十四話
ガチャり。
「「!?」」
緑といろはが、突然響く鍵が閉められた音に反応する。
この倉庫は、中に鍵が着いていない構造であり、人がいる時はしっかりとドアを開けて人が居ますよアピールをしている。
しかし、緑といろはがいたのはちょうど扉から見て死角。二人の存在に気づくことなく、見回りに来ていた教師は鍵を閉めてしまった。
「ま、まじか………」
緑が急いでドアに近づき、一応だがドンドン!と強く扉を叩くが、このドアはあまり叩いても音が鳴る素材ではなかった。
実はこの体育倉庫。去年だが翔太が閉じ込められ、誰かが気づくまでずっと中にいたという事件があり、午前中はずっとそこに閉じ込められていた。
もちろん、緑といろはも休み時間に探しまくったが、タイミング悪く、翔太の姿を見ていなかったのが不幸だった。
(まさか翔太の二の舞になるとはな………)
この時、誤って扉の鍵を閉めてしまったのは、結構なお年である事務の森繁先生という教師である。
響かないと分かっていても、忘れずにドアを叩き続ける緑。このまま待っていても、戻ってきてないと気づいたクラスメートや翔太がここに来るだろうが、早めに出れるに越したことはない。
だって、いろはが怖がっているから。
(………ぶち破るか?)
すぅ……と目を細める緑。しかし、辞めた。
なぜなら、緑の手に震えているいろはの手が触れたから。
「みーくん……」
揺れている。彼女の体温はしっかりと暖かいが、その瞳は不安で揺れている。緑は、すぐさまいろはの体を抱きしめた。
「大丈夫」
ゆっくりと、落ち着かせるように背中と頭を撫でる。
「大丈夫。もうすぐ授業は始まってる。だからもうすぐ翔太かクラスメートが来るから……」
「……うん」
弱々しく腕の中で呟く、いろはに緑は過去のいろはを幻視した。
それは、中学一年生の時である。
梅雨、梅雨前線が日本列島を覆い、雨の日が異様に多くなる季節。
昔から、いろはは雷が苦手で、雷の日は決まって緑の家にお邪魔していた。
「みゅ!?」
雷が鳴る度に、強く緑を抱きしめるいろは。緑と、いろはを落ち着けるために負けじと、強く抱きしめる。
「大丈夫………」
腕の中でぐすぐす泣いていたいろはを、こうして慰めていたものである。
現在は克服ーーーとまでは行かないが、緑の袖をギュッと握る程度までは頑張った。可愛い。
(………あっ)
いろはが気づく。それは緑の撫で方に多少の変化があったから。
(………これ、あの時と同じ……)
いろはのためだけに、いろはのことを思って撫でる緑。
果たしてこれは、昔からいる幼馴染のためだけを思っているのか、それともーーーー
「緑ー!!いろはー!!大丈夫か!?」
「どわっ!?」
「キャー!!!」
めちゃくちゃいい感じの雰囲気が闖入者が乱入した。その答えは翔太。去年と同じように閉じ込められているかもという嫌な経験から、事務室からマスターキーを借りてすっ飛んできた。
急な音と、声にビビったいろはが、さらに勢いよく緑に抱きつく。流石の緑も急な判断ができず、いろはを受け止めきれなくてそのまま地面にしりもちを着いた。
はたから見たら、いろはが緑を押し倒しているという状況である。
「っ!悲鳴!待ってろ!今鍵開けるから!」
「ちょ!待って!翔太くーーー」
バァン!と勢いよく扉が開かれる。そこに居たのは、ゼェゼェと息切れしている翔大の姿。どれだけ焦っていたのかが見て分かる。
「緑!いろは!大丈夫かーーーーーあっ?」
「あ……」
「いつつ……」
翔太の目線からは、どう頑張ってみても、いろはが緑を押し倒しているという構図にしか見えない。それに気づいた翔太の顔が急にニヤニヤとした顔つきになった。
「おいおいいろはさんよ……流石に俺もそこまで積極的だとはーーー」
「違うもん!」
「ぶへ!!」
パァン!と綺麗な平手が翔太のほっぺたに入った。
その後、帰ってきた緑、いろは、そして翔太だが、クラスメート全員が何故か翔太の頬に着いていたもみじについて謎を覚えるのだった………。
「………痛てぇ」
「……大丈夫か?」
もみじの頬を擦りながら呟く翔太。今日はいろはが「友達と食べるもん!」という言葉を翔太に向かって言ったため、今日は野郎二人で中庭のテーブルで食べている。
ちなみに、緑がは何故翔太がビンタされたか理由は知らないが、まぁなんかやらかしたんだろうという認識である。
(……そういえば、なんか翔太と二人っていうのも久しぶりだな………)
「緑はーーーー」
「ん?」
名前を呼ばれたので、緑が翔太の方へ顔を向ける。そこには、真剣な表情をした翔太がいた。
「緑は、いろはと二人でいて、何か感じたか?」
そう言われ、考え始める緑。あの時思ったことは、いろはを安心させないといけないこと、そしてーーーー
「……護らなきゃって思ったよ」
口を開けば、自然と出てくる問いの答え。
「……そうか、その気持ち、しっかりと覚えとけよ。いつか、その正体が分かる日が来る」
「いつか………ねぇ」
その日は、遠いのか近いのか。それは分からない。
ただ一つ、分かったことがあるのならば、緑の気持ち………無意識に蓋をしていた部分から、とある感情が1粒、零れ落ちた。




