十八話
(……翔太くん達との作戦通り、みーくんと二人きりにはなれたけど……)
チラリ、と横目で隣にいる緑を見るいろは。
(なったはいいけど、なにすればいいのー!!)
槙野いろは、16歳。心からの叫びである。ついつい、頭を抱えてその場に蹲ってしまった。
(みーくんを意識させろ………なにすれば良いのか分かんないよ)
かつて、翔太と美咲をくっつけるために色々と相談にのっていたいろはだが、自分の事となると、行動に移せなかった。
「………いろは?」
「っ!だ、大丈夫だよ!何をしようかなぁって悩んでただけだから」
「……それだけでそんな深刻そうに考える必要は無いのだが……」
「あははは……」
(深刻だよー!深刻なんだよ!みーくん!)
心の中では盛大に焦るいろは。しかし、いろは限定で(好意以外には)敏感な緑は、心の焦りを読み取った。
「………なんか焦ってるのか?」
(深刻そうな表情はしているが……どちらかと言えば、どうしようとかそんな感じ………)
「………え?」
ドキッ!といろはの心臓がはねた。
「……思い詰めるのも良くないな……そうだ」
と、何かを思いついた緑は、いろはの手を引いてリビングへと連れていく。
「え……え?みーくん?」
「いいから」
と、まるでお姫様のように慎重に扱われ、どんどん頬が赤くなっていくいろは。ソファに連れていかれ、座らせられ、緑が隣に座る。
そして、そのままいろはの肩を抱いて、いろはの髪が崩れないように、自身の膝の上にいろはの頭を置いた。
「え、みーくん?」
唐突に膝枕をされたため、嬉しいや恥ずかしい気持ちよりも疑問の方が先にでてきた。
「なにか悩んでるからな、寝ればスッキリするだろう」
と、緑は、いろはを優しげな目で見つめていろはの髪をゆっくりと撫で始めた。
「……ぁ」
「今はゆっくり………おやすみ、いろは」
赤子をあやすように、大事に大事に撫でられ始めたいろはは、次第に眠気を感じ始めた。
(これ……眠く……)
頭を撫でられ30秒、いろはは眠りに落ちた。
「………一応、二人が何してるのかこっそり見るためにこそこそ帰ってきたけど……」
買い物から帰ってきた翔太と美咲は、ゆっくりとリビングに繋がるドアを開けて二人を覗き込んだ。
「えぇ、ゆっくり入って正解だったわね」
二人の視界の先には、膝で寝ているいろはを優しく撫でている緑の姿。
「………絵になってんなぁ」
「えぇ」
「んんっ……」
膝の上で身動ぎをとるいろは。ころん、と仰向けから横になり、きゅっ、と無意識のうちに緑の服を掴んみ、いろはの顔が笑顔になった。
「えへへ……みーくん」
「……ったく」
寝言で緑の名を呼ぶと、緑の顔がさらに優しくなり、そのままいろはの頭を撫で始めた。
「………はよ付き合わんかなあいつら」
「それなら、早く緑くんの気持ちを自覚させないとね」
翔太と美咲は顔を見合わせると、ゆっくりとリビングへと入っていった。
「緑」
「翔太」
緑がいろはの頭を撫でている逆の手で、唇を人差し指を当てるジェスチャーをする。 もちろん、静かにする予定だったので、翔太は黙って頷いた。




