始まりの終わりと終わりの始まり
思いつき連載し始めた「婚約破棄なんてさせないから!」の主人公の両親の話です。
読んでなくても大丈夫だと思います。
……たぶん。。。
「王族ってヤツはよぉ~」
険しい山道を登りながら男はぼやく。
白銀の髪と瞳を持つ美丈夫だ。背中には大きな剣を背負っていて軽装ながらも丈夫な鎧を纏っている。
「はぁ~。ルビーとミュー、会いたいよ~」
足を止め、ため息を付きつつ眼下を見下ろす。
その広大な景色を眺めながら男は思う。愛する妻と子供は今何をしているのだろう…と。
「早く終わらせてすぐに帰るぞ!」
そして男は再び歩きだす。
男の名前はスノウ。Sクラスの冒険者である。
◆◆◆◆◆
シルバーソード・レイフォス。
彼は男爵家の長男であったが、鍛錬の一環として身分を隠し冒険者スノウとしても活動していた。そして堅苦しい貴族社会とは違う自由な世界に段々と心惹かれていく。
そんな時、1人の冒険者に出会う。名前はルビー。夕焼けのような髪の色の少女。
何度か冒険を一緒にする内に互いに強く意識するようになるのには時間がかからなかった。
だがルビーは平民。しかも冒険者になる前の記憶を失っていた。
そんな彼女との結婚に当然の如く男爵家は猛反対。そのまま駆け落ちをして今に至る…とよくある話である。
◆◆◆◆◆
「ここか?」
スノウは山頂付近にある洞窟の前にたどり着いた。
周りには魔物の…いや、動物の気配すらない。そう、怖いくらいに何者の気配がないのである。
最近見つかったこの洞窟が『ダンジョンなのか?』と国主導で調査が始まったのは半年前。騎士団・魔術師団・学園・冒険者ギルドと各所から調査隊が派遣されたが・・・誰1人戻らなかったのであった。
そして冒険者ギルド経由で、王族から直々にSクラスのスノウに指名依頼が来たのであった。依頼内容は行方不明者の原因究明である。
子供が産まれてからは拘束期間が一週間超えの依頼は受けてなかったスノウは、二週間のこの依頼を初めは断っていたのだが、王族からの依頼ということで相当な圧力をかけられているのか、ギルドマスター・副マスターなど錚々たるメンバーの泣き落としに根負けして嫌々受けることになったのだった。
(正直、おっさん達の泣き落としは鬱陶しかったなぁ……とはいえ、これは…)
気配を殺して警戒して洞窟に入ってみたが、一見してなんの変哲のない洞窟に見える。それが却って不気味であった。
(だいたいあんな膨大な行方不明者を、俺1人でどうにかなるかと思っているのかよ。まぁ、調査隊はほぼ全員Bクラスの強さだったらしいが)
そんなことを考えつつ警戒を怠らず進んでいくと、ある角を曲がった瞬間に空気が…いや、空間そのものが一変した。
死体。死体。死体。
そこには調査隊と思われる死体の山があった。
その腐臭にその光景に一瞬気をとられたが、身体が反射的に横に跳んだ。元々スノウが立っていた場所には何かで抉られたような跡ができていた。
「これはなんだっ!!」
すでに元来た道は失くなってた。
道どころかその空間そのものが、すでに洞窟の中ではないように思える。
(こんな魔術聞いたことないぞ!)
理解不能なこの空間で悪寒に襲われながらも、スノウは警戒は解かない。すると視界の片隅から何かがジリジリと近付いてきた。
そう何かが。
〔…チ……力。強イ……。オ前ハ…〕
そのおぞましい気配がする何かが語りかけてくる。
「お前は何だ!!」
〔何ダ……。ワ、我ハ……我ハ何ダ………?〕
「これはお前がやったのかっ!」
〔コレ……。…弱イ。……弱イハ死…。オ前…〕
瞬間、見えない何かが飛んできた。それを気配で察知し避け、背中から大剣を抜き構える。
見えない何かを避け、弾き、あのおぞましい気配の元に駆けつけ、思い切り切りつけた。
幸いそいつは動きが鈍く避けることはなかった。
(手応えはあった。…だが、なんだ!何故まだ動ける!なんだこいつは!)
