16 大規模依頼 上
「知ってる人だったの?」
「あぁ、命の恩人なんだ。」
「命の恩人?」
「あー、なんていえばいいかな、森で記憶が混乱してるところをゴブリンに襲われたんだよ。そこをあの人たち「銀の爪」に助けられて街まで連れてきてもらったんだ。」
一部ごまかしているが仕方ないだろう。
異世界から来ましたなんて言っても仕方ないしな。
だいたいあってるから許してもらおう。
「へぇー。じゃあ記憶が混乱してたから、最初喋るのがおかしかったんだ。」
「たぶんね。記憶が戻ってないからどこで何をしてたのかとかはわからないけど。」
「最初は変わった人だなって思ってたけど、大変だったんだ。」
「それでも運がよかったよ、いろいろな人に助けてもらえたし。」
話している間に準備が整ったみたいだ。
今回は馬車もある。これは移動用でもあるが、帰りは上位種の死体を持ち帰るためでもあるらしい。
ゴブリンとはいえ上位種になると素材に使い道があるんだろう。
ゴブリンの村は馬車なら一日で着くところにあるらしい。
そんなに近いのならもっと早くに見つかってもよさそうなものなのに不思議だ。
馬車の前に出てくる魔物はその場にいたハンターがサクッと倒している。
よほどのことがない限り出番はなさそうだ。
野営地についた。明け方に奇襲をかけるから早く眠るようにとのことだ。
詳しい作戦は朝告げるらしい、ゴブリンの数を思うと長い戦いになりそうなので早く寝ることにする。
まだ日も登ってない時間に起こされた。
今からボーグさんが作戦を言うらしい。
「まず門が二つ確認されている。そこで戦力を二つに分ける。
見張りは気付かれないように弓で殺せ。そのあとに門を開ける。
両方開けたらまず魔法使いが強力な奴をお見舞いしてやれ。そのあとに扉付近でゴブリンどもを逃がさないように戦う。いいな、焦って突っ込むんじゃないぞ。
担当するゴブリンは昨日言った通りだ、上位種は高ランクハンターが受け持て。
門に殺到するゴブリンを片づけたら俺が残りの数を見る。数が少なくて行けると思ったら俺が突っ込む、俺が突っ込んだら高ランクハンターは後に続け。残りは門から出さないようにしっかりと守れよ。基本は以上だ。何か質問は?」
奇襲で突っ込むのかと思ったが、門を開けて魔法で大きく数を削る作戦のようだ。
門という幅の限られた場所なら数の不利もごまかせるし異論はないみたいだ。
「ではいくぞ!」
近づくと村というより砦だなこれは。
意外と壁が頑丈にできている。小さな村と呼ばれる状態でこれだ。たしかに大きくなればなるほど問題になりそうだ。
歩哨を弓で倒し門に近づく。こっち側を少しあけて様子を見ている。
反対側の門の様子を見ているのだろう。
俺たちは最後尾だ。うち漏らしが出ないようにすることと、疲れた人と交代することが求められる。
魔法使いたちが呪文を唱え始めた。そろそろ開戦だ。
「開門!撃てー!」
すごい轟音とともに戦いが始まる。
前線の高ランクハンターや中ランクハンターがすごい勢いでゴブリンを屠っていく。
こちらにもくることはくるがそう大した数ではない。最初はこちらのペースに持って行けたようだ。
時折来る上位種も危なげなく倒している。
ただ、ゴブリンたちの勢いが収まらない。
途中でダメージを負うものも出始める、もちろん回復薬や回復魔法で復帰するんだがすぐにというわけにはいかない。
いったん離脱するものも出始める。
キリは回復もできるから大忙しだ。その分俺が戦線を維持しないと。
俺も前とは違う。囲まれたら危ないが一対一なら素早く片づけることができるようになった。
鎧の安心感ってすごい。いや、おれが少し強くなったのもあるはずだ。
「上位種が三!気合入れろよ!」
