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創造神は騒々しい  作者: 忌野希和
創造神は仰々しい
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過去の遺産でなりすまし

 暗い穴から飛び出す迷宮蚯蚓をもう二匹ほど倒したところで、目的の地点に到着する。

 その穴は通路の左側に等間隔に並ぶ扉と扉の丁度中間地点に開いていた。


「少しの間、掲げてもらっていいですか」

「あいあい」


 カンナが《持続光》が付与されているショートソードを高い位置まで持ち上げると、迷宮蚯蚓の開けた穴の内部の見える範囲が少しだけ広がる。

 広がった視界の端に土ではなく石畳が見えた。


 カルマを先頭にそこまで進むと、他の部屋と似たような場所に出る。

 唯一違うのはカルマたちが通ってきた穴以外に出入口が無いということだ。


「隠し部屋ですか。隣接するどちらかの表の部屋と繋がっているのでしょうか」

「多分ね。今回は偶然ミミズが掘り当てちゃったと」


 五メートル四方ほどの殺風景な小部屋で、正面に長方形の物体が二つ並んで置いてある以外に何もない。


「吸血鬼のドランが眠っていた箱ですから棺なのでしょうが、随分と世界観を壊すデザインですね……」


 カルマがぼやくのも無理もない。

 長方形の物体の寸法は大人が丁度一人収まる程の箱、つまり棺なのだが意匠が奇抜すぎた。

 材質は金属のようで、真っ黒で艶の無い質感をしていて重厚感がある。


 箱全体には流線形の溝が彫られていて、人の頭部が収まる部分の両外側には蝙蝠の羽を模したような彫刻が飛び出していた。

 そして一番目を引くのは、流線形の溝に合わせて淡く発光する謎の光である。


 青と白の線状の光がゆっくりと明滅していた。


「うーん、ゲーミング棺?」

「的確な表現ですが、そこはせめて近未来的と言っておきませんか。まぁ千年前のものですし、この時代と比較して近未来というのも変なのですが」


 ドランが入っていたと思われる右側の棺は内側から壊され、開いた蓋はひしゃげて光の明滅も消えている。

 もう片方の棺は閉じられた状態だ。


「こっちにも吸血鬼が入ってるのかな」

「確認するので下がっていてください」


 興味深そうにふらふらと近寄ろうとするカンナを押し留めて、カルマが棺を確認する。

 棺は顔の部分に覗き窓が付いていて、カンナからショートソードを借りて照らすと、中身は吸血鬼ではなく様々な物が詰まっているようだ。


「宝箱の代わり、と言うには詰め込み過ぎですね」

「ほんとだ、みっちり入ってるね。ええと開けるボタンは……」


 カルマが制止する間もなく、後ろから覗いていたカンナが棺の側面にあった端末のようなものに手を触れる。

 するとピッという電子音がして、空気が漏れるような音と共にゆっくりと蓋が開き始めた。


「勝手に開けないでください。罠が仕掛けられていたらどうするんですか」

「ごめんごめん、調べるだけのつもりが手が滑っちゃったよ」


 カルマによって小脇に抱えられたカンナがぺしりと己の額を叩く。

 蓋が開き始めた瞬間、カルマはカンナを抱えて迷宮蚯蚓の穴の前まで飛びすさっていたが、罠の類が発動しないのを確認するとカンナを下ろして改めて棺に近づく。


 棺には様々なものが詰め込まれていて、蓋が開いたことにより一部がこぼれ落ちていた。


「色々入っていますね。剣や槍、鎧が大半ですがその半分ほどは朽ちています」

「朽ちてるのは当時の吸血鬼が冒険者たちから奪った戦利品だね。どれも新品だったとしても価値は大したことないから、戦利品というよりは記念品かな」


「そういえば千年前に人種がこの大陸に入植した時点でこの城は存在していて、城内は魔獣の巣窟になっていたそうですが、その中に吸血鬼のような<闇の眷属>はいなかったと冒険者ギルドで聞きました。なのでこの部屋につい先日までと閉じ込められていたドランは人種と初接触のはずですが、彼の態度やこの戦利品を見る限り違うみたいですね」


 千年も昔のことなので情報に誤りがあり実際は吸血鬼と戦ったのだろうと、カルマが勝手に納得しているとカンナが答えを暴露した。


「えっとね、ドラン君の戦った相手やこの記念品の持ち主は人種ではなくて人間なんだよ」

「人間?人種とは違うのですか?」

「起源は一緒だけど、種族としては少し違うかな。人間という種族は大陸カンナウルトルムの在来種でね」


 創造神が生み出したアトルランと呼ばれる世界には大陸が五つある。

 そしてそれぞれの大陸を創造神の分身である中柱神が守護する。


 守護神による守護のおかげで、多種多様な亜人を含めた人種は魔獣の脅威に抗うことが出来ているが、五つ目の大陸カンナウルトルムだけは違った。

 創造神が大陸創造に力を使い果たしてしまい、大陸を守護する中柱神を創造することが出来なかったのだ。


 その結果カンナウルトルムは、あらゆる魔獣たちが弱肉強食の生存競争を繰り広げる無法地帯と化した。

 今から千年ほど前に他大陸からやってきた人種により開拓が始まったが、守護神が不在のままの開拓は困難を極める。


 現時点で尚、人種未踏の地は大陸の半分以上を占めていた。


「この大陸に先住民が居たというのは初耳です。この武具が千年前の開拓民のものではなく先住民のものだとしたら歴史的発見なのでは」

「そうだね。この古城も開拓前からあったし、他の場所にも似たようなヒントはたくさんあるしね。ただ人間を開拓史以前に移民してきた人種と混同せずに立証するのは難しいかな。まぁ大陸の開拓が進めばもっと決定的な……おっと、この先は君の目で確かめてくれ!」


