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創造神は騒々しい  作者: 忌野希和
創造神は仰々しい
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三人寄ったのでかしましい

(なんなんだ、これは……)


 カルマが東の尖塔の最上階に到着すると、思わずぼやきたくなるような光景に出くわした。


「ダメよダメダメ、可愛すぎるわ!吸血鬼なんてやめてうちの子になりなさい!」


 そう言ってカンナの右手を引っ張っているのは、栗色の髪を三つ編みにした魔術師風の女だ。

 吸血鬼ドランに不浄の血を与えられて眷属化直前だったが、カンナの治療の甲斐あって意識を取り戻したらしい。


 特に後遺症も無いようだ。

 静かに眠っていた姿からは想像できない、興奮した様子でカンナを見て叫んでいる。

 おそらくルカが言っていたリーニエ義姉さんとは彼女のことだ。


「そ、そうはいきません!ラキュア様には私を吸血鬼にしてもらいます。というか人種と暮らせるわけがないじゃありませんか」


 反対側で左手を引くのは赤髪で法衣姿の少女、エレノアだ。


「孤児院には地下室もあるから大丈夫よ。昼はしっかり寝て夜は私と遊びましょう。こう見えても裁縫は得意だから、そんな野暮ったい服より可愛いのを作ってあげるわ。血だって食事分くらいなら喜んで差し出すわ。だって私はまだしょ……」


「街中に吸血鬼を招き入れないでください!ラキュア様は私とここで暮らすのです。そうか、食料という手もありましたね。私は眷属でも食料でもどちらでも構いませんよ、ラキュア様……わ、私だってまだ乙女ですから!」


 両者一歩も譲らず、かなり恥ずかしいことを大声で叫びながらカンナを引っ張り合っている。


「まぁまぁ二人とも、わたしが魅力的なのはわかるけど奪い合いは駄目だよ。お互いが納得できる妥協点を探そうよ」


 当のカンナ本人は厳しい顔をして二人を諫める台詞を吐いているつもりのだが、その口元は完全ににやけている。


 カンナは人に頼られるのが好きだ。

 創造神は自身の分身として生み出した守護神に大陸の運営を任せているのだが、彼らは非常に優秀であった。

 外敵の件を含めて大陸内部のことは守護神自身で解決してしまうので、上司である創造神に相談したり助けを求めることは皆無である。


 だから頼られたい、そして崇められたいという気持ちが強くなるのも仕方ない。

 頼りたくても創造神の力を使い果たしているから頼れないのでは?という疑問はカルマの胸の内に留めてある。


 我が主がそのことに気が付かないことを祈るばかりだ。

 知らない方が良い真実もあるのだから。


 また崇められたいというのも、過去に「守護神の信者はたくさんいるけど、創造神の信者って少ないんだよね。解せぬ」とカンナが愚痴っていたことから察せられた。

 守護神はその名の通り直接大陸に住む人々を守護する存在なので信者も多い。


 また地母神の信者は治療院や孤児院などを運営し人の暮らしに密着しているため、担当大陸の外でも一大勢力となっている。

 先に述べた通り創造神は直接世界に関わらないので、知名度はあってもありがたみを感じにくいのだろう。


 存在は知っていても全く顔を見せない会社の社長よりも、実際に助けてくれる直属の上司のほうが感謝されやすいといったところか。

 創造神は守護神たちの元締めなのだから、守護神たちの信者は実質すべて創造神の信者では?と言ってみたところ、カンナは一瞬納得しかけたが首を左右に振って「直接の信者じゃなきゃやだ!実感がひとつも湧かないもん」と言い放った。


 確かにその通りだ。

 もう少しで騙せたのだが、惜しかった。


 さて、割りと長めの回想を終えたカルマであったが、未だにリーニエとエレノアはぎゃいぎゃいと言い合いながらカンナを取り合っている。

 そこそこの力で引っ張られているが本人は構ってもらえてご満悦だ。


 柳眉はだらしなく垂れ下がり、口元も緩みっぱなしである。 

 取り合いの内容はともかくとしても、少しでも長く我が主を喜ばせていたいところだが時間がない。


 背後の螺旋階段をルカが登ってくる気配がする。

 カルマは仮面をかぶり声も変わっているから問題無いが、カンナは髪型と色を変えただけなのですぐに分かるだろう。


 吸血鬼を騙り冒険者に敵対、怪我を負わせたことを冒険者ギルドに告発されれば、犯罪者として指名手配されるのは免れない。

 その行動によりリーニエは救われ、本物の吸血鬼ドランと戦っていれば死んでいたであろう冒険者たちも怪我ですんでいるのだが、それを証明する手立てはないし、するつもりもない。

