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創造神は騒々しい  作者: 忌野希和
創造神は仰々しい
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謎解きは車窓から

「まずラキュアという吸血鬼は冒険者ギルドの情報にはなかった。だからフレックが逃げた後に現れたことになる。リカルドとクルツのことも含めて地下を確認したほうがいいと思う」

「そうね。夜は城内といえども危険だから、夜明けと共に三人で地下を探索しましょう」


「義姉さん、体は大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。不調どころか調子が良いわ。多少なりとも吸血鬼の不浄の血が体内に入ったら影響がありそうだけど。噛まれた跡が痒いくらいね」


「私も診させてもらいましたが、〈神気〉が漏れている以外にはどこにも異常はありませんでした」


 首筋を掻きながらリーニエが答えると、エレノアも頷き同意した。

 医療と治癒魔術に明るい地母神の信徒が言うのであれば安心できる。

 恍惚とした表情で〈神気〉の残滓を眺めているのは見なかったことにする。


「それと……」

「それと?」

「ううん、なんでもない」


 三人はその場に残されたテントを拝借して一夜を過ごした。

 リーニエが《施錠ロック》の魔術で尖塔唯一の出入り口である扉を封鎖したが、念のため交代で夜番を立てる。


(あの二人が吸血鬼らしい行動をするのを私たちは直接は見ていない)


 閉じられた扉をじっと見つめながら、夜番の一番手を買って出たルカが先程言いかけた言葉を心の中で反芻する。

 冒険者が二人殺され、義姉が血を吸われたという結果はあるが過程を見ていない。


 〈聖堂騎士〉とルカはドランと刃を交えたが、確認できたのは剣士としての腕前だけである。

 ただしその剣の冴えは尋常ではなかった。

 ドランは在野最強の冒険者階級第二位階、〈聖堂騎士〉という二つ名持つカイゼルを一騎打ちで打ち破った。


 ルカもカイゼルには劣るがこれでも第三位階の冒険者である。

 とはいえ冒険者ギルドの依頼書の受注資格の通り、第三位階の冒険者単独で挑むのは無謀でしかない。


 義姉を救う一心の、一か八かの賭けであったが現実はそう甘くなかった。

 全力で振り下ろした大鎚の一撃を、ドランは躱すのではなく剣で()()()()


 力量の差は天と地ほどに離れていた。

 かつて一度だけ〈剣豪〉という二つ名を持つ第一位階の冒険者の剣技を武闘大会で見たことがある。


 剣には詳しくないので一概には言えないが、ドランの剣技は〈剣豪〉と同等かそれ以上に感じていた。

 結局ドランが甘かったおかげで見逃されたが、吸血鬼の目の前で無防備に膝を付いた時のことを思い出すと恐怖で体が震える。


 吸血鬼は長い年月を生きる程(死んでいるが)強い個体になる。

 その長い年月を使い百年単位での研鑽を積んだ結果、定命の者では届かないような剣の境地に辿り着いたのだと考えれば一応納得はできるか。


 一方でルカはあの二人に妙な違和感を覚えていた。

 二人は吸血鬼だと言われても、どうにもしっくりこないのだ。

 ルカにとって吸血鬼との対峙は初めてであり、しっくりくるも何もないだが。


 何故しっくりこないと感じているのかルカは考え続けたが、結局答えが出ないまま夜番の交代の時間を迎えた。






 翌朝三人は日の出と共に西の尖塔の地下を探索した。

 前衛のルカに後衛のリーニエ、中衛及び支援職のエレノアとバランスの取れた面子ということもあって、迷宮蚯蚓メイズリーチが数体出たが難無く対処できた。


 〈恐血公〉ドランが出現した隠し部屋に到達し周囲をくまなく探すと、クルツとリカルドの物と思われる体の一部と遺品を発見する。

 遺体の大半は迷宮蚯蚓によって食べられてしまったようだ。


 部屋の奥にある棺は両方開いていて、片方には朽ちた防具や魔術具が沢山詰め込まれていた。

 すべては持ちきれないため、遺品と遺体と目ぼしい魔術具だけを回収して〈名無しの古城〉を後にした。

 無事にアリミラへ帰還し、冒険者ギルドで事の顛末を報告すると大騒ぎになる。


 強力な吸血鬼が逃亡中なのだから無理も無い。

 ただちにアリミラ周辺には厳戒令が出されることとなった。


「よう、よく無事に戻ったな。しかもあいつも生きていたとはな」


 詳細の報告はリーニエとエレノアに任せて、ルカが冒険者ギルドの併設された酒場〈高潔のきざし〉亭のテーブル席で休んでいると、何者かが話しかけてきた。


 最初に吸血鬼と遭遇して逃げ延びた男、フレックだ。


「行っても無駄死にだなんて言って悪かったな。お前がいなかったらリーニエも助からなかっただろうな」


 フレックの謝罪にルカはかぶりを振る。


「ううん、義姉さんも私も運が良かっただけ。義姉さんは吸血鬼の気まぐれで血をたいして吸われなかっただけみたいだし、私も情けをかけられた。フレックは正しかった」

「お前はリーニエが絡んだ時点で、何を言っても古城に突撃していただろうがな」

「もちろん」


 悪びれることなく即答してくるルカに、フレックが苦笑いを浮かべた。


「それにしても情けだって?そんな甘い奴には見えなかったけどな。人種を見下しているあの目は忘れられないぜ」

「……目?あいつは仮面を付けてなかったの?」


 互いに〈恐血公〉ドランのついての情報をすり合わせると、いくつかの相違点があることが判明する。


「中肉中背、白髪で中性的な声音の男というのは共通しているが、装備については大分違うな。俺たちの時はドランを棺から解放した直後だから、その後で身に着けたんだろう。ま、無事に帰ってきたんだしゆっくり休めよ」