「「「おぉ!!!」」」
三匹の上位種に押されて普通のゴブリンが後ろのほうまでくる。
速さが大事だ。遅れるとその分囲まれる。
「我々がゴブリンごときに後れを取るものか!」
「おい、そっちいったぞ!」
「すまん!回復を頼む!」
混沌としてきた。俺も余裕などない。
無心に斬り続ける。徐々にまわりとの統率も取れてくるがいかんせん数が多すぎる。
正面を切って左からくるゴブリンを盾で弾き飛ばす。突き刺してから新手のゴブリンに蹴りを食らわせる。そんなことをずっとやっているのだ。
最後尾でこれなのだから最前線は想像もしたくない。
「よし、上位種の三匹は終わったぞ。態勢を立て直せ!」
「回復も素早くしろ、次の上位種がいつ来るかわからんぞ!」
高ランクハンターが持ちこたえてくれている間に後ろのハンターたちの態勢が整う。
「弓と魔法の準備!」
上位種をさばいた瞬間を好機と見たらしい、高ランクハンターが声高に指示をする。
「いいか、一匹でも多く巻き込むようにしろ。」
「くるぞ、撃てー!」
―ドォォォン!!!
結構な数のゴブリンを巻き込んだように見える。
それでも恐れることなくゴブリンは突っ込んでくる。
「くるぞ!」
「「おぉ!」」
俺たちはそれをひたすら切る。ゴブリンの死体が重なると邪魔なので合間合間の時間で死体をどかす。体が重く感じる。
まさしく総力戦だ。
どこからか拾ったのだろう武器を持っている者もいる。
「キリ!そっちはどうだ?」
「こっちはまだ大丈夫。でもこっちからは上位種が見えるよ、また来るかもしれない。」
さっきはしのげたがこちらにも体力に限りがある、大丈夫だろうか。
―ドォォォン!!!!!
「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」
「ゴブリンの数が減ってきて勝負をかけるらしい!俺たちは行く、お前たちはここを死守しろ!」
どうやらボーグさんが突撃したらしい。こっちの高ランクハンターがもそれに続く。
中堅どころはバランスを取りながら戦っている。
俺も弓が使えれば戦えるんだが、あいにく弓は使えない。門を固めよう。
それにしても高ランクハンターってのはすごい。
あの上位種もものともしないで倒している。同じ人間だとは思えない。見る見る間にゴブリンの数を減らしていく。
だが高ランクハンターの数が足りない。
こっちにもゴブリンが来る。さっきと違って、中ランクや低ランクで何とかしないといけない。
さっきよりも忙しいくらいだ。俺とキリは前に出た。
後ろから魔法と弓で援助してもらうためだ。
低ランクの魔法でも普通のゴブリンなら十分倒せる。
俺の役目は後ろに行かせないことだ。足止めをすれば仲間がとどめを刺してくれる。
「俺は足止めをする、槍や弓でとどめを頼む!」
「わかった。なるべくしのいでくれ!」
キリは、すごいな。思いっきり吹き飛ばしている。心配いらなそうだ。
「あのちびっ子はすごいな。」
「あぁ、今は助かるぜ。」
「俺らも負けてらんねーぞ!押し返せ!」
キリの周りはひしゃげたゴブリンの残骸が散らばっている。
普段見たら引きそうなものだが、今この時は頼もしい。
おっとよそ見をしている場合じゃない。
俺も剣でたたき切る、いや、もう転ばせるといったほうが正しいかもしれない。
とどめは任せてある。なら盾で押し返して体勢を崩すほうが大切だ。
「敵も無限ではない、そろそろ減ってきてるはずだ!」
中ランクハンターが仲間を鼓舞する。
事実、始まったときよりは楽になったかもしれない。慣れたからかもしれないが。
だが戦況が変わるというのは良くも悪くもだったりする。
こっちの門を突き破って打開しようとしたのか四匹の上位種が現れた。