 まあ冒険者の負傷は余計だったのだが。


 言い合いを続けていたリーニエとエレノアだったが、突如強烈な殺気を浴びると慌てカンナから手を放す。

 そして殺気の発生源であるカルマに向かって警戒態勢を取る。


 緊張感の無いやり取りをしていた二人ではあったが、このあたりはさすが冒険者といったところだが、反応できたのはそこまでだ。

 二人がカンナから離れた隙にカルマは飛び出す。


 黒い疾風と化したカルマは高速でカンナの元へ到達すると、速度は緩めずに通過しながら首根っこを掴む。


「あ、嫌な予感んんん」


 カンナの語尾が横に流れると、カルマは尖塔のテラスの柵に飛び乗った所で振り返った。

 カンナは小脇に抱え直され、絹糸のような金髪が夜風に吹かれゆらめいている。

 瞬く間の出来事に動けないでいる二人に、カルマは何を言うでもなく尖塔から飛び降りた。


「ひぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 雲に覆われた漆黒の夜空にカンナの悲鳴が響き渡り、次第に遠ざかっていった。


「義姉さん!?」


 カルマが尖塔から飛び降り、カンナの悲鳴が遠ざかった所でルカが到着した。

 リーニエの無事な姿に驚いて思わず手から大鎚が滑り落ちる。

 大きな音を立てて地面に転がる大切な相棒もそのままに義姉に抱き付いた。


「おおっ、いつもはそっけない態度の義妹がついに懐いて……」


 軽口を言いかけたリーニエだったが、ルカが肩を震わせ嗚咽を漏らしているのに気が付いた。

 そして胸元に押し付けられた頭を、そっとやさしく撫でるのであった。






「改めて状況を確認しようか。私たち臨時パーティーが迷宮蚯蚓の間引きでこの〈名無しの古城〉に到着したのが昨日の午前中。西の尖塔の地下で何かに遭遇。私は真っ先に背後から襲われて気を失ってしまったわ」


 周囲の安全を確保すると、テントの側で三人は情報交換を始める。


「その臨時パーティーのうちの一人の方が、昨日の午後過ぎに冒険者ギルドに戻ってきて状況を説明しました。〈恐血公〉ドランと名乗る吸血鬼に襲われ自分以外は全滅、その方だけ加護の力を使って辛うじて逃げ切れたようです」

「〈影渡り〉の使えるフレックね、ということはクルツとリカルドは……」

「フレックの目の前で二人とも首を刎ねられたらしい」


 ルカの言葉にリーニエが息を飲む。

 臨時ではあったが仲間二入の結末を知り、先程の自身の行いを反省する。


 状況を把握していなかったとはいえ、仲間の仇である吸血鬼に熱を上げていたのだから。

 リーニエは気が付くとテントの中に寝かされていて、外に出た所へ丁度やってきたのが彼女だった。


 癖のない真っすぐな金髪が綺麗な絶世の美少女だった。

 リーニエが目覚めたのを見て嬉しそうにはにかんで「お姉さん気が付いたの?よかったね」と言われれば、味方だと思うのも無理はない。


 その後エレノアが追いかけてきて吸血鬼にしてくれという問答が始まり、なし崩しに少女の取り合いに発展してしまった。

 正直吸血鬼だと聞いても、敵意も強さも感じない少女が本物の吸血鬼だとは信じられなかった。


 むしろ彼女を吸血鬼呼ばわりするエレノアのほうが怪しく感じて、保護欲のままに動いたのだった。


「翌日、つまり今日の午前中ですね。〈聖堂騎士〉が率いる私たちのパーティーが、吸血鬼討伐依頼を受けて古城へ出発しました」


 エレノアの所属するパーティーはアリミラでも有名だ。

 リーニエもルカも冒険者ではあるがあまりギルドには出入りしていなかったので、〈聖堂騎士〉という二つ名は知っていたがメンバーの顔は見たことが無かった。


「古城に向かう途中で私たちより先に吸血鬼に挑み、敗れたパーティーとすれ違いました。彼らは奇襲を仕掛けましたがあえなく失敗したようです。私たちのパーティーはリーダーのカイゼルが対吸血鬼に自信があったため一騎打ちを挑みました……それでも敗れてしまいましたが」


