116 謎の魔物との戦い
エリィの魔法と俺の攻撃で片足はダメージがあるように見える。
俺も少し吹き飛ばされたから体が痛いが、戦闘に影響はない。
キリと呼吸を合わせて攻撃に移る。
キリのハンマーが当たれば大きなダメージを与えられるんだが、まだ魔物の素早さは健在らしく俺たちの攻撃をかわしながら反撃をしてくる。
だがさっきの一撃が頭にあるのか爪での振り下ろしはしてこない。
してきたらもう一度足の裏から剣を突き刺してやろうと思ってたのに残念だ。
相手の攻撃を一つつぶしたと考えればいいかもしれないな。
「足にしっかり刺した割には動きが速いな。もう少し鈍くなってもいいと思うんだが。」
「このまま粘ってれば少しずつ鈍くはなると思うよ。大変だと思うけど。」
「できれば早めに機動力を奪いたいところなんだけどな、エリィの魔法もかわされたくないし。」
「一撃目はほとんどかわされたもんね。動きを鈍らせておかないと次も避けられるかもしれないし、足を何とかしておきたいけど何かいい考えはある?」
「同じ攻撃をしてきた瞬間にもう一度刺してやろうと思ってるんだけどなかなかしてこない。警戒されてるんだと思う。そうなると別の攻撃に合わせる必要が出て来るけど、横からの攻撃だと踏ん張りがどこまで効くかわからないからあまりやりたくはないな。」
「私が相手の攻撃に合わせてみようか?」
「出来そうか?」
「多分できると思う。今は横からの攻撃が多くなってるから狙いやすいし。」
「わかった、できそうならやってみてくれ。無理はしないでくれよ。」
「うん。」
キリのカウンターが決まれば片足を使えなく出来るんじゃないか?
そうすれば俺たちの有利は動かなくなる。
ただカウンターは諸刃の剣だ、失敗したら攻撃をまともに食らっちゃうからその後の戦闘が難しくなるかもしれない。
無理しない程度に狙ってもらえばキリなら大丈夫だと思うけど心配ではあるな。
引き続き距離を詰めてなるべく隙を作らないように交互に攻撃していく。
なるべくコンパクトに攻撃しているから決め手に欠けるが今はこれでいい。
次のチャンスを粘り強く待つことが大事だ。
不意に噛みついてきた!
咄嗟に身を引いて盾でガードする。
危なかった、少し遅れてたらあの牙の餌食になっていたところだ。
キリがすかさずハンマーを振るう。
しかし避けられてしまった。
さすがにこのタイミングは当たらないか、当たってれば終わってたかもしれないのに。
噛みついてきたってことは足の痛みが少しずつしんどくなってきたって事かな?
そうだと嬉しいんだが、魔物の表情を見てもよくわからない。
繰り返し続く攻撃の中に噛みつきが入ってきたが、注意していれば何とか防げる攻撃だ。
そして丁度いいチャンスがやってきた。
キリに大振りな爪での横なぎの攻撃が来た。
キリがカウンターを狙うようにその足にハンマーを叩き付ける。
「ゴキッ!!」っと骨を砕くような音がした。
その隙に俺も反対の足に剣を突き刺す。
これで両足ダメージを負っただろう。
攻撃が成功して少し距離を取る、キリが攻撃したほうの足は骨が砕けてるんだろう。変な形になっている。
俺の攻撃したほうは二度足を刺されたことで血が出ている。
「ナイスだ。これで片足は潰れて動きに支障が出るだろ。」
「ジュンが攻撃したほうも結構血が出てきてるから前脚はそろそろ限界なんじゃない?」
「だといいけどな。まだ噛みつきもあるし、他の攻撃方法もあるかもしれない。
気を付けて行くぞ。」
じりじりと近づいていくと、いきなり口から黒いものを吐き出してきた。
避けてみると今まで道中で見た黒いモヤを吐き出したようだ。
何となく人体に影響がありそうだから触りたくない。
