102 ハードパンチコングとの戦い
村では人々が逃げ惑っている。
三メートル以上あるコングを相手に村人ができることはそうそうないから仕方のないことだ。
「俺の家を壊さないでくれーー!」
「馬鹿野郎!早く逃げないとお前もつぶされちまうぞ!」
「せっかく建てた家なんだぞ!」
「お前も一緒につぶされれば満足なのか!」
「ぐっ。」
「残念だが諦めるしかないんだ。あんなもの倒せる奴はこの村にはいない。」
「くそっ!」
家の住人と思わしき人と何やら言い合いをしている。
いきなり現れて家を壊されるなんてたまったものじゃないだろう。
早めに討伐しないと被害が広がる一方だ。
よく見るといくつか壊された家が見える。
あれらも全部パンチで壊したのか、凄い威力だな。
ただ、遠目で見ている分には速度自体はそこまででもない。
気を付けていれば避けることはできるだろう。
「よし、行くぞ!」
「うん!」
家を殴りつけている隙に後ろから斬りかかる。
硬いな、ほとんど斬れてないぞ。
だがコングは攻撃されたと認識したみたいでこっちをゆっくりと向いた。
近くで見るとでかい、特に腕なんか丸太みたいだ。
キリもハンマーで殴りつける。
だが丸太みたいな腕で防がれたようだ。
キリの攻撃がまともに防がれたのって初めてじゃないか?
今まではワイバーン以外は当たれば絶対にダメージを与えてたからな。
コングの腕の太さは見た目だけじゃないって事か。
「今回は挟み撃ちはなしだ。正面からなるべく何とかするぞ。」
「わかった。」
いつまでも挟み撃ちでやってたら限界が来る。
こいつには色々な経験を積ませてもらおう。
じりじりと家からコングを離していく。
俺たちが戦いやすいようにしておかないとな。
だいぶ離れたところでこっちから仕掛ける。
それに合わせてコングのパンチが放たれる。
よく見てかわさないと大変なことになる。
ゴウッ!っと凄い音と共に俺の横をパンチが通り過ぎる。
これは怖い一撃だな。
だがかわした後は隙だらけだ。
足を斬っていくがやっぱり硬い。
こいつは防御力も結構あるみたいだ。
無傷というわけではないが、マジックアイテムを装備した俺でも少ししか斬れない。
ちょっと長期戦になるかもしれないな。
キリはハンマーだからどうしても大降りになる。
そこをあの巨大な腕で止められていて、決定打にはなっていない。
お、シロがその隙に噛みついてる。
この相手にはシロが相性がいいかもしれないな。
「無理せずこのまま行こう。シロは隙があればどんどん毒を食らわせていってくれ。」
「シャー!」
再度足を狙いに斬りに行く。
そのたびに振るわれるパンチが心臓に悪い。
今まで戦ってきた奴らに比べてスピードは遅いんだが、威力が凄まじい。
胆力を付けるって意味ではこれほどふさわしい相手はいないかもしれないな。
丁寧に避けてから懐に潜り込む。
狙いはさっき傷つけた足だ。
何度も斬れば切り落とすことができそうだから、何度も狙う。
その隙にキリとシロには攻撃してもらえばいいだろう。
ずっと近くにいるとパンチがどこから飛んでくるかわからなくなりそうだから、少し攻撃したら離れる。
これを繰り返していけば勝てそうか。
コングの攻撃が全部全力のパンチで助かった。
これでフェイントや細かいパンチを混ぜられてたら今頃俺は空を飛んでただろうな。
もっともそんなことをしてくるようだったらランクも上がってたかもしれないけど。
同じ攻撃を繰り返す。
コングも当てようと殴ってくるが、全て大振りだから何とかかわせる。
そのうちにキリの攻撃が効いてきたようで、片腕の動きが鈍くなってきた。
ずっとハンマーを防いでいたから限界が来たんだろう。
