105 毒使いの蜘蛛
あれからいくつかの依頼を受けた。
よくある依頼から少し珍しい依頼までいろいろやったが、これといって手ごわい魔物はいなかった。
だが今回はなかなか危険な魔物の依頼が貼ってあったらしい。
依頼・カオススパイダーの毒腺の納品。
この魔物がなかなか強いらしい。
Eランクでも上位の魔物とのことだ。
「結構危険よ?本当に受けるのね?」
「いざという時はエリィの魔法に頼らせてもらうよ。Eランクの魔物を避けてたらなかなか強くなれないだろうし、受けてみよう。」
「私も大丈夫だよ。蜘蛛だから食べられないけど我慢する。」
「そう。わかったわ。気を付けて行くわよ。」
今回の依頼は納品だからまず魔物を探さないといけない。
オークなら結構いるからすぐに達成できるんだけどな。
カオススパイダーはオークのいる森の少し奥にいるらしい。
なんでもオークを餌にしているらしいからその強さはなかなかのものだろう。
ちなみにオークも同じEランクの魔物だ。
同じEランクでも下と上で強さに差がある。
だから同じランクの中でも捕食する側とされる側がいることになる。
オークは色々な生き物に食べられているんだな。
「カオススパイダーは色々な毒を使うわ。解毒薬を多く買っていったほうがいいわね。」
「それじゃあマーリンさんのお店で薬を買っていこうよ。」
「お世話になってるからな。マーリンさんのとこなら一通りそろってるから不安もないだろうし。」
マーリンさんのお店に向かった。
「いらっしゃーい。」
「こんにちはマーリンさん。」
「あら、みんな揃ってどうしたのかしら。お薬?」
「はい。カオススパイダーと戦うことになったので解毒薬を何種類かお願いしようと思いまして。」
「あの依頼を受けてくれたのね、助かるわー。」
「マーリンさんの依頼だったの?」
「そうよ。材料が切れちゃってね、ギルドにお願いしたんだけどなかなか手ごわい魔物だから受けてくれるか心配だったのよ。少しサービスしちゃうわ。」
「それはありがたいです。」
「ちゃんと倒してくるからね。」
「怪我をしないように気を付けてね。いろいろな毒を使うから結構大変なのよ。うーん・・・、これくらいでいいかしら。はい、エリィちゃん。」
「ありがとう、助かるわ。」
エリィの魔法のバッグに入れる。
色々な毒を使うから何種類も解毒薬を持つことになった。
なるべく攻撃を受けないように気を付けないとな。
マーリンさんの店を出て森へ向かう。
「何種類も解毒薬があったけど使い分けができるか心配だな。」
「私が毒の色である程度分かると思うわ。判断して渡すから攻撃を受けたらすぐに引いて薬を飲んで。」
「頼んだ。なるべく毒を食らわないようにしたいところだけど、今回は強敵みたいだからな。俺もキリも慎重に立ち回るさ。」
「カオススパイダーの糸にも気を付けて、強度があるから捕まったらマズいわよ。」
「そっちにも気を付けないといけないんだね。森の中で戦うことになりそうだから苦戦しそう。」
「足場の確認をして糸がないかをよく見ないとな。気が付いたらからめとられてたなんてことになったらシャレにならない。」
一度捕まったらそのままグルグル巻きにされそうだもんな。
一番気を付けるべきなのは糸か。
糸にさえ注意しておけば後は牙くらいだと思うし。
実際に見てみないと何とも言えないけどさ。
「今回は毒腺を納品しないといけないからあまり体は傷つけない方がいいわね。なるべく頭をつぶして終わらせないとせっかくの素材がダメになっちゃうわよ。」
「体にあるのか、気を付けることが多いな。ただでさえ強敵だ、うまく頭を狙えればいいけど。」
「他に素材は無いの?」
「後は牙くらいね。こっちはついででいいと思うわ。」
頭を狙うから牙は半分諦めよう。
体を狙えないってのは面倒だな、ゆっくり弱らせて倒すってのは無理そうだ。
周辺の確認をしたらなるべく早めに勝負を付けたほうがよさそうだな。
もしくは足を斬り飛ばしていってから頭を狙うか。
その時にならないと判断できないけど、どっちかになりそうだ。
オークの森に着いた。
今日は森に入る手前で夜営をする。
本番は明日からだな。
軽く朝食を食べて行動を開始する。
カオススパイダーは森の浅いところにはめったに出てこないらしいが、一応気を付けないといけない。
そして一番気を付けないといけないのはオークの群れに会わないように気を付けることだ。
数は力、群れと戦うなんて危ないことは絶対に避けなければいけない。
少数のオークならたいして脅威ではないんだけどな。
「よし、行くぞ。」
「ここの森の奥に入るのは初めてだね。他にも何かいると思うから気を付けて進もう。」
「フォレストウルフもオークも群れで会いたくは無いわね。あまり焦らないでゆっくり行くわよ。」
普通の道より森の方が危険だ。
だから慎重になりすぎるってことはない。
なるべく先を見ながら慎重に進む。
しばらく歩いていると四匹のオークがいた。
四匹くらいならどうにかなる。
俺とキリで奇襲する。
まずは後ろから首を斬り飛ばして、もう一匹へと距離を詰める。
力任せに腕を振るわれるが盾でいなして逆にその腕を斬る。
最後に首に剣を突き刺して二匹目が終わった。
その間にキリも二匹倒し終わっていたようで、四匹のオークは魔法のバッグにしまわれる。
俺たちの夕飯になってもらおう。
「これくらいなら問題ないんだけどね。」
「十匹とか来られると逃げるしかないからな。とてもじゃないけど戦う気にならない。」
「もう少し強くなって、武器も揃えないと難しいと思うわ。」
「武器か、ミスリルが手に入れば強くできそうなんだけどな。ワイバーンの牙もあるし。」
「いつになったら使えるんだろうね。まだEランクだからミスリルを手に入れてる人は少ないと思うけど。」
「ミスリル自体が不足してるっていう話よね。自分たちで手に入れないと難しそうね。」
「ミスリルまで行かなくてももう少しいい武器があれば変えるのも考えてみたほうがいいかもな。」
「そうね。だいぶ使ってるからそろそろ考えてみてもいいかもしれないわ。」
普通の鉄の剣でもいいんだけど、もう少しいいものが欲しいっていう場合はどうすればいいんだろうな。
今度おやっさんにでも聞いてみるか。
もしかしたらまた新しい魔物の素材で剣を作ってくれるかもしれないし。
そうなったら十センチ伸ばしてもらうのを忘れないようにしないとな。
「カオススパイダーいないね。」
「まだそこまで奥に行ってないから仕方ないわよ。森の中で何回か夜営をすることになると思うわ。」
「そんなに行かないといないんだ。」
「この森も大きいから仕方ないわ。小さい森だったら少しの魔物しかいないしね。」
「夜営中に襲われたくないな。蜘蛛だから気付きにくそうだ。」
「そうだよね。ただでさえ森の中で危ないのに。」
「カオススパイダーはそこまで動き回る魔物じゃないから大丈夫だと思いたいわね。蜘蛛だから自分の巣を持ってそこにいるんじゃないかしら。」
「一応見張りを増やしておく?」
「そうだな・・・二人で見張りをして一人が休むってことにしておいた方がいいかもしれないな。」
「それじゃあ日が暮れたら早めに休む準備をしようよ。少しでも長く休めるようにしておかないとね。」
「戦うってときに集中力が落ちたら大変だからな。森から出るまでは早めに休んでなるべく休息の時間を確保するようにしよう。」
日が暮れ始めると薪を拾って夜営の準備に取り掛かった。
森から出るまでは慎重に行こう。
ただ、その代わりに少し寝不足になりそうだ。