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創造神は騒々しい  作者: 忌野希和
創造神は仰々しい
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先住民(ラバー)

 〈名無しの古城〉はアリミラ近郊の森の中にある。


 本来なら鬱蒼と茂った木々が古城を覆い隠してしまうところだが、小高い丘の上に立地しているため遠くからでも場所は確認できた。

 深い緑の中に浮かぶ白い城壁は、離れた場所から見ても圧倒的な存在感を放っている。


「古城って言われてるけど、小奇麗で頑丈そうだよね」


 その古城の城門を仰け反るように見上げながらカンナが感想を述べる。

 カンナの言う通り古城は雨風で汚れてはいるものの、大きな破損も無い堅牢な城壁が目の前にそびえ立っていた。


「他の大陸からこの大陸に人種が入植し、この地に足を踏み入れたのがおよそ千年前。その時既にこの城はあったそうです。辺りに原住民らしき姿も無く、内部は荒れ果て魔獣の住処になっていました。一体誰がこの城を造ったのでしょうね?」

「地下から吸血鬼が出てきたんだし、彼らじゃないかな」


「彼ら?複数いたのですか?複数いたとしても資材も労働力も技術も足りないような気がするのですが」

「まぁまぁ答え合わせは後にして中に入ろうよ。迷宮探索といえば冒険者の定番だよね。みなぎってきた!」


 ぐいぐいとカンナに手を引かれカルマも城門をくぐった。

 今は荒れ果てているが、かつては庭園だったと思われる場所を通り抜ける。

 すると二十メートル程進んだ先に城内の入口が見えた。


「地上は枯れているとはいえ迷宮ですから、下がってください」


 腰に差した未使用のショートソードを抜いて、今にも突撃しようとしているカンナを引き留めて、カルマは慎重な足取りで城内に侵入する。


 城内には冷たい空気が漂っている。

 見上げれば、左右の壁の上部には明かりを取り込むための窓が付いていていた。


 その窓の下部には長いひさしが付いていて、直射日光を遮り間接的に光が入る仕組みになっている。

 壁沿いに設置されている燭台は長らく使われた形跡が無く、城内は日が落ちる前にも関わらず薄暗い。


 かつては豪華であったであろう調度品は全て朽ちているが、城自体は屋外と同様に屋内もまだまだ健在であった。


「なるほど、確かに吸血鬼が住みやすそうな城ですね」

「吸血鬼が出たのは西の尖塔の地下だっけ。左側に抜ける通路を探そう」


「扉を開ける時は警戒してください。魔獣が居ない迷宮は盗賊が根城にしている事がありますから」

「訳あり物件で家賃無料。おまけに保証人不要だもんねぇ。入居希望者は常にいそう」


 生息する魔獣が弱かったり枯れているなどして、比較的安全が確保されている迷宮には犯罪者が潜伏していることがある。

 この古城は地下に住み着いている迷宮蚯蚓以外には魔獣は居ないので、その可能性は十分にある。


 過去に目撃情報があったらしく、冒険者ギルドの受付嬢からも忠告を受けていた。

 まあ吸血鬼が出現した今、盗賊たちも大慌てで逃げ出しているかもしれないが。


 薄暗くて広いエントランスを抜けると、そこは玉座の間だった。

 色褪せた絨毯の続く先が小階段になっていて、壇上には黒くて無骨な玉座があつらえてある。


「……誰か座っていますね」


 玉座には若い女が座っていた。

 魔術師風のローブ姿で、栗色の長い髪を三つ編みにして体の前に垂らしている。


 意識は無いのか眠るように目を閉じていて、弛緩した体を長い背もたれに預けている。

 そして玉座の周囲には黒い霧のようなものが漂っていた。


 それは無抵抗な彼女の体を撫でまわすように纏わりつき、蠢めいている。

 特に顔の周辺の密度が濃く、霧越しにうっすらと見える彼女の細い首筋からは、一筋の血が流れていた。


 目を凝らすと、数本の鋭い牙の形に実体化した黒い霧が、彼女の首筋に噛みついているのが見えた。

 牙はまるでそれ自身が生きているかのように脈動し、血を嚥下していた。


「カルマっ」

「はい」

「―――人の儀式兼食事を邪魔するなんてマナー違反なんじゃないかい」


 カンナに促され玉座へ近づこうとしたカルマに、どこからともなく若い男の声が聞こえる。

