五話
「………実際よ、どうなん?」
「なんだよ藪からスティックに」
中庭にて昼飯を食べている途中、翔太が緑へ声をかけた。
「みーくん、それちょっと古くない?」
どうなん?とか聞かれても脈絡もなく言われるので、頭にはてなマークを沢山うかべる緑。
「いや、バレーよバレー。お前さ、あんなに上手いんだから入ればいいじゃん」
パクっ、と緑が作った卵焼きを口に入れる。
「………いやいやいや、俺翔太にしか合わせられないんじゃん。それってセッターとしてダメじゃね?」
緑がこれだけバレーができるのは、今までの翔太との練習プラス、どんな悪球でも打てるトリッキーさと、正確性が持ち味。恐らくだが、翔太はどんなにセッターが下手でも無理矢理合わせることはできるだろう。
「ほら、それは部活に入ってから練習といことで………」
「それだと既存のセッターが納得しないし……それに、今のお前らのプレースタイルで急にセッターを変える訳には行かないだろ」
「……やっぱダメかぁ……」
残念そうに肩を落とす翔太。きっと、緑が今更バレー部に入ったからと言って、いい顔をする人間は少ないだろう。いくら公平や翔太が推薦しようと、人の感情というものはそう簡単に納得したりはしない。きっと、無用な争いが起こるだろう。それが、チームスポーツなら尚更。
「ほら、そんなことより弁当食え。今日の夜は何がいい?」
翔太の両親は、夜遅くまで仕事をしているため、翔太の家には誰もいないので、隣の家で料理もできる緑が栄養バランスなども考えて翔太に食事を作っている。
「肉だ!肉がいい!緑の肉料理だったら俺はなんでもいいぜ!」
「なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
しかし、うーんと緑は顎に手を当てて考える。料理を作る側としては嬉しい言葉だが、ぶっちゃけなんでもいいが一番困るのだ。
「……買い物しながら決めるか」
「あ、みーくん。私も着いていっていい?」
いろはがひょこっ、と小さく手を挙げて同行を申し込む、特に断る理由もないので、緑は了承するついでに、ひとつ頼みごとを頼んだ。
「いろは、ついでに翔太の料理作るの手伝ってくれない?」
「うん!元々そのつもりだったからもちろんいいよ!腕によりをかけて作ろうね!」
「あぁ」
いろはが緑に向かって笑いかけるので、緑も自然と笑顔になった。
「……おーおー、クラスの料理上手一位二位に料理を作ってもらえるなんて………俺は幸せものだなぁ……」
「出世払いだぞー」
「おい!?」
「冗談冗談」
前も説明したが、いろはと緑。どちらの料理が美味いかという本人達抜きの料理ウォーズが起こっていた。
審査員が翔太で、何故か教師もノリノリで行っていたため、結構ガヤガヤとしていた。よく他のクラスに怒られなかったものである。
ちなみに、その時の本人はお互いに作った料理を食べさせ合いしていた。
緑は、メモ帳をとりだし、そこに肉料理と書いた。
(………げ、昨日も肉じゃねぇか……今日は野菜多めの肉野菜炒めだな……)
先程書いた肉料理の上からバツを書き、肉野菜炒めと書き、その下に野菜多めと書いた。
「それじゃあ緑!夜、たのんだぜ!」
「へいへい。部活頑張ってなー」
ホームルームが終わり、素晴らしい速度で部活へ行く準備を終わらせた翔太。そのまま公平声をかけ、教室を出ていった。
緑もそれなりの速さで帰る用意を終わらせると、緑を待っているいろはの元へと歩いた。
「お待たせ」
「ううん、待ってないよ。ほら、行こ?タイムセール終わっちゃうよ」
と、さり気なく緑の隣にたち手を握るいろは。
(………別にそんな急がなくてもタイムセールには余裕で間に合うが……まぁいいや)
と、いろはに手を引かれるがまま、教室を出ていった。そんな二人をずっとクラスメートが視線で追っていたことは、二人は知らない。
(………こ、こうしていると、恋人さんっぽく見られているのかな……)
繋いでいる緑の手をギュッ、と握りながら、緑知れずに顔を赤く染めるいろは。そんないろはの隣で、緑は呑気に欠伸をしていた。
(…………むー。私、こんなにもドキドキしてるのに……)
さり気なく、手を握るから腕を抱きしめるにシフトするいろは。緑は一瞬だけ反応した後、いろはへ笑顔を見せるのだった。
(……むー!違うのー!もっとみーくんもドキドキしてよー!!)
(………今日のいろはは甘えんぼさんだな……いいけど)
いろはの心、緑知らず。
しかし、そんな緑の心臓が少し早い鼓動を刻んでいたことは、緑でも知らない。
「おじゃましまーす」
買い物を終わらせ、帰宅した二人。靴を脱いで、トタトタと歩き、リビングへ入っていくいろは。そこら辺の勝手は、幼馴染なのでよく分かっている。
いろはの後に続き、リビングへはいる緑。机の上に買ってきた荷物を置いて、いろはに声をかけた。
「いろは、喉乾いてないか?」
「あ、じゃあ少しちょうだい?」
おっけーと返し、冷蔵庫を開ける緑。翔太専用と書かれたペットボトルの隣にあるペットボトルを取り出し、コップを戸棚から出して麦茶を入れた。
「ほい」
「ありがとう」
こく、こくと飲んでいるいろはを横目に庭へ出て洗濯物を入れようとする緑。完全にやっている事が主夫である。
「手伝うよ」
リビングの窓から顔をのぞかせるいろは。緑が返事をする前にサンダルを吐き、洗濯物を一緒に取り込み始めた。
緑が一旦持っていた洗濯物を家に入れ、後ろを振り向くと、大量に洗濯物を抱えたいろはがいた。
「……おいいろは、足元気をつけろよ!」
「うん!」
心配して注意を促すが、無意識のうちにいろはに対して過保護になっている緑。一応、倒れないようにといろはの方へ歩くがーーーーどうやら一歩遅かった。
「キャッ!」
「っ!いろは!」
足が絡まり、前へ倒れそうになるいろはを急いで抱きとめる。
「んぐっ………」
しかし、勢いに負け、片足が地面から離れた。
「こん……の!」
横に倒れそうだった体を、なんとか全筋肉を総動員し、緑が下になるように地面から倒れ落ちた。
「いっっっ!!」
本日二回目の痛みを感じる緑。翔太の超超インナースパイクが腹に当たった時の方が痛かったが、受け身もろくにとれず、背中から思いっきり地面にぶつかった。
「だ、大丈夫!?みーくん!」
緑に助けられ、怪我どころか、痛みさえなかったいろは。痛みに呻く緑を心配し、声をかける。
「あ、あぁ……いてて……大丈夫。いろはを守れてよかっーーーーーーーーた」
ことばが不自然に途切れ、紡がれる。ほとんど目と鼻の先にあるいろはの顔を、緑は我を忘れて見蕩れていた。
綺麗な瞳。毎日見なれている整った顔。少し崩れた髪が緑の顔にあたり、それがやけに色っぽさを醸し出していた。
ーーーーーーーーとくん、
心臓が、跳ねる音がした。
続きが気になる!と思った方はぜひぜひブックマーク登録、及び、下にある評価ボタンをポチッと押してくだされば、30分頻度でポイント確認する作者が狂喜乱舞します。
沢山着けば、書籍化も夢じゃない!…………多分!
あと、総合日間のTOP5のポイント見て目ん玉飛び出ました。俺が総合日間4位取った時は3000くらいだったのに………。