 フレックは納得して去って行ったが、ルカは再び違和感を覚えていた。


(人種を見下した目……確かにあいつは偉そうだったけど見下すという感じではなかった。義姉さんを殺したみたいに言ったのも嘘だったし。装備はともかく性格が……)


「ルカ!無事だったのか」


 次にルカに話しかけてきたのは、後輩冒険者のダリデだ。

 彼のような下級冒険者にとって、吸血鬼は遭遇すれば死を免れない存在である。


 故にどんな相手だったか興味があるようでルカに矢継ぎ早に質問を始めた。

 まるで歯が立たなかった時の様子を話すと、ダリデは興奮した様子で聞き入っていた。


「そういえば、あの人も冒険者だったんだな。しかもルカと同じ第三位階の」

「あの人?」


「ほら、あの人だよ。昨日の馬車の護衛の客の、貴族様っぽい女の子と従者の兄ちゃん」

「ああ、あの二人ね。確か名前はカンナちゃんとカルマさん……!?」


 活発な美少女と掴み所の無い男の姿を思い出す。

 すると何故か脳内でカルマと吸血鬼ドランの姿が重なりルカは驚いた。


(背格好は似てるけど、髪色も声も違うし)


「そうそうそのカルマって人、吸血鬼討伐依頼を受けてたんだぜ……うわっ」

「どうしてダリデがそんなに詳しいの」


 急にルカが立ち上がり言い寄ったため、ダリデは思わず退け反る。


「ルカたちが戻ってくる少し前までギルドに居たから話しかけたんだよ。昨日討伐依頼を受けたけど、他の冒険者みたいに戦って負けて逃げ帰ってきたんだってさ。あれ、そういえばあの高そうな剣持ってなかったな。吸血鬼に取られたのかな」


 ダリデの言葉を聞いて、再びルカの中である二つの記憶が重なり合う。


「ねぇ!カルマさんたちは今どこにいるの!」

「ぐぇっ、依頼失敗の報告をした後、乗り合い馬車の停留所に向かったよ。次の街に向かうって言ってた……ぐるじい」


 ルカが壁掛け時計に目をやると、間もなく馬車の定期便が出る時間だった。

 胸元を掴んで締め上げていたダリデを解放すると、ルカは冒険者ギルドから飛び出した。






 定刻を迎えて馬車が停留所を間もなく出発する。

 複数ある馬車のうち、カンナは客席ではなく荷台が連結された馬車の最後尾の縁に腰掛けていた。


 何故そんな所にいるかといえば、手に持っている焼き魚のせいである。

 板の切れ端に香草を乗せて皿代わりした物の上に、焼き立ての魚が鎮座している。


 この焼き魚の臭いが客席内に充満して、他の客に嫌な顔をされたから気まずくなって荷台へ逃げてきたのだ。


「内陸で二日連続で魚を食べれるなんて幸せだなぁ」

「おかげで客席には居られなくなりましたけどね」

「まぁまぁこの魚はお姉さんを救った御褒美だから勘弁してよ」


 カルマの指摘にさして悪びれた様子もなく、カンナは懐からマイ箸を取り出すと焼き魚に取りかかる。

 馬車が動き始めて手元が揺れるが、危なげなく魚の身を解すとぱくぱくと口へ運ぶ。


「んまーい。塩焼きもいいけどやっぱり醤油と大根おろしが欲しいな……」

「カンナちゃん!」


 不意に声をかけられ動かしていた箸が止まる。

 手元を見ていたカンナがゆっくりと顔を上げると、停留所にルカの姿を見つけて思わず顔を顰めてしまった。


 このカンナの「しまった」という顔を見て、ルカの疑惑は確信に変わる。


 やはりあの二人が吸血鬼だったのだ。

 いや、吸血鬼のふりをしていたのだ。


 確信と言いつつ疑問点はいくつか残っているが、決め手は今のカンナの表情とカルマの持っていた剣だ。

 ダリデの言葉で気がついたが、カルマが持っていた剣の鞘と〈恐血公〉ドランのそれが同じものだった。


 【鍛冶神の加護】を持つルカは武具の目利きに明るく、美麗な装飾が施されていた鞘は一点物であり、同一のものと判断できた。

 何故彼らが吸血鬼を装い冒険者を追い払っていたのか。


 思い当たる節は一つしかない。


「どどどどどうしよう、あれはバレてるっぽいよね」

「落ち着いてください、カンナ様。私たちを捕まえるつもりは無いみたいですよ」

「義姉さんを助けてくれてありがとう!」


 ルカは礼を言うと去っていく馬車に手を振る。

 普段の無表情に満面の笑みを浮かべて。


「……!?またいつか会おうね!」


 ルカの言葉を聞いて、カンナが嬉しそうに手を振り返す。

 ルカは気が付いた瞬間から二人を咎めるつもりは微塵もなかった。


 義姉が救われた、その事実だけで十分だったからだ。


「また今度そのモフモフの耳と尻尾、触らせてねーーー!」


 カンナとルカは互いが見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。


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