そう。それは切りつけたところから黒い何かを流しながら蠢いていたのである。
そこから何度、何十、何百と切りつけ切りつけられたのかは覚えていない。
魔術で身体強化して、魔術を放ち、そして剣に乗せ、持てる力を駆使して。
そして流石のあれもだんだんと小さくなっているようだった。
(あ、あともう少し)
倒れそうになりそうな身体を剣で支えてあれに近づく。
〔オ前…強イ……。我、マダ…力足リ…ナイ………死二タク…ナイ。オ前、…イラナイ!〕
その瞬間あれから膨大な魔力が吹き出す。
そこは闇。闇。闇の空間。スノウはその闇に吸い込まれていった。
「ルビー…。ミュー…。ここに来るな。……俺を探しに来るな。……あぁ、最後にもう一度……会いたかった………」
闇の中、スノウの呟きは、誰の耳にも届くことはなかった。
◆◆◆◆◆
柊 紅葉には前世の記憶がある。
なんと剣と魔法の世界に住んでいたようである。しかも夫と子供までいたのだ。16歳の紅葉には想像もつかないことだ。…まぁ、記憶はぼんやりとあるのだが。
紅葉の前世の名前はルビー。冒険者をしていたようだ。行方不明の夫を探して…そしておぞましい何かに殺された。その記憶を思い出そうとすると全身が恐怖で震える。ある意味トラウマであった。
そして驚くことに紅葉は、この魔素の少ない現代においても多少なりとも魔術が使えたのであった。
(この特技が進路に役立てばいいんだけどねー)
そんな悩み多き女子高生であった。
ある日の放課後、いつも通り通学路を帰宅していると、人々が怪訝な眼である一方を見てヒソヒソとささやいていた。
(何だろう?)
ふと気になり紅葉もその視線の先を見てみると何か大きな物があった。よく見てみるとそれは大きな物ではなくボロボロな鎧を纏い倒れている大きな男性であった。
(何?コスプレ?何のアニメキャラかな?…それにしてもあの剣とかよく出来てるなぁ。血糊はやりすぎだね。あと髪の毛は白髪?銀髪?染めてるのかー。……きっとルビーの旦那さんもあんな感じだったのかな?)
なんだか親近感が湧いてきた紅葉はちょっと近付いてみた。
(…え?この臭い。血糊じゃなくて本物の血だ!)
前世の記憶の中で覚えがある臭いに、紅葉は慌てて男性に駆け寄る。
「大丈夫ですか!」
揺り動かしながら声をかける紅葉。こっそりと回復の魔術をかけていたりもする。
(そっか。医者っていう手もあるな。こっそり魔術で治して女医としての地位確立!ふふふ。……あ、でも成績的に医学部は無理かー)
ちょっぴり思考が脇道にそれたのは秘密である。
回復魔術をかけつつ声をかけ続けていると、男性の方の顔色が少しずつ良くなっていき、そしてうっすらと瞳が開いていく。
「大丈夫ですか!分かりますか!」
「……ん。………こ、ここは?…君は?」
まだ身体が本調子ではないようで頭を抱え振り、そしてだんだんと意識がはっきりとしてきたのか周りの景色を見て驚愕な表情に変わる。
開ききった瞳は白銀。
(知ってる!私、この瞳知ってる!髪の毛も染めてなんかいない!この白銀の色合いっ!)
前世の夫の記憶が鮮明になり、紅葉の目頭が熱くなる。
「君!ここは何処なんだ!?あれはどうなった!!」
「スノウ……会いたかった。会いたかったの。もう、私を置いて何処にも行かないで…」
見知らぬ土地で困惑している男性…いや、スノウに抱きつく紅葉。その瞳からは涙が溢れて止まらない。
スノウからしたらあれとの死闘の末、闇に吸い込まれて気がついたらこの状態であった。
(俺の名前を知るこの娘は誰だろう?)