 昔の攻略本のような台詞を吐きつつカンナが棺を漁り続ける。


「人間を在来種と呼びましたね。ということは吸血鬼が外来種ですか?」

「鋭いね!ドラン君たちは外来種で普通なら駆除対象だけど、ちょっと訳ありでね……彼らはいわゆるマングースなんだよ」


 外来種のマングースで訳ありと聞いて、カルマは地球上で実際に起こったある出来事を連想する。

 ある特定の生物を駆除するための天敵として外から持ち込まれた生物が、目標以外の生物を襲い生息数を増やし続けた結果、有害外来生物に指定されてしまうという事例だ。


 マングースも毒蛇であるハブの天敵としてとある場所に持ち込まれたのだが、ハブではなく他の在来種を補食して大繁殖してしまったのだ。


「吸血鬼がマングースということは、魔獣がハブで人間が他の在来種ですか」

「うん、ドラン君たちは外様の神の尖兵で、わたしの世界への侵入をあえてブロックしなかったんだよね」


「吸血鬼なら最優先で人間を狙いそうですが」

「人間の勢力圏からは山脈二つ離して住み分けたんだよ。吸血鬼にとって目障りな周囲の魔獣だけ間引いてもらおうとしたら、人間が想像以上に優秀でさ。予想より二百年は早く人間が吸血鬼の所まで勢力を伸ばしたからもう大変。二百年あれば吸血鬼も強くなるけど人間はそれ以上に強くなるはずだったのに、当時の時点では鴨葱状態。このままだと吸血鬼が大陸を支配する可能性もあったから、創造神の力を使って退場してもらったの。力を節約しようと吸血鬼を誘致したら失敗して、結局力を使うことになっちゃったよ」


 創造神の力ですべての吸血鬼を葬ったはずだったが、ドランは仲間から古城の地下深くに封印されていたため偶然難を逃れたようだ。


「それは人間及び人種に残虐だったドラン相手でも、情けをかけたくもなりますね。こちらの都合で受け入れたのに失敗したら始末するのですから」

「うぐっ、さぁて何かいいものはないかな……おや、こんなものが」


 喋りながらも棺を漁り続けていたカンナが、誤魔化すように手に掴んだものを広げる。

 それは漆黒のドレスだった。


 大半の武具が風化しているというのに、そのドレスは汚れどころか皺ひとつ付いておらず、手触りは絹のように滑らかだった。

 デザインは非常に扇情的で、背中は大きく開きスカートも横に長いスリットが入っている。

 キラキラと目を輝かせてカンナがドレスを自身の体に当てているが……。


「残念ながらカンナ様が着こなすには足りないものが多すぎるかと」

「これは魔術具のドレスだから、着ればサイズは自動的に調整されるよ」


「そうではなく色気がですね」

「ちょっと、このカンナ様に色気が無いって言うの?」


 挑戦的な表情をしたカンナが無い胸を張って、カルマを見上げるようにして威嚇する。

 カンナが絶世の美少女であることをカルマも否定するつもりはない。


 艶のある長い銀髪を頭の左右で束ね、つぶらな紫紺の瞳は宝石のように輝いている。

 肌は陶器のように白く、美術品の彫像のように整った顔立ちは、異性は当然のこと同性の目も釘付けにするだろう。


 ただしそれは成人を迎える前の、少女のあどけない美しさであり、扇情的な漆黒のドレスが似合う大人の色気とはかけ離れたものである。


「よーし、それなら実際に着るから見て評価してよ」

「わざわざそれだけのために着替えなくていいですよ」


「ううん、それだけじゃないよ」

「う、嫌な予感が」


 ニヤリと笑ったカンナを見てカルマが思わず呻く。


「塔で寝てるお姉さんの治療が終わる今夜までは城から出られないし、その間他の冒険者を近づけることは出来ないよね?」


 ドランによって眷属化寸前まで不浄の血を与えられた冒険者の女は、治療が終わるまで日の光に当てることは出来ない。

 日が沈むまで待つか、全身を布か何かでくるんで森に移動することは可能だが、女から自身の残滓を回収したいあの蝙蝠が妨害するに違いない。


 カルマとしては今度こそ滅ぼしても構わないのだが、折角見逃した命なのにとカンナが嫌がるだろう。

 かといって吸血鬼を討伐しに来た他の冒険者を城に招き入れると、本来助からないはずの冒険者の女の治療方法について勘付かれる可能性がある。


 カンナの〈神気〉が公になれば勇者を探す旅どころではなくなるので、これは一番避けなければならない。


「これからやってくる冒険者の中に勇者がいるかもしれないじゃない?というわけで……今日一日、カルマとわたしは吸血鬼だよ!」

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