七話
「……さて、と」
(翔太も家に帰ってしまったし……やることが無いな)
手持ち無沙汰に、リビングに置いてあるバレーボールを指の上でクルクルと回す。しばらくし回した後に、ボールを置いてからリモコンを手に取った。
「………なんか面白いのねぇかな」
と、思い適当にザッピングをしていく。
「………ん?」
ピタリ、と緑の手が止まる。注目をしたのは、よくある恋愛系のバラエティの番組である。
「………ふーん?」
あまりこういうのは見ないため、思わず見入ってしまう緑。内容もなかなか良いもので、視聴者の興味を掴んでは離さない。
『お前、好きなタイプとかあんの?』
不意に、翔太の言葉が緑の脳内で響き渡った。
「……恋夜……な」
その言葉は、両親のただいまー!の声にかき消されて消えていった。
「………な、なぁいろは。緑、今朝からあんな調子だけどさ……なんかあったの?」
「……わ、分からない……朝会った時から今日はずっとあんな調子なの………」
明らかなため息の多さ。急に止まる行動、空を眺める頻度の多さ。その全てにおいて、今までの緑とは違い、はっきり言って物凄く変である。
「………はぁ」
「……なぁ、緑……どうしたよ今日は」
あまりにも心配過ぎて、翔太が我慢できずに緑へと話しかけた。
「そうだよみーくん……体調悪いの?」
さりげなく隣移動して軽くボディタッチをするいろは。
「……いや、具合は特に悪くないだけどさ」
いろはの心配している声に反応し、答える緑。
「……じゃあ何かあったの?さっきから話しかけても生返事ばっかりだけど……」
今朝から、何とか緑の調子を取り戻そうと積極的に緑へ話しかけていた二人だが、緑は「おー?」やら「んー?」やらと生返事ばかり。
そして、緑は大きくため息を吐いたあとにーーーー
「……なに……柄にもなく、彼女欲しいなぁって思っちゃって……」
ガタンガタンガタンガタン!
翔太といろはの持っている箸が指から滑り落ちた。その表情は、片方は『ありえない……!』といった感じで、もう片方は顔をめちゃくちゃ青くしていた。
「……どっ、どうした緑!?風邪か!?」
大事な幼馴染が何を言ったのか比較的早く飲み込んだ翔太は、緑へと詰め寄る。
「いやいや、大袈裟だろ……彼女欲しいと思うのは普通だろ?お前も中学んときしょっちゅう言ってたじゃん」
どうどう、といった感じて片方の手で耳を抑えながら翔太を押しかえす。
「いや、そうだけどよ!お前、今までそんな話してなかったろ!だからお前は恋愛興味無いしと思ってたし、昨日の俺の質問にぶっきらぼうだっただろ!?」
「いや、まぁそうだけど。ただちょっと心変わりがあっただけだ」
「……………………」
幼馴染の急激なカミングアウトに、焦りを抑えられない二人。いろはに至っては全身が震えてきた。
「………いろは?」
そんないろはの異変に目ざとく気づく緑。それに気づくなら恋心にも気づけやコノヤローと言いたくなった翔太である。
(……みーくんが……)
ガクブル青い顔でこちらを心配してくれる緑の顔を見つめるいろは。
「みーくんが………」
「?」
「みーくんが本気出しちゃう!?」
「……は?」
本気とはなんぞやという顔をした緑が間抜けな声を出した。
「みーくんのーーーーバカァァァァァァァァ!!!」
「あ!?ちょ、おい!?いろは!?」
赤い顔で中庭を駆け抜けるいろは。
「……とりあえず緑。いっぺん殴らせろーーーーいや、殴る」
「なんで!?」
その後、間髪入れずに緑の頭に翔太の拳骨が入った。今日の夜ご飯が翔太の嫌いなものオンパレードに決まった瞬間である。
「………はぁ、で?どういう心境の変化だよ」
「んあ?」
殴られた所をさすさすと撫でている緑。翔太の言葉を聞き、昨日のことを思い出す。
「ほら、昨日恋バナ?かもしれん話を少ししたじゃん?」
「おう、したな」
恋バナと言えるかどうかはしないが、確かに翔太は緑に好きなタイプあんの?とは聞いた。
「んで、お前が帰ったあと恋愛番組があったじゃん?」
「おう、俺も見たな」
「気になって見てみるじゃん?…………感動したわぁ」
「おう、俺も泣きかけたわ」
緑は大号泣である。
「そんでさ、この番組を見てる時にさ………妙にお前の言葉が脳裏をよぎって……」
翔太の言葉は、短いながらも確かに緑の胸に刺さった。その理由は、きっとあの出来事が理由であるだろう。
「んで、番組見たあとにさ、色々考えたわけよ。親父たちにも相談した」
「そんなんで翔さん困らせんなよ……」
「ノリノリだったぞ?」
「…………まじ?」
緑の親である、白石翔だが、息子の相談内容から「遂に緑にも春が………」と言ってちょっと泣いていた。それを見て緑は引いた。
「そう、それで俺は気づいたんだ……無意識のうちに、俺は恋愛をしたいのではないかと」
「やっぱお前風邪引いてんだろ」
何故か手を大袈裟に広げながら言う緑に、翔太の冷たい視線が刺さる。
「至って正常だ。ちょっと変なテンションになっているのは認めるが」
「充分異常だわ」
俺こんなテンションの緑しらねぇ……と嘆き、頭を抱える翔太。
「というわけで」
「何がというわけなのか説明しろ」
胸ポケットからメモ帳を取り出した緑。
「とりあえず、翔太には俺が二時間かけてやっと揃った俺の好きなタイプについて聞いて欲しい」
「……まぁ聞くだけなら」
ぱらぱらとメモ帳をめくり、お目当てのページを探す緑。どこに労力をかけているのだか…………。
「まず、料理上手」
「まずお前がプロレベルだろって言うツッコミは置いとくぞー」
「次に、気配りができる」
「まぁ妥当だな」
「次に俺を支えてくれるやつ」
「…………ん?」
何やらピンと来た翔太。しかし、まだ言うべきではないと口を噤む。
「髪は少し長めで明るい系統………そうだな、亜麻色とか?」
「………んん?」
しかし、どうしても翔太の頭には1人の人物像がくっきりとピックアップされてしまう。いやいや、まだまだ……と思い口を噤んだ。
「身長は俺より低めで……ここら辺に頭が来るくらい」
と言って、自分の肩ら辺を指さす緑。
(………あー)
気づいてしまった。そう、完全に気づいてしまった。
「どうだ?」
「………いや、どうだって言われても……」
(…おまっ、それ完全にいろはじゃねーか!)
どう頑張ってもいろはと完全一致。どうやらいろはの心配は杞憂に終わりそうである。これには、翔太はため息をつかずに居られなかった。
「………はぁ」
「失礼だな。人の顔みてため息なんて」
(誰のせいだと思ってるんだ誰の………)
「………とりあえず爆ぜね?」
「おい、それ特大ブーメランだかんな」
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