表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造神は騒々しい  作者: 忌野希和
創造神は騒々しい
10/37

創造神は神々しい

 むせ返すような濃い血の匂い。


 目を開けると血の海の真ん中に立っていた。

 周囲を見渡せば血の海の外側は真っ白で、四方を囲むように山々がそびえ立っている。

 見上げれば曇天からは白い結晶、雪がちらちらと降り注いでいた。


 吹く風は凍てつくようだが、まだ暖かい血の海からはうっすらと湯気が上がっている。

 何故このような状況なのか思い出そうとしたが……何も思い出せない。


 自分の名前さえもだ。


 この血の海に佇む前はどこに居たのか、何をしていたのか、今が何年何月何日なのかさえ思い出せない。

 自身の体を見下ろせば暗褐色のロングコートを着ていて、黒いブーツを履いている。


 それは戦争映画でよく見る軍人の服装に似ていた。

 視界に入る前髪は黒く、体格からしてどうやら自分は成人男性のようだ。


 脳裏に浮かんだ戦争映画の映像を元に、様々なものを連想してみる。

 人種、武器、乗り物、国々など、自分の事は思い出せないが、地球上の事柄に関する知識はあるらしい。


 しかし個人的な記憶は一向に思い出せない。

 これからどうしていいか分からず途方に暮れ始めたところで、曇天の隙間から太陽の光が差し込む。

 眩しさに手を翳して見上げると、その太陽が喋った。


「やっと目覚めたようだ、ですね」


 そして太陽が降りてくる。

 無論太陽が降りてくる訳がないので、別の何かである。


 可憐な声を発した発光体がゆっくり降りてくると、次第に太陽のような強烈な輝きも薄れていく。

 後光が消えて現れたのは、銀髪の少女だった。


 純白のドレスのようなものを纏い、つぶらな紫紺の瞳がこちらを見下ろしている。

 均整のとれた顔は美しいのだが、どの人種にも当てはまらない。


 無国籍風でもなく、俗っぽく言えばCGで理想を詰め込んで創造したような美しさか。

 腰まで伸びた銀髪やドレスの裾は、まるで水中を漂うかのように空中でふわりと浮かんでいた。

 頭上の高さで止まると、その場に浮かんだままこちらに語り掛けてくる。


「自分が何者かわかる、りますか?」


 首を横に振ると少女は続ける。


「きみ、貴方は大罪を犯したため、その償いをするために召喚されたんだ、です」

「喋りにくかったら普通に喋っていいですよ」


 初めて発した自身の声は低い男のものだった。


「あ、そう?んじゃいつも通りに戻すね。創造神らしく厳かさを出そうとしたけど難しいね。ここはカンナウルトルム大陸の北部、オレスター王国の外れって聞いてピンとくる?」


 途端にフレンドリーな口調になった少女の言葉を脳内で反芻する。


 カンナウルトルム大陸。

 アトルランと呼ばれる世界の五つ目の、最後の大陸。


 他の四大陸とは異なり神の守護が無い大陸で、多種多様な生物が生息している。

 人種はその中の一つで、他の生物たちと激しい生存競争を繰り広げていた。


 オレスター領は人種の勢力圏としては最北に位置する領地だったか。

 地球上にそんな大陸や領地があったあろうか、いやない。


「そう、ここは地球じゃなくて異世界のアトルランなんだよ!そしてわたしがこの世界を創造した創造神なのだ!」


 空中で腰に手を当てて、無い胸を反らしながら少女が言い放った。

 地球とは無関係の、少女曰く異世界の知識を持っていることに驚く。


 てっきり自分は地球人だと思っていのだが違うのだろうか。

 人種、魔獣、魔術、そして神々……アトルランという世界に関する事柄も連想できたが、やはり自身については思い出せない。


「ちょっと無視しないでよ!」


 腕を組んで顎に手を当てて考え込んでいると、少女がぷんすか怒り出したので改めて神について思い出す。


「創造神……確か四大陸を生み出し、自らの分身である中柱の神たちにそれぞれ守護させる。そして五つ目の大陸を生み出した所で神の力を使い果たしたため、その大陸カンナウルトルムはあらゆる生物たちが、弱肉強食の生存競争を繰り広げる無法地帯と化した」

「いやー、ちょっと神力のペース配分を間違えちゃってね」


 てへへと空中で頭を掻く自称創造神の少女。


「大罪を償うために召喚したとのことですが、俺に何をさせたいのですか?あとこの血溜まりはなんですか?」

「順を追って説明するね。まず大罪だけど内容は覚えていなくても自覚はしてるんじゃない?」


 なんとも矛盾した話ではあったが、確かに罪の内容は覚えていないというのに、罪を犯したのだという自覚が何故かあった。

 それはまるで胸の奥底、魂そのものに罪の意識が刻み込まれているかのように。


「大罪って具体的に何でしょう?例えば大量殺戮とか?覚えていなければ償いにならないのでは?」

「それは大丈夫、憶えていない事が償いの条件の一つだから。ちなみに大量殺戮ではないよ」


「では禁忌に触れる発明をしたとか?」

「タブー絡みでもないね……って詮索は禁止!大罪の内容は思い出したら駄目なんだから。で、償いの方法だけど、わたしの護衛兼従者としてこの大陸で一緒に勇者を探して欲しいの」