もしくはシロの毒が効いてきたか。
片腕になればもっと戦いやすくなるし、キリの攻撃がまともに入るようになるかもしれない。
いくら何でもキリのハンマーを頭に食らえば倒せるだろうし、そうでなくてもシロの毒が全身に回ればその時点で勝負ありだ。
「なかなかしぶといね。もう結構殴ってるのに。」
「あの腕だからな。魔力も通せるみたいだし、より頑丈なんだろう。」
「シロの毒も効いてるはずなんだけどね。」
「二人が攻撃してる方の腕は動きが鈍くなってきてるぞ。多分じきに限界が来ると思う。」
「こっちも殴られないように慎重に立ち回ってるから、全力で攻撃するってわけにはいかないからね。もう少しかかるかもしれない。」
「あれで全力じゃないのも凄いと思うけどな。俺も足を狙ってるんだけどなかなか硬くてもう少しかかりそうだ。そろそろ動きが鈍くなってきてもいいと思うんだけど、さすがにタフな奴だよ。」
コングの足からはもう大分血が流れてる。
それでも動きが鈍ってないのはまだ余裕があるのか、凄い根性なのか。
足をかばう動きも特に見せないところが不気味だ。
相変わらずパンチは全力で殴りつけてくるし。
正直、オークと同じランクなのは何かの間違いなきがする。
その後も変わらずに攻防を続けていると、ようやくコングの動きが鈍り始めた。
ハンマーによる打撃、足からの出血、毒とようやく全てが蓄積してきたようだ。
しばらくして膝をついた隙にキリがハンマーで頭を殴りつけてようやく倒すことができた。
「あー、長い戦いだった。」
「本当だよね。シロもお手柄だったよ。」
「そうだな。シロ、よくやったぞ。」
「シャー。」
フリフリしてる。可愛いな。
「お疲れ様、何とかなったみたいね。」
「あぁ。心臓に悪い相手だった。」
「こっちも魔法の準備をして維持し続けるのが難しかったから、いつか暴発するんじゃないかってひやひやしたわ。何度か準備をし直したし。」
「それはそれでいい練習になったんじゃないか?」
「そうね。戦ってないのに疲れたわ。」
「姉さんもお疲れ様。」
「二人とも戦ってみてどうだったかしら?」
「落ち着いて避ける練習にはなったと思う。」
「私は殴られないタイミングで攻撃する練習になったかな。ハンマーだと攻撃するときの隙が他の武器より大きいからいい相手だったよ。」
「得るものはあったみたいね。Eランクでも強い魔物と戦っていけばまだまだ成長できそうね。」
「うん。基本的なところから力を付けて行かないとね。」
確かに、Eランクの魔物相手にこれだけ手こずるようじゃまだまだ力が足りてない証拠だ。
これからもこれくらいの攻撃力がある魔物が出てくるかもしれないしな。
俺としては盾で何とかしのげるくらいになりたいんだが、もうしばらく時間が必要かもしれない。
さっき避けた感じだと、盾で受けてもそのまま吹き飛ばされて大怪我ってところだろう。
受け流すにも腕が大きすぎて厳しそうだったし、避けるのが正解ではあったと思う。
でも前線で引きつけないといけない時が出てきたら、何とか耐えられるようになっておきたいところだな。
他のEランクの魔物でも手ごわいのはいるはずだし、戦いの中で何か見つけていければいいけど。
「とりあえず村の人に安心してもらうためにも、早めに討伐したことを知らせた方がいいわね。」
「魔法のバッグに入れて持っていくか。姿がそのまま残ってた方が本当に倒したって安心するだろうし。解体はその後に村の一部を借りてやっちゃえばいいだろう。」
「一部の人は様子を窺ってたみたいだからもう村には伝わってるかもしれないけどね。」
「それならそれで説明が要らないから楽でいいさ。」
ハードパンチコングの死体を魔法のバッグに入れて、村に向かった。