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創造神は騒々しい  作者: 忌野希和
創造神は仰々しい
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究極をめざすもの

 それは一度、消滅させられる直前まで追い詰められた。


 僅かに残った生存本能とかけられた情けにより辛うじて消滅は免れたが、成形していた人格と生体情報は全て失われた。

 それでもそれは残された生存本能に従う。


 羽を広げると小さく柔らかな手のひらから脱出して活動を始めた。

 まずは外部に残されている自身の一部を取り戻すべく対象を追跡する。


 今すぐにでも対象から自身を取り戻したかったが、出来ない。

 対象の側には常に強者が居て守られているからだ。


 その強者を見ると、自身からは消えたはずの何かが訴えかけてくる。

 消えているので何かは分からない。


 取り戻す隙を伺っていると、何故か対象から自身の一部が漏れ出ていた。

 どうやら強者の片割れのしわざのようで、これ幸いと漏れ出た残滓を自身の体に取り入れる。

 取り入れた残滓に元の人格や生体情報は入っていなかったが、代わりに違う情報が流れ込んでくる。


 これは対象と片割れ、それと……。


 ()()()()()()()()も混じっていて邪魔だったが、除外も出来ないのでそのまま取り込んでいく。

 黎明が近づく尖塔の最上階にて、蝙蝠が天井から地面へ降りると吸血鬼としての姿を取り戻し始める。


 取り戻すと言っても元の人格と生体情報はもう無いので、手持ちの情報から新たな姿が創造されることとなる。

 小さな蝙蝠のシルエットが空中で球状にまとまると、次にそれは伸びて板状の長方形を形作った。


 人一人分の大きさまで伸びると、薄い膜に人の体を押し付けたかのようにして人型が浮かび上がる。

 華奢な四肢がすらりと長く伸びていて、胴体は女性的でメリハリのある曲線を描いていた。


 薄い膜を突き破り現れた柔肌は新月のように白く透き通り、腰まで伸びた黄金色の髪が身に纏った漆黒のドレスの上を滑り落ちていく。

 最後に整っている美しい年頃の女の顔が現れると、板状の物体は女の背中に同化して消え去った。


 裸足の美女はふわりと石畳の上に降り立つと、形の整った鼻先を自身の指でなぞりながら薄く笑みを浮かべる。


「ふむ……元の姿とはかけ離れている気がするが、悪くないのう」


 顔以外の部分も確認するべく、紫紺の瞳を妖しく輝かせながら指先を豊満な肢体に這わせようとした時、不意に尖塔に差し込む朝日が目に入る。

 辺りは次第に明るくなり、尖塔の最上階もやがて日光で埋め尽くされるだろう。


 そこは吸血鬼が触れれば灰と化す、絶対に侵すことのできない領域だ。

 にも関わらず、女は手の甲を日光の元へ差し出した。

 白い肌が日光に晒され焼け爛れる―――ことはなかった。


「やはりな、あの片割れの力を一緒に取り込んだ影響か」


 手の甲にじわりと広がる日光の感触を興味深げに女が観察する。

 純粋な吸血鬼であればその感触に懐古の念を覚えるかもしれないが、女の中は吸血鬼以外の情報が大半を占めているため、さしたる感動は無かった。


 吸血鬼が日光を克服した瞬間だったが、これは限定的なものである。

 その証拠に女は片割れから取り込んだ力が薄まっていくのを感じていた。


 取り込んだ力が無くなれば普通の吸血鬼に戻ってしまうだろう。

 そうなれば日の下を歩くこと(デイウォーク)も出来ない。


「力は再度取り込めそうかの。片割れの居場所も……感覚で分かる」


 最初は邪魔だと思われた穢れの無い魔素だったが、この時点で既に吸血鬼である女の力の一部として機能しており手放すには惜しい。


「追いかけるにしてもこの力は温存したい。となれば動くのは夜じゃな。ならば日が沈むまでは、長年住んだ?この城で最後の一泊と洒落込むとしようかのう」


 誰に言うでもなく女は独り言ちると、再び蝙蝠の姿に化けて尖塔の地下へ飛び去って行った。

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