 少女の話をまとめるとこうだ。


 先に述べた通りカンナウルトルム大陸は、とあるおっちょこちょいな創造神のおかげで守護神が存在しない。

 守護神が居ないと外からの脅威に対抗できないため、勇者を見つけて育てたいのだという。


 勇者とは守護神が任命して従事させる存在で、守護神だと対処できない小規模の脅威を防ぐ役割を持つ。


「例えるなら、蟻の巣に他の巣の嬢王蟻が侵入した時に追い出すのが勇者の仕事。守護神が直接力を使うとそこにスコップを突き立てるようなものなの。巣ごと破壊しちゃうよね。だからそういう細かい仕事は勇者の出番ってわけ」


 ちなみに創造神が直接介入するとショベルカーだそうだ。

 まあ今はその力もないのだが。


「千年くらい待ってくれれば神力も回復して守護神を造れるけど、お相手が待ってくれなくてさぁ」


 お相手とは外からの脅威であり勇者と対になる存在、魔王だ。

 創造神の世界とは起源の異なる勢力の先兵で、他の大陸にも出現している。


 他の大陸は守護神が勇者を任命し、戦っているので防衛機能が働いているが、カンナウルトルム大陸は守護神と勇者が不在のため、魔王の暗躍が著しい。

 このままだと蟻の巣が乗っ取られてしまうというわけだ。


「つまり、【勇者の加護】を持つ者を探す旅ということですね」


 勇者は生まれた瞬間から決まっていて、【勇者の加護】を持っている。

 加護とは神々から与えられる力で、身体強化、技能向上、特殊能力の付与など様々な効果がある。


 ただし加護の内容や強さは人それぞれで、この世に生まれた瞬間に決定し生涯変わる事がない。

 不平等極まれりといったシステムだが、創造神的にはこれでも外からの脅威に個別に対抗してもらうために善処した方らしい。


「普通の加護は本人が自覚できるけど、【勇者の加護】は隠しステータスなので守護神が任命して初めて有効化されるの。だから守護神の代わりにわたしが任命しようというわけ」


「勇者はどうやって探すのですか?」

「見たらわかるよ!」


「……」

「ゆ、勇者のいる方向は大体分かるから大丈夫だって。あと勇者は当然勇者たる資質を持っているので、【勇者の加護】が有効化されていなくてもちょっとした英雄並みに強いはずだから、戦闘能力が高かったり、魔力量の多い有名人に目星を付ければいいんだよ」


 もしかして一人ずつしらみつぶしに見て周る気か?この世界に何人いると思っているんだ?見逃したらどうするつもりだ?という無言の非難に気圧されて、少女がしどろもどろに答える。

 守護神を生み出せないくらい弱っているので、探査能力も弱っているのだと言い訳も追加して。


「はい、そういうわけで最北端のオレスターからスタートだよ。勇者のいる方向は・・・あっち!」


 少女は両手の人差し指をこめかみに当てながら念じると、南西の方角を指さした。


「一応確認しておこっか。創造神と勇者を探す旅、やりますか?やりませんか?」


 拒否したらどうなるのか、召喚したということは送還されるのだろうか。

 疑問はあったが答えは決まっていたので尋ねる必要はない。


 大罪の自覚が魂に刻み込まれていたのと同様に、()()()()という意志もまた刻み込まれていたからだ。

 無言で頷くと、少女は嬉しそうに笑った。


「おっと、お互いに世を忍ぶ仮の姿の名前を決めておこうか。君は色々と業が深いから……カルマにしよう。わたしは大陸の名前にちなんでカンナにしとこうかな。神なのに神無カンナとはこれいかに」

「それでこの血溜まりは結局何ですか?」


 渾身の神ジョーク?を無視して質問すると、創造神の少女ことカンナが不貞腐れて頬を膨らませながら答える。


「君を召喚するのに支払ったコストの余りだよ。肉は全部もってかれたけど、血は半分くらい残ったんだよね……なんの肉かは言えないよ。ああ!高コストだった分色々チート能力を持たせてるから次はそっちは説明するね」


 不貞腐れていると思いきや、チート能力の説明を楽しそうに始めるカンナ。

 しかし気分のころころ変わる創造神だ。


 正直なところチート能力よりも、自分が何の肉で召喚されたのかが気になって仕方がないカルマであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