十六話
誕生日迎えました
ゴールデンウィークを目の前にした4月の下旬。緑は父である翔に呼び出され、現在リビングにて父のセリフを待っていた。
何故かゲン〇ウポーズで待ち構えていた父の姿に少しだけ動揺を隠せなかった緑だが、物々しい雰囲気の割に、言い出したセリフのバランスが取れていなかったことかはずっこける事となった。
「旅行行ってくる」
「………………はぁ?」
何やら社員旅行でゴールデンウィークはずっと沖縄にいるのだとかなんとか。もちろん嘘である。
「みんなさえ良ければ、ここでお泊まりでもするといい」
「ーーーーと、言うことを昨日父さんに言われた」
ゴールデンウィーク二日前。いつも通りに中庭のテーブルにて席を囲んでいる翔太といろはに翔に提案されたことを話した。
もちろん、翔太の差し金である。
「わぁ……お泊まり!」
「へぇ、いいじゃん。緑の家に行くのは毎日だけど、泊まるのは久しぶりだな」
と、目を輝かせながら言ういろはと、心中にて翔にグッ!と親指を立てた翔太。
「みさきちゃんも呼んでいいって」
「OK。後で連絡しとくわ」
ちなみにだが、既に了承は得ている。
「みーくん!みーくん!ぱ、パジャマとか……その、何か要望とかある?」
「?いろはは何着ても可愛いだろ?」
「みゅっ!?」
(おーおーやっとるやっとる……)
こうして、緑の家でのお泊まり会が始まるのである。
翔太達の思惑として、このお泊まり会で出来れば、いろはへの好意に気づく、あるいはいろはへの気持ちが変化してくれればいいと願っている。
果てして、決戦となるのか。それともーーーー
「今日からお泊まり会だーー!!」
「女子か」
もはや目的など忘れているかのようにはしゃぐ翔太。そのテンションは女子にも負けず劣らない。
「おじゃましまーす!」
「邪魔するなら帰ってー」
と、どこかの新喜劇で見た子のあるやり取り。どうやら女性陣二人の方もはっちゃけているらしい。
ゴールデンウィーク初日。朝の10時に緑の家へ集まった四人は、四人中三人がはっちゃけている状態から始まった。
「ところで、お泊まり会ってなにするの?」
「「「…………………………」」」
いろはのつぶやきに誰も答えることは出来なかった。
「………そういや……何すればいいのかわかんねぇな」
「別に今まで通りでいいんじゃね?ゲーム取ってくる」
と、緑が2階へ上がって行ったタイミングで、翔太と美咲といろはが作戦会議をした。
「いいかいろは、このお泊まり会は緑のお父さんの協力あってこそだ………」
「いい?いろはちゃん。ここで決める気でいくのよ積極的に行きなさい」
「う、うん………頑張る……!」
こうして、いろはが決意した。
緑が取ってきたのは、一般的な家にならどこにでもある、家族で楽しめるBiiという二世代前のゲーム機である。
最新機器もあるにはあるのだが、やはり緑はこの時代のゲームをやることが多い。
「んじゃやるか。基本操作とか大丈夫?」
「おう。久々だけど大丈夫だろ」
「私は……ちょっと自信ないかなぁ」
「問題ないわ。ちゃんと昨日やってきた」
答えは三者三様。ただ一人、美咲はガチ勢である。
とりあえずこの四人で遊ぶ時に大抵最初に遊ぶのは、『大乱闘スティックブラザーズ』という、棒人間が個人、又はチームで戦うゲームである。
シンプル。故に面白いという人気から、累計販売台数5000万本という異様な売上を残した。その人気さから、新ハードが出る度にスティックブラザーズは開発されている。
「それじゃあ、最下位は罰ゲームな」
「あんま無理難題はやめろよ」
「分かってる。常識の範囲内だよ」
決戦の火蓋は叩き落とされた。
棒人間が扱える武器は八種類あり、剣、槍、杖、銃、刀、盾、弓、素手である。
そして、初戦の一位は………。
「……つ、強え……」
「美咲ちゃん………」
「容赦なさすぎだろ……」
「まぁ当然ね」
一位は美咲、そしてビリは美咲が執拗に狙い続けた翔太である。
「それじゃあ罰ゲームよ。ほら、来なさい翔太」
「はっ!?ちょ!?おまっ!!一体何するつもりだ!?」
「そりゃあ………」
と、美咲は顔を赤く染めると………。
「翔太と、イケナイ事に決まってるでしょ?」
「み、緑ーーー!?」
なにか危機を感じた翔太は、緑に助けを求めたがーーーー
「さて、いろは。飲み物何がいい?」
「あ、じゃあホットミルクでお願い」
「はいよー」
「緑ぃぃぃぃ!!!????」
あぁなった美咲は止められないと知っているため、緑といろはは完全無視という形をとった。
「緑くん、ちょっと物置部屋借りるわね」
「おー、何するかは知らんけど荒らすなよー」
「お、おい!待て!?美咲!お前!目的のことーーーー」
バタン!と無常にもリビングのドアは閉じられた。
「…………さて、みさきちゃん達が戻ってくるまでに練習しようか」
「うん………大音量でしようね」
30分後。戻ってきた翔太はどことなくやつれていたとさ。