そんな疑問を思いつつも、この泣きじゃくり抱きつく少女を突き放すことが出来ずに、優しく包み込んだ。
「大丈夫。大丈夫だよ」
その瞬間、夕焼けで一面が朱色に眩く。
その朱色の光は二人を祝福しているようであった。
その輝きの中、初めて会った少女が良く知る……そう、最愛な女性と何故か重なり、その不思議な既視感にスノウは戸惑いを隠させない。
「あ…。君は…、君はルビー……か?」
「そう。ルビーよ。でも今は紅葉っていうの」
自信なさげに聞くスノウに紅葉は涙を拭きもせず笑顔で答えた。
◆◆◆◆◆
その後、紆余曲折ありつつも、紅葉とスノウは結婚。スノウは柊家の婿養子となり柊 雪となる。
そして長女の雅が産まれた。
少しだけど言葉も話すようになってきた。
「ママですよー」
「…まー!」
「パパだよー」
「ぱー!…ぱー!」
きゃきゃっと笑う雅。
「ぱーって…。バカにされてる気分だよ、俺」
落ち込む雪にくすくすと笑う紅葉。
「ふふふ。部下やヤンチャな方々には見せられない姿ね」
雪は冒険者で鍛え上げ身体を生かしたいと、なんと警察官になっていたのだ。まぁ、手加減しないと大変なことになるのだが。
「ほら、あなたは雅よ。みーやーび」
紅葉が雅を指差して言う。
「みーやーび」
「…み、……みゅー?…みゅー!みゅー!」
雅が笑顔で繰り返す。
そんな雅に紅葉と雪は泣き笑いともとれるなんとも言えない複雑な表情となる。…遠い……時空をも超えた、それは遠い地にいるであろう娘を想い、空を仰ぐ。
(あぁ、ミュー。…私達の娘のミューズフェル。もう会えないけどどうか元気でいて……)
◆◆◆◆◆
コンコンコン。
紅葉は娘の部屋を扉をノックする。
「雅、鈴華ちゃん、時間は大丈夫なの?今日早く出るとか言ってなかった?」
ガチャっと扉を開ければ、パジャマパーティの惨状がうかがえた。この世代の少女2人集まればなんとやらである。
「あ、ヤバい!鈴華、開演の時間ギリギリだよ!」
「ホントだ!あ、紅葉さん。おはようございまーす」
バタバタと準備し出した2人に呆れた表情で見守る紅葉。ふと、その視線がテーブルの上にあるゲームソフトに移る。
(あれ?あのイラストのピンク髪の女の子、見覚えがあるような?…でも私が知ってるのは、もう少し幼い感じの……)
気になりそのゲームソフトを手に取ろうとすると、それに気づいた雅がいち早くそのソフトをつかみ取る。
「鈴華!私、このゲームやらないって言ったでしょ。何こっそり置いて帰ろうとしてるのよ!」
「あははは~。バレてしまったか。目の前にあればうっかりやってくれるかなって思って」
「そんなうっかりあるかっ!」
そしてゲームソフトを鈴華に突き返し突っ込むのであった。
「それじゃあ、行ってきま~す」
「おじゃましました~」
騒がしい2人がいなくなり、一気に静かになった娘の部屋。
見渡せば参考書や推理小説に混ざって多くのライトノベル。「異世界転生~」とか「異世界転移~」とか「悪役令嬢~」なんて物まである。
(ふふふ。あの娘、自分の両親が異世界からの転移者と転生者と知ったらどう思うのかしら。あの娘は運がいいだけだと思っているようだけど、魔術の力もあるようだし。…そうね。あの娘が私とあの人が再会した16歳になったら教えてあげようかしら)
そんな未来を夢を想像しながら、紅葉は娘の部屋を後にした。
但し、その未来は叶うことがないのだが。
そして雅がミューズフェルに転生するのはまた別の話。
本編(?)が全然進んでないのに裏設定を先にノリノリで書いてしまった。。。
えっと……裏設定って楽しいですね←おいっ!(笑)
・スノウと紅葉の再会は往来。我に返った後が見物である。
・現代での2人の年の差はどう考えても10歳は違うぞ。…犯罪?