迂回しながら向かって行くと、周囲に黒いモヤを吐き出し始めた。
なんだか嫌な予感がする。
「シロ!黒いモヤを消してくれ!」
「シャー!」
シロによって周囲の黒いモヤが消される。
あまり時間を与えたらダメだな、何をされるかわからないし黒いモヤに乗じて逃げられでもしたら面倒だ。
一気に距離を詰めて攻撃に移る。
攻防の最中では黒いモヤを吐き出すことはできないみたいで普通の攻撃を繰り出してくる。
とはいえ片足をキリに潰されて、もう片方もかなり傷ついているんだから今までのような激しさは無い。
それでもお構いなしに攻撃してくるのは流石と言ったところか。
攻撃の激しさが無くなった分、隙も減っているように感じる。
今までは攻撃後を狙ってこっちも攻撃に行けたんだけど、今はお互いに様子を見るような消極的な攻撃になっている。
片足の一撃や噛みつきをまともに食らうとどうなるかわからないから仕方のない事ではあるんだけど。
「待たせたわね!撃つわよ!」
「わかった!」
俺とキリは一撃ずつ牽制に攻撃してからその場を飛び退く。
入れ替わるように激しい魔法の連射が魔物を襲う。
最初の数発は避けたようだが、その後当たり始めると次々と当たっていく。
魔法の連射が終わったとき、魔物は体の一部を吹き飛ばされた状態で大地に倒れていたのだった。
「ようやく終わったな。」
「強かったね。」
「セレンさんに加護を貰ってなかったらもっと苦戦してただろうな。」
「全体的に力があがってるような気がするよ。」
「俺もだ。だから盾を構えて足の裏に一撃入れることができた気がする。」
「私も魔力があがってるみたいね。これまでと少し感じが変わってたわ。」
「加護の効果は流石ってことだな。」
魔物の前で話しているとセレンさんがやってきた。
「倒したんですか?」
「なんとかね。もう起き上がることは無いと思う。」
「この状態で起き上がったらゾンビだよね。」
「ありがとうございます。これで依然と同じように結界を張って暮らすことができるようになると思います。」
「依頼を達成できてよかった。さて念のため早めに解体しちゃうか。黒いモヤの影響で本当にゾンビになられても嫌だしな。」
「そうだね。これは触って大丈夫なのかな?」
「一応シロの魔法で黒いものは取れてると思うんだけどな。シロ、俺たちが触っても大丈夫だと思うか?」
「シャー。」
コクコク。
「大丈夫みたいだな。念のため肉は食べないでおこう、病気になりそうだ。」
「えー、せっかく倒したのに食べないの?」
「黒いモヤを出してたのよ、食べたらどうなるかわからないからやめたほうがいいわよ。」
「シロにきれいにしてもらってもダメかなぁ。」
「念のためやめておこう。肉ならまだ魔法のバッグに入ってるからそれで我慢してくれ。」
「うぅ、わかった。」
よくこんな怪しい肉を食べる気になるもんだ。
珍しい肉ってのはわかるけど病気になってからじゃ手遅れかもしれないのに。
まぁ最終的には納得してくれたみたいだから良かったけど。
とりあえず解体だな、爪と牙は何かに使えるだろうし皮も一応持ち帰ってみるか。
一部吹き飛んだりしてるけど珍しいものに違いないはずだし、多少は値が付くんじゃないかな。
「そういえば結局これは何の魔物だったんだ?」
「わからないわ。聞いたことのない魔物ね。」
「セレンさんはわからない?」
「申し訳ありません。私にもわかりませんね。おそらく何かの変異種だったのではないかと思うんですが、このような魔物は見たことがありません。」
「これだけ広大な森なんだからそういった変異種が誕生することもあるかもしれないね。」
結局何の魔物かはわからなかったけど、無事依頼は達成できたんだし問題は無いか。
後は報酬を貰えればいいかな。