一話
ピピピピピピ………。
とある一室に目覚まし時計の音が響き、数秒した後に、その音が消され、その音に起こされた部屋の主が体を起こした。
「ふわぁ……」
白石緑、16歳。つい先日に高校二年生へと上がったばかりである。
まだ太陽が姿を表したばかりの時間帯に、緑はノロノロとベッドから降り、寝ぼけ眼のまま制服へと着替える。
(…眠い)
両親の仕事が忙しくなってから三年。早起きには慣れたものの、眠いものは眠いのである。
着替えが終わり、洗面所へ行き、さっと顔を洗い、洗濯機から洗濯物を取り出し、カゴへ入れ、リビングへ行く。
カーテンを開けると、まだ出始めの太陽がリビングを照らす。その眩しさを1度目に入れてからキッチンの方へ向かう。
冷蔵庫から卵を2つと、ベーコン、プチトマトを取り出してから仕事へ向かう両親のために朝ごはんを作るのと同時並行で、弁当も作っておく。
昔から、緑は家事が好きだったため、家事の腕だけは、二人いる幼馴染達に唯一勝てる分野である。一度、幼馴染である槙野いろはと料理戦争が起きたことがあったが、料理を作る当の本人達以外の外野がなんか無駄に盛り上がり、緑といろははのんびりと食べていた。
ちなみに、軍配は緑に上がったらしく、その結果を知ったいろはは少し残念そうだった。
(………ん?父さんたちが起きたか)
上からガソゴソと音がし始めたので、両親達が目を覚ましたのだろう。フライパンでスクランブルエッグを作りながら、プチトマトを皿に並べる。
卵の美味しそうな匂いが、緑の空腹を刺激するが、まだまだ我慢し、とりあえず両親の分は出来上がったので、皿に盛り付けた。
ランチョンマットを敷き、その上に両親の朝ごはんを置いてから、リビングに置いてあった洗濯カゴを持ってから中庭へ向かう。
「よい……しょ」
せっせ、せっせと洗濯物を干していく緑。半分くらい洗濯カゴに入っている物が干されていった時に、緑の視界に見慣れた髪色が視界に入った。
「みーくん!」
そう、幼馴染の登場である。
緑のことを『みーくん』という愛称で呼び、あからさまに緑への好意を隠そうともしない少女の名前は、槙野いろはである。
亜麻色の髪に、少し茶色がかった瞳。どことなく守りたくなるような保護欲を引き出す可憐な少女である。
「おはよういろは」
「うん!おはよう!」
元気いっぱいの姿を見て、あぁ、今日も一日が始まるなーとぼんやりと思う緑。その時、玄関のドアが開き、緑の両親が出できた。
「緑、父さんたち行ってくるからなー、いろはちゃんもおはよう」
「おう、はよ行け」
「おはようございます、それと行ってらっしゃい」
ブンブンと態々こちらに向かって手を振ってくる父を顎ではよ行けと急かす。
二人で緑の両親を見送った後に、今度はいろはが玄関へと向かった。
「それじゃあ、朝ごはん作ってるね」
「おう、よろしく」
家の中へ入っていくいろはを見送り、無意識のうちに、先程よりも早いペースで洗濯物を干していく緑。
(……これは翔太のか……混じってんな。まぁいいけど)
もう一人の幼馴染の洗濯物が混じっているのも気にしないで、そのまま靴下を物干し竿に干していく。
「よし、終わり」
一度体を軽くほぐしてから洗濯カゴを持ってからリビングへと入った。
「んっ……」
リビングに入った瞬間、緑の食欲を刺激する匂いが、鼻腔を擽る。ぐぎゅるる……と、緑のお腹から音が響くと、いろはが緑に向かって笑顔を浮かべた。
「あ、みーくん!もうちょっとでできるから待っててね」
「………おう」
ピンク色のエプロンを身につけたいろはを見て、胸がくすぐられるような思いをしながら、テーブルへ向かう。その瞳は、自然といろはへ吸い寄せられている。
(……可愛いよな、ほんと)
中学から、急に綺麗になったいろは。そんな昔、よく翔太とともに告白現場を見張っていたものである。殆どが先輩からだったので、振られて逆上した先輩をシメーーーーー追い払うためにいつも見守っていた。
ピンポーン、ともう一人の来客を告げる音がする。料理を作るいらはを横目に、玄関へと向かう緑。ドアを開けると、いつも通り見慣れた顔がそこにはいた。
「よぉ!緑!おはよう!」
「おう、おはよう。入れ入れ。もういろはが飯作ってるから」
「お、そうか。そりゃあ、美味いだろうな」
進藤翔太。別名、バレーバカ。身長は180後半という、高い身長。鍛え上げられた体。そこそこに整えられたルックス。
そのバレーセンスは全国でもトップレベルであり、ユースに選ばれた若きホープである。
