼を出した武器屋は街のやや裏手にあった。
「失礼します、依頼を受けて来ましたエスプレッソといいます。」
「おぉ、だれも来てくれないからもうだめかと思ってたんだよ。よく来てくれた。」
店長さんは三十歳くらいの普通の人だ。武器屋というより雑貨屋のほうが似合っているかもしれない。
「さっそくですが依頼の内容を詳しく聞かせていただいてもいいですか?」
「あぁ、あれは二か月くらい前のことなんだ。今までと同じようにドワーフの鍛冶屋に武器を頼んだんだよ。そしたらその時から納品がずっと止まってしまってね。困ってるんだ。」
「武器を頼んだ時に変わったことはありませんでしたか?」
「特にいつもと変わりなかったと思う。」
「話し合いなどはされてないんですか?」
「何度か訪ねてみても門前払いだよ。このままじゃ売り物がなくなっちゃうから困ってるんだ。」
「キリ、何か思い当たることは無い?」
「うーん、今のところわからないかな。」
「ではそのドワーフの鍛冶屋のほうへ話を聞きに行ってみます。」
「あぁ、友達だったんだ、悪いけどよろしく頼むよ。」
武器屋の人に聞いた限りでは何も問題はなさそうに思える。
単純に別の武器屋に卸してるのか?
それなら説明くらいあってもよさそうだ。
鍛冶屋のほうに問題があった可能性もあるか。
鍛冶屋は街のはずれにあった。
「すみません。」
「・・・・・・・・・」
「すみませーーーーん!」
「なんじゃ、やかましいわ!」
「ちょっと聞きたいことがありまして、いいでしょうか?」
「なんじゃ?」
「武器屋さんとのことなんですけど。」
「あやつとのことは話すことなどない、帰ってくれ。」
「いえ、あの、ちょっと?」
追い出された。
全く取り付く島がない。どうなっているんだ?
「どうしようか。」
「うん・・・」
「とりあえず武器屋さんのところに戻ろう。」
今のところ何の手掛かりもない。少し探り方を変えてみるか?
「戻りました。」
「いかがでしたか?」
あまりにも早く戻ってきたから特に手掛かりはないと思っているんだろう。声が暗い。
「残念ながら何も窺うことはできませんでした。」
「そうですか・・・。」
「ところでドワーフのかたとは友達だったんですよね?」
「え?はい、そうですが。」
「納品されなくなる前にどこか一緒に行かれませんでしたか?」
「そうですね、よくいろいろな場所に飲みに行ってはいましたね。お互いに酒が好きなもので。」
「なるほど。いくつかお店を教えていただいてもいいですかね。」
「ええ、かまいませんが。」
いくつかの酒場をメモして店を後にした。
「お店をメモしてどうするの?」
「何か言いあったりしてなかったか聞きこみに行こうかなって思ってさ。」
「なるほどね、そこで喧嘩したなら原因もわかるもんね。」
「そういうこと。」
さぁ聞き込みだ。
「あの人たちはいっつもどのお酒がおいしいかで言い合ってたわよ。お互いの趣味がずれてるってとこまではいかないみたいなんだけど、それでも白熱するときはしてたわね。」
「あー、あいつらはなかなかわかってる。酒の質が悪くなるとすぐに文句を言ってくるからな。面倒くさいがいい舌を持ってるよ。」
「前来てた時なんて殴り合ってたわよ。ドワーフの人が圧倒的にぼこぼこにしてたけど。雰囲気?ただの酔っぱらいね。帰りは楽しそうにしてたから。」
わかったことと言えばお酒に対してこだわりが強いってことぐらいか。
「キリ、なんかわかった?」
「うーん、ドワーフにとってお酒って大事だったりするから、そこで何かあったのかもしれないね。」
「でも聞き込みした感じ悪い雰囲気にはなってなさそうじゃないか?」
「うん。だから武器屋さんにここ最近お酒で何か変わったことがなかったか聞いてもいいかもしれない。」
「変わったことで腹を立てたと?」
「人のトラブルなんて些細なものからだと思うし。」
「それもそうか。今のところほかに気になるところもないし聞いてみるか。」
武器屋さんに鍛冶屋さんとの間でお酒でのやり取りで変わったことがなかったか聞いてみることにした。
「おもいあたることですか。」
「えぇ、ドワーフのかたにはお酒は大切なものだったりしますからね。そこらへんで変わりはなかったかと。」
「うーん・・・私も酒好きとして気持ちはわかります。いつも手土産にお酒も持って行ってますしね。」
「そうなんですか?」
「えぇ、お互いによく送りあってたものですよ。」
「その時に限って何か変わったものを送ってしまったとかは?」
「いえいえ、ちゃんとおいしいお酒を・・・あぁ、もしかして。」
「なにか思い当たることでも?」
「え、えぇ。店同士の交流が始まってから欠かさずに送っていたお酒があるんですが、その時はめずらしく品切れだったんですよ。それで別のお酒にしましたね。」
「それですよ!」
キリが話に割り込んだ。
「おそらく両店の信頼のあかしのように感じていたと思います。それをいきなり別のものに替えられたからもう自分の武器は必要ないと受け取ったんじゃないでしょうか。」
「そんな、私はそんなこと一言も。」
「お酒を変えた時に品切れだったからと説明しましたか?ドワーフにとってはお酒へ思い入れが大きくなる人がいるんです。説明してないとしたら相当ショックを受けたかもしれません。」
「・・・・・説明はしてなかったですね。これはいつものお酒をもって謝りに行く必要がありそうです。」
「そうしてください、私たちも付き合いますから。」
武器屋の人と大急ぎでお酒を買って鍛冶屋さんのところに向かった。
「すみません!」
「・・・・」
「すみませーん!!」
「ありがとう、ここは私が声をかけるよ。おーい、いるんだろう。すまないが少しでいい話を聞いてくれないか。今日は謝りに来たんだ。」
何分かたっただろうか、扉が開いた。
「・・・なんじゃ。」
「久しぶりだな、全然話を聞いてくれない理由が分かったんだ。」
そういうと決して高くはない一本の酒を目の前に出した。
ドワーフの目が少し見開かれる。
この考えがあってたんだろう。
「すまなかった。前回は珍しく売り切れていてね。その説明もしないままほかの酒を渡してしまった。
この酒は私たちの契約の証のようなものだったんだな。それをないがしろにしてしまった。非常に申し訳ないことをしたと思っている。許してくれないだろうか。」
「・・・・・フン、別の酒を持ってきたときは取引の中止だと思ったわ。」
「そこにいるドワーフのお嬢ちゃんに教えてもらって気づいたんだ。自分の考えだけで物事をはかってしまっていたよ。」
「それはワシもじゃ、人によってはたかだか酒と思っているかもしれんからな。だがわしにはこの酒がワシとお前さんをつなぐ絆だと感じていたんじゃよ。」
「気付くのに遅くなってしまってすまなかった。」
「もうええわい。」
険悪な雰囲気もなくなっている。
これでこの二人は大丈夫だろう。
「きみたちもありがとう。」
「いえ、力になれてよかったです。」
これで依頼も終わりだ。
依頼完了を押してもらってギルドに戻る。
「それにしても普通の討伐依頼より疲れた気もするんだけど?」
「あはは、そうだね。でも気分転換にはなったんじゃない?」
「まぁ、なった・・・か?」
軽い気持ちで受けるものではないことはよくわかった。
それでもたまにはこんな日があってもいいだろう。