 吸血鬼に情けをかけられカイゼルたちも撤退。

 エレノアは帰り道の途中で通過した村で用事があると嘘をついて、パーティーを離脱して一人で古城に戻った。


 〈魔識眼〉のことはパーティーメンバー以外には秘密にしていたが、吸血鬼になりたい理由を説明するために二人には教えている。


「私は護衛依頼を終わらせて孤児院に戻ったら、ロンデルさんから義姉さんの話を聞いた。詳しい話をフレックに聞いたあとすぐに出発した」


 そして玉座前で対峙するエレノアと吸血鬼に遭遇。

 逃げた吸血鬼の少女ラキュアをエレノアが追いかけ、ルカは立ちはだかるドランと交戦。

 あっさり負けて見逃された後、尖塔まで追いかけてきて現在に至る。


「疑問点がいくつかあるわね。ドランはともかくラキュアって娘は本当に吸血鬼かしら?〈闇の眷属〉はもっと邪悪な存在だと思ったけど」


 〈闇の眷属〉は魔獣の中でも特に他の生物に敵対し、仇成す存在の総称だ。

 例え人型で意思の疎通ができても、人種及びそれの準ずる亜人種以外は全て魔獣と分類されている。

 やや乱暴な分類ではあるが、人種及び亜人種以外に友好的な生物はおらず、魔獣でひとくくりにしても大きな問題にはなっていない。


 あんな可愛い娘が〈闇の眷属〉だなんて……やはり信じられないリーニエであった。


「〈魔識眼〉でその辺りは判断できないのよね?」

「はい、判断できるのはあくまで悪意の有無です。そして魔獣が必ずしも他者に悪意を抱いているとは限りません。例えば人種が捕食対象の場合ですね。ただ〈闇の眷属〉は総じて人種のへ悪意が強いのですが、あの二人からは感じられませんでした。特にラキュア様は悪意どころか神々しく、あれは〈神気〉ではないかと」


「ん?ちょっと待って。普通はあるはずの悪意を感じないなら、余計に二人は吸血鬼じゃない可能性があるんじゃない?しかも〈神気〉って吸血鬼と真逆だし」

「でも冒険者二人を殺してリーニエさんも血を吸われていますよね?なので吸血鬼であることは間違いありません。〈神気〉というのは私が勝手にそう言っているだけですので……」


 エレノアに言われてリーニエが首筋に手をやると、そこには左右に一箇所ずつ牙の跡がついていた。

 確かに悪意だとか〈神気〉だとかはどうであれ、人種に対して敵対行動を取っているのだから、吸血鬼かどうかという議論はあまり意味がないかもしれない。


 ただ〈魔識眼〉で見える魔素の色だけで、人種との敵対も辞さないというこのエレノアという少女は危ういなとリーニエは感じている。

 様付けもやめないし……。


「私が疑問なのは、リーニエさんから僅かに発せられているラキュア様の〈神気〉です。ラキュア様によって屍鬼化、もしくは眷属化のため血を流し込まれたなのならもっと〈神気〉は強く発せられるでしょう。もしそうであれば今頃リーニエさんは生きていないのですが」

「ドランは義姉さんから血だけ吸って棄てたと言っていた」


 リーニエを見つめながら赤毛の少女が不思議そうに首を傾げていると、ルカが口を挟んだ。

 ルカはリーニエは既に死んでいると思っていたので、無事な姿を見て感極まってしまったというわけだ。


「血を吸う際に加減を間違えて、ラキュアの血が少し私に入ったのかしら。それなら私から微量の〈神気〉?が漏れているのも納得できるわね。けれど何故ドランが嘘を吐いたのかは謎ね。ルカは何か気になったことはある?」


 義姉に話を振られると、義妹は少し考えてから口を開いた。

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