ちなみに、まだ時刻は五時半である。こんな早い時間に幼馴染三人が揃った。
「おはよういろは」
「あ、おはよう!翔太くん!もうすぐできるから、座って待っててね」
「じゃあ、俺はコーヒー入れるわ」
「お、さんきゅー二人とも」
戸棚からインスタントコーヒーを取り、殆ど翔太用になっているコーヒーカップを取り、コーヒーを作っていく。
(……………いやー、やっぱアイツら並んだらすげー似合うよなー)
いろはに隣に立ち、笑顔で会話を弾ませる二人を見て、翔太は思う。
(………なーんであいつら付き合ってねーんだろーなー。まぁ緑が自分の気持ちに気づいてないだけだが)
はぁ、と二人に気づかれないように息を吐いた翔太。そこにコーヒーを入れ終わった緑がやってきた。
「ほい、いつものブラック」
「さんきゅー」
とは言っても、直ぐに翔太はコーヒーを飲む訳では無い。どちらかと言うと、コーヒーは苦手な部類に入るがーーーーーーー
「はい、みーくん。あーん」
「あー……」
三人揃ってテーブルを囲み、緑の隣にいろは、緑の真正面に翔太がいる配置なのだが、この無意識(いろはは意図的)にイチャつく二人を目の前で見ているため、砂糖が使われてないはずの料理を食べていても、妙に口の中が甘ったらしく感じる。
(まぁ、もう慣れたが)
ズズズ……と、呑気に目の前でコーヒーを飲んでいく。
(………にげぇ)
しかし、苦手である。
朝ごはんが終わり、皿洗いでも無意識にいちゃついていく二人。朝から二杯目のコーヒーを翔太は飲んでいた。
「今日は朝練なしなのか?」
「おう、キャプテンが大会前だからあんまり無理はさせられねぇと。だから放課後も今日はいつもよりも早く終わる」
いつもだったら、バレーの朝練のため緑といろはよりも早く家を出る翔太。今日はいつもよりもゆったりとしていた。
「でも、どうせ夜にみーくんとやるんでしょ?」
「当たり前だろ」
「おい」
何が当たり前か、と思いながら翔太を気持ち睨む緑。翔太と緑は家同士が隣なため、夜にしょっちゅうバレーの練習をしていた。
「なにナチュラルに巻き込んでる」
「とか言いながら、するんだろ?もー、緑はツンデレさんなんだから」
と、どこかおかま口調になって言う翔太。緑は体に鳥肌が立ったのを感じた。
「本当にしねーぞ。てかその口調気持ちわりぃ……」
「冗談でございますみーくん様」
「よし、弁当取り上げな。いろは、そこにある翔太の弁当。全て皿に戻して冷蔵庫入れて」
「待て待て待て待て!それは冗談抜きで本気で待て!」
「あははははは!!」
いろはが笑い、その後から言い合っていた翔太と緑も自然と笑みを浮かべ、声に出して笑った。
「はは……ふぅ、笑った笑った」
最終的に腹を抱え笑っていた翔太。笑いすぎて涙が出ていたのを指の腹で掬ったあとに緑を見た。
「………なぁ、お前マジでバレー部はいんねぇ?」
「………お前」
ここ半年くらい、前よりかは頻繁にバレー部へ誘われる緑。
「そもそも、俺あんま上手くねぇだろ?」
「セッターくらいならやれそうじゃね?」
「それこそ無理無理」
手を横に振り、苦笑いをしながら否定する。
「それに、バレーはお前とやるから楽しいんだよ。そのくらい察せあほ…………」
なんだか照れくさくなり、頬をポリポリとかく緑。その言葉を聞いた翔太は、ポカーンとした顔になったが、次の瞬間には、その顔をにやにや顔に変えていった。
「……へー?」
「……おい、なんだしの気持ち悪い顔は」
「へー?……へー?」
「おい、マジでやめろ」
「そっかー、そう思ってんならしょうがねぇなー」
ニヤニヤと笑う翔太。顔を顰める緑。しかし、翔太のこのニヤニヤも照れ隠しである。
「……はぁ、今日の夜、付き合ってやるから……大会、勝てよ?負けたら焼肉な」
「任せな!俺は緑といろはが応援に来た試合は負けたことねぇんだ!」
ドン!と胸を叩き、自信に満ち溢れた顔をする。
「お、そうか。それなら期待しないで焼肉待っとくわ」
「そこは俺の勝利を期待しとくって言うところだろー!」
「二人とも!そろそろ行くよー!」
じゃれあっている二人の背中を押して、玄関へと向かう三人。靴を履き、とんとん、と爪先で地面を叩いてから靴をきちんと履いた。
「よし、んじゃ行くか」
こうして、今日もいつも通りの日常を送る。
面白かった!続きが気になる!早く二人のイチャイチャを……!と、思った方はぜひぜひブックマーク、そして評価ポイントをポチポチっとよろしくお願いします!
たくさん付けば、出版社からお声がかかります。多分。美少女文庫なら多分行ける。