117 後始末と帰宅
黒いものを纏ってた魔物を倒して五日過ぎた。
まだ俺たちは結界の範囲の中にいる。
あれから報酬を貰ってすぐに出発しようと思ったんだけど、瘴気があちこちにばらまかれていて結界を張るに支障があるらしく、仕方ないのでシロが協力して黒いモヤを消して回っていた。
全部は消せないけど結界を張りなおせば少しずつなくなっていくだろうとのことだし、乗り掛かった舟だ、後で後悔しないようにしておきたいのもあってある程度消しておこうと思ったら五日もかかってしまった。
「ありがとうございました、これで結界も張りなおせます。」
「まぁついでにやったことだし気にしないでいい。シロがやったことだけどな。」
「お礼の薬草などは増やしておきましたので、後はこれが杖に使える枝です。使いやすそうなものを選んでおきましたので確認してください。」
今回の報酬のメインは俺たちがもらった加護とエリィの杖に使えそうな珍しい木の枝になった。
なんでもその木の杖は魔力を増幅する効果が見込めるらしい。
エリィの魔法は奥の手だから強化できるんだったら積極的にしていきたい。
後は普段なかなか手に入らない薬草類を結構な量もらった。
これはギルドとマーリンさんのお店で分けて売っていけばいいだろう。
長期の依頼だったが実入りは悪くなかったんじゃないかと思う。
実際に売ってどれくらいの値打ちになるかはわからないが、珍しいものは高く売れるから期待できる。
「今回の事は忘れません。もし何か困ったことがありましたら出来る事なら力になります。ぜひいらっしゃってください。」
「ありがとう。セレンさんもこれから結界の張りなおし頑張ってね。」
「困ったことがあったら相談させてもらうわ。そのときはよろしくね。」
「それでは妖精たちに案内をさせますので。皆さんよろしくお願いしますよ。」
「「「「「はーい。」」」」」
森の外までは妖精たちに今までと同じように索敵をしてもらいながら進むことになっている。
ここは森の奥深くだ、強力な魔物がいても不思議じゃないから非常に助かる。
「だいぶ時間がかかったけど何とかなったな。」
「これでセレンさんもルル達も安心して暮らしていけるね。」
「あの魔物は何だったのかしらね。聞いたこともない魔物だったわ。」
「変異種って言ってたけど、よく出るもんなのか?」
「ほとんど見かけることは無いはずね。でも黒いものを纏ってる変異種の話も聞いたことは無かったからびっくりしたわ。」
「素材としてはそこそこよさそうだったから、おやっさんにも見てもらいたいと思ってるんだよな。爪とか牙を武器に使えないかと思ってさ。」
「使えるかもね。今の武器だとちょっと物足りないって言ってたし相談してみるのもいいと思うよ。」
「そうなると売るのは皮と残った爪と牙、薬草類になるのかしら。」
「多分そんなところだと思う。道中魔物とほとんど戦ってないから他の素材もないしね。」
そう考えるとほぼ歩いてばっかりだったな。
他の魔物の素材も欲しいところだけど、疲れもたまってきてるし無理は良くないから今回は諦めたほうがよさそうだ。
ただ肉を補充しないといけないんだよな。
来るときにとってきた肉はさすがにもう悪くなり始めてる。
どこかで全部捨てて新しい肉を調達しないと携帯食料に頼ることになりそうだ。
「ルル。」
「どうしたの?」
「もしオークがいたら教えてくれないか?肉を新しくしたい。」
「わかったわ。皆にも伝えてくるわ。」
「そろそろ食べられなくなりそう?」
「もうやめたほうがいいと思う。今朝見た感じだと一応食べたけど、もう無理かなって思った。」
「じゃあもう捨てるわよ?」
「ああ。新しい肉が手に入らなければ携帯食料で我慢だな。」
「オークいればいいんだけどな。」
「運が良ければじきに会えると思うわ。運が悪ければしばらくは我慢しないといけないかもしれないわね。」
妖精もいるしこれで見つからないようなら近くにはいないってことになるもんな。
最近食べてなかったし、少しくらいなら携帯食料でも構わないけど。
「オークじゃなくてもいいから食べられる魔物が出てきてくれないかな。」
「精霊の森に何がいるかわからないから出来れば見慣れた魔物がいい。オークかフォレストウルフなら安心なんだけどな。」
「もう少し時間があれば調べられたんだけど、時間がなかったから仕方ないわね。」
「急に決まった話だったからな。」
結局森から出る直前までオークに会うことは無かった。
もちろんその時に会ったオークは食料として魔法のバッグに入れておいた。
森から出るところでルル以外の妖精とは別れる。
ルルはスタッカルド付近まで着いてきてくれるらしい。
「一応私がお願いしたことだからね!最後まで見送るわ!」
「俺たちとしては助かるけどいいのか?」
「構わないわよ。戻る時も飛んでいけばいいだけだしね。」
「それじゃあ来た時と同じように魔物を発見したら教えてくれ。戦うかどうかはその時決める。」
「わかったわ!」
スタッカルドまでほぼ安全に戻れることになったな。
上に目があるってのは本当に便利だ。
戻る時もでっかいカマキリのグリーンマンティスや、ゴブリンの群れがいたがサクッと倒して先に進んだ。
そしてスタッカルドが見えてきた。
「ここまでありがとうね。」
「いいのよ。私もいつもと違ったことができて楽しかったわ!」
「このままついてきてもらいたいくらいなんだが妖精が一緒ってなるとお互いに面倒が起きそうだもんな。」
「そうね。どこかで狙われたりするかもしれないしルルにとっても危険だわ。」
「仕方ないわよ。大丈夫、また暇になったら遊びに来るわ!」
「そんな簡単に来れる距離じゃないだろ。」
「妖精にとってはそこまで時間はかからないわよ。」
「人目もあるよ?」
「上から侵入すれば平気よ。最初もそうやって入っていったんだし。」
「しばらくは結界の状態を見ないといけないかもしれないけど、暇になったらいつでもきていいわよ。依頼で留守にしてるかもしれないけどね。」
「そうするわ。それじゃああなたたちも気を付けるのよ!またね!」
高く舞い上がるとそのまま凄い速さで精霊の森の方へ飛んで行った。
手を振って見送る。
「妖精って凄い速いんだね。あんなに速く飛べるんだったら本当にまた会えるかもしれないね。」
「気の向くままに行動してそうだし、何となく思い立ったら来るんじゃないか。悪い奴じゃないし、その時は歓迎してやればいいさ。」
「その時は飲み物でも出してあげてもいいかもしれないわね。」
「飲めるのかな?」
「飲めるんじゃないかしら。何となくだけど。」
「さぁ、スタッカルドに戻ろうか。久しぶりにゆっくりと休みたい。」
スタッカルドの門をくぐる。
一か月以上留守にしてたわけだし、今までで一番長くいなかったかもしれないな。
売るのは明日にして、今日は早めにフリーな時間にしよう。
そんなに魔物と戦わなかったとはいえ移動だけでもだいぶ疲れた。
ちょっと早いけど風呂に入ってさっぱりしたい。
「ギルドとかで売るのはまた明日にして今日はもう自由にしよう。俺は帰って風呂に入るよ。さっぱりしたい。」
「それなら私も帰る。」
「私もよ。疲れたわ。」
「薪ってまだあったっけ?」
「まだ大丈夫よ。しばらくもつわ。」
「わかった。それじゃあいったん帰ろうか。」
こうして精霊の森での依頼は無事に完了した。
気軽に行ってこれる場所じゃないけど、今回はルルっていう案内人がいたから楽に行けてよかった。
家に帰って風呂に入る順番で少しもめたのはまた別の話。