 同時に漂っていた黒い霧が集まり、人型になり、色彩を帯びる。


 現れたのは黒づくめで色白の優男だ。

 白い短髪に碧色の瞳をしていて、全身に密着していて光沢のある黒装束のようなものを着込んでいる。


「ラバースーツ……?」


 カルマにはその男の装束が異世界には似つかわしくない、地球上の素材を使った既製品に見えた。

 男はカルマの呟きを無視するだけでなく視界にも入れない。

 後ろにいたカンナを見つけて薄笑いを浮かべる。


「おや、そっちの女の子はなかなかいいじゃあないか。でも僕はロリコンじゃないからなぁ。あと三、四年は眷属にはせず育つまで飼ってあげようか。その間はもうすぐ目覚めるこの子が君のお姉さんだ」


 男がにやにやしながら玉座に座る女の顎を撫でる。


「はぁ?わたしは現時点で完璧だもん。そのでっかい胸とか別にう、羨ましくなんかないんだからね!」


 女の胸元を凝視しながら、語るに落ちたカンナが吠える。


「胸の大小も個性のうちさ。成長した君もこの子も万遍無く愛してあげよう。なんなら今から愛され方の練習をしておくかい―――」

「私の主に近づかないでもらおう」


 カンナに近づいて触れようと伸ばした男の腕を、カルマは容赦なく抜刀した刀で切りつける。

 何の抵抗も無く、男の右腕は肘から先を切り飛ばされ宙を舞った。


 腕を失ったにもかかわらず男の反応は薄い。

 それもそのはず、切り飛ばされた腕は空中で黒い霧状に変化すると、漂い男の元へ戻っていく。


 そして切断された右肘に集まり実体化すると、元通りの右腕が現れた。

 一緒に切断された黒装束まで再生しているので、見た目通りの素材ではないようだ。


「おいおい、さっきからなんのつもりだい?お前はお呼びじゃないんだよ」


 男が初めてカルマを視界に入れる。

 明らかな侮蔑が籠っている碧眼が見据えると、不意にカルマを指差した。


 刹那、指先が針のように伸びてカルマに襲い掛かる。

 瞬く間に伸びた指先がカルマの黒眼に突き刺さる―――かに思われたが、眼前でカルマに切り払われた。


 切断された人差し指は宙を舞い、先程の腕と同様に黒い霧となって霧散する。

 すかさずカルマが追撃を加えるが、振り下ろした刃は男の人差し指が欠けた右手によって阻まれる。


 掴むように無造作に翳した手と刀が触れると、金属同士が擦れ合うような摩擦音を引き起こす。

 薄暗い城内に火花が飛び散り、一瞬だけカルマと男の顔を明るく照らした。


 火花が散る視界の隅で、黒い物体が動くのが見えた。

 カルマが仰け反ってそれを躱すと、槍のように伸びた男の手刀が頬を掠めて通過する。

 男の攻撃はまだ続く。


 すぐさま左腕を引くと、伸びきった腕を今度は鞭のようにしならせる。

 すると通過した手刀が空中で反転し、カルマの背中に襲い掛かった。

 だが背後からの奇襲は空を切る。


 男の動きと気配で察知していたカルマは、振り向くこともなく横に一歩動いて難無く躱したからだ。

 左手の操作に意識を割いていた男は、右手での防御が疎かになり間に合わない。

 カルマの刀が煌めき、男は肩口から腹にかけて大きく切り裂かれた。


 傷口からは血の代わりに黒い霧が大量に吹き出し、男がよろめき後ずさる。

 玉座前の小階段につまずくようにして仰向けに倒れると、全身が一気に黒い霧となって散り散りになった。


「やったかな!?」


 カンナのお約束の野次を聞くまでもなく、カルマは警戒を解いていない。


 ―――黒い霧が渦巻く。


 散らばっていた黒い霧が集まり、玉座に向かって移動を始める。

 霧は女の体の表面を撫でるようにして上昇し、玉座の長い背もたれの上で集まり密度を増していく。


 黒い霧は次第に人型となる。

 やがて背もたれの天辺に腰かけた無傷の男が現れると、楽しげにカルマを見下ろしていた。


「あれ、もしかしてお前って結構強い?今朝始末した奴らは僕の攻撃をひとつも避けれなかったんだけどね。ああでも一人には逃げられてムカついてたんだった」 


 話の途中で男の態度が一変。

 碧眼が爛と輝くと、放たれた怒気に空気が震える。


「だからお前でストレス発散しようか」

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