三話
「緑!ウェーイ!」
「ちょ……ちょっと待て翔太……まだいてぇから……」
ハイタッチをせがんでくる翔太。何とか少しだけ待ってもらってから、緑は翔太とハイタッチをした。
「いっ!」
パァン!と結構大きめな音が鳴ると同時に、少しだけ収まった痛みがまた出てきて、緑は少し涙目になった。
「いやぁ、さすが緑だよな!伊達に俺のサーブ何百本も拾ってねー」
背中をパンパンと叩く翔太。
「別に……お前のは受けすぎて慣れただけだ」
夜に誰もいない体育館で閉館時間まで翔太のバレー練習に付き合っていた緑。日に日にどんどん鋭く、そして重くなっていくサーブを拾うのに苦労したものである。
そのせいで、バレー部でもないのにバレーシューズを買った緑である。
「すげーな!白石!」
「よく飯塚のサーブ上げれたな!」
と、一時的なチームメイトであるクラスメートが緑を褒める。
「……まぁ、翔太の強力なサーブは何回も受けたからな。こちとら何年どんどん成長していく翔太のサーブをこの手で受け止めたと思っている」
軽く4年ぞ?と心でつぶやくと、緑の瞳からどんどんハイライトが消えていった。
「お、おう……白石も苦労してんのな……」
「よし、昼休みジュース奢るよ……何がいい?」
なんか同情された。
「よし、緑の実力も分かったところで、これから緑がレシーブする時以外は、全部緑に上げてくれ!ぶかっこうでもいい!とりあえず上げてくれ!」
「おい。それ俺の負担がやばくなるやつ……さすがに無理だから、乱れたレシーブフォローはさすがに無理」
「大丈夫だ。緑ならできる」
「………………」
なんなんこいつの無駄に厚い信頼は………と思いながら翔太を見つめる。その後、緑は諦めたように息を吐き、もういいや、と呟くのであった。
こちらに点数が決まったため、ローテーションが回り、前衛に剣崎が行った。
「せい!」
アンダーハンドサーブが敵コートに向かう。
「オーライ!」
公平が声を上げて、俺が取ると合図を送り、丁寧にレシーブをして、しっかりとAパスを返した。
相手のセッターは今はバレー部では無いものの、中学生の時にバレー部だった橋口智則である。
(……さぁ、誰にあげる?ここは安定の飯塚か?それとも飯塚を囮にしての他の誰かか?)
緑のクラスには血気盛んな奴が多い。飯塚以外が来てもいいようにしっかりとセットアップを見てーーーーーー
「げ!?」
チョン、と優しく押されたボールは、そのまま緑達のコートに落ちて、てん、てん、と無邪気に跳ねる。
「………うっわぁ……」
翔太がそう言ったのが聞こえた。
そこから先は一進一退の攻防が続く。両チームの得点源は、やはり二大エースである公平と翔太。
(……というか、この二人が打ったら誰も取れないんですけど)
よって、途中から公平と翔太のバックアタックが禁止になった。
「ナイスレシーブ!」
不器用ながらもしっかりと帰ってくるAパスに、落ち着いて思考を回す。
「白石ー!!こっちだー!!」
「俺だー!白石!!」
血気盛んなチームメイトである、剣崎と佐藤が声を上げる。
(ほんと、元気がよろしい事で)
こちらのチームの準得点源である、運動神経がいい剣崎と佐藤。当然、相手も警戒するので…………。
(………ツーで)
ちょん、と優しくボールを押し出す。飯塚が反応してフライングをするが、あと少し届かなかった。
「「白石ーー!!」」
剣崎と佐藤の声を聞いて一瞬だけビクッとなる緑。
(………い、いいんだよ……ほら、この点数でこっちはマッチポイントですし……)
14対13。15点マッチのゲームなので、先程の緑のツーアタックでマッチポイントである。
こちらが点数を決めたので、ローテーションが回り、サーブが緑になる。
(さて、俺ね……)
翔太の影響でフローターサーブならできるようになっている緑。
(よいそ!)
パン、と無回転で相手のコートへ行くボール。無回転ならば、素人はとても難しいボールなのだが…………。
「うらぁ!」
「………えぇ?」
運動神経がいいため、力づくで挙げられてしまう緑のサーブ。まぁしょうがないかぁ……と思いながらも切り替える。
今は相手の前衛には公平がいる。ここは安牌を取って公平へあげると誰もがそう思った。
しかしーーーーー
「早見!」
なんと、トスをあげたのは公平ではなかった。
「うらぁ!」
「なぁ!?」
完全に騙された翔太が声を上げた。
見よう見まねのスパイクが、緑達のコートへ迫る。この位だったら、緑や翔太は上げれるが、向かった先はバレー未経験者。
「……っやべ!」
アンダーは、ボールと触れ合う面が狭いため、しっかりと芯で捉えなければきちんとボールは上がらない。
剣崎がアンダーで取ろうとしたボールは、腕の右側へ当たり、前へは飛ぶが大きく右に逸れるレシーブとなってしまった。
これは無理だな……。誰もがそう思った瞬間、緑と翔太の視線が一瞬合った。
「……っ!」
そして、走る。ボールを追いかけ、片足で踏み切った。
(とど……け!)
コートの反対では、翔太が既にジャンプの体勢に入っている。
(速度は早め、軌道はライナー気味で後は全部、あいつが合わせてくれる!)
「ふっ!」
片手で力いっぱいボールを飛ばし、翔太の元へ、ボールが届く。緑の体はそのまま流れ、相手コートのアタックライン辺りまで体が流れてしまった。
(《《いい悪球だぜ》》!緑!)
ぐぐぐ……と、翔太の姿勢が空中で変わる。
「不味い!クロス!」
「無駄だぜ!!」
翔太の危険性を知っている公平が焦るが、時すでに遅し。
「ふんが!」
バゴン!!と一気に力を解放したスパイクが、コートに刺さる。
これは、自身の常人よりも柔らかい体を最大限に生かした、アタックラインよりももっと手前側に落ちる超超インナースパイク。
コートに跳ね、物凄い音が試合終了を告げる音となりーーーーーー
「がっ…!」
ーーーーなんと、緑の死亡をも告げる死神の音になってしまったのである。
「あっ……」
日本代表のスパイクがモロに緑の腹に突き刺さり、そのまま緑はあまりの痛さに意識を失った。
「……………み、緑ーーーー!!?!?!」
「みーくん!?」
翔太といろはの本気で焦った声が体育館に響いた。
やはり緑の腹にはボールが突き刺さる運